冒険者を雇う
子どもたちが今まであったことをクレイトさんに報告してる。
まるでクレイトさんはたまに見回りに来る園長さんといった感じだ。
まああまり違ってはいないけどさ。
「ところでアレックスくんはどこですか?」
「アレックスさんなら門を守ってるよ」
子どもの一人が教えてくれる。
「そうか、ありがとう。ちょっとアレックスくんと話ししてくるよ。ユーリアは皆と遊んでおいで。リュウトはついてきてほしい」
「はーい」
「はい、分かりました」
ユーリアはしっかりしてるけど、俺の元の世界ならまだ遊ぶのが仕事って年齢だしな。たまには同年代と遊ぶ方がいいよな。
『まあ、そういうことだね。君には僕の代わりを務められるようになってほしい』
ええー、クレイトさんの代わりなんて不可能ですよ。
『能力面では確かに無理だろうが、役割だよ』
あ、はい。
無理なのは知ってたけど正面切って無理と言われてしまった。
まあ魔力無尽蔵何百年も存在してる人と同じ能力とか無理に決まってるけどな。
けど役割ならできないこともないはず。
しっかり参考にさせてもらわないと。
玄関から出て門の方を見てみると、確かに武装したアレックスさんが立っていた。
近寄る前にアレックスさんは後ろに気づいて挨拶してきた。
「クレイトさんにリュウトさん、こんにちは」
「こんにちは、アレックスくん、どうだい、ここの生活には慣れたかい?」
「はい、おかげさまで平和な日々をおくらせてもらっております」
「ロメイくんの体調は大丈夫かな?」
「はい、これもおかげさまで何の不調もなく暮らせています」
「そうか、良かった。ところで少し聞きたいことがあってね」
「はい、なんでしょう?」
「君たちの代わりになるようなお勧めの冒険者パーティーにあてはないかな?」
「私たちの代わり、ですか。小屋までの輸送任務ですか?」
「それに加えてエテルナ・ヌイにも生活拠点を作ろうと思ってね」
「なるほど、それでしたら冒険者ギルドに行った方がはやいかもしれませんね。私なら顔が利くと思いますし、クレイトさんも評判高いと思いますので、適切なパーティーを紹介してくれると思いますよ。私もご同行しましょうか?」
「それがいいか。お願いするよ」
「では少々お待ちください。モーガンと交代してもらいますので」
アレックスさんが屋敷の方へかけていった。しばらくして武装したモーガンさんを連れて戻ってきた。
「お待たせしました。では参りましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
俺たちはアレックスさんの先導で冒険者ギルドへ行くことにした。
冒険者ギルドか、存在していることは聞いてたけど、どんなところなんだろう?
屋敷より下にあるらしく階段を降りていく。アレックスさんが入っていったのは思ったよりこぢんまりとした建物だった。アレックスさんについて入っていく。
中はどうも酒場のような雰囲気だった。冒険者っぽい何人かがすでに盛り上がっている。
しかしたぶん普通の酒場と違うのは入口付近に受付の人がいるブースがあることと大きな掲示板があることかな。
「よおアレックスじゃないか。引退したと聞いていたが今日は何の用だい?」
「今日は依頼人の案内さ。冒険者を雇いたいんでね」
受付の人とアレックスさんが親しげに話を進めている。こういうところの受付ってゲームとかだと女性だったりするんだけど普通におじさんだな。
「どんな案件だい?」
「ああ、エテルナ・ヌイまでの護衛任務だね。あと到着後の荷下ろしも頼みたい」
「エテルナ・ヌイだって? もしかするとあんたがクレイトさんかい?」
「ええ、クレイトですが」
「おお、あんたの噂は最近よく聞くようになった。今後はうちを通してくれるのかい。ありがたいねぇ」
「ちなみにどんな噂なんですか?」
「ん? エテルナ・ヌイを掃討して墓場を作ったとか、異様に金払いがいいとか聞いてるぜ。ああ、あとスライムを元気にしてくれたとかだな」
「はははっ、まあ間違ってはいないようで良かったです」
「最初のご利用だから一応説明しておくぜ。うちのギルドは依頼者と冒険者たちとのマッチングを行うだけだ。申し訳ねぇが依頼成功の保証は出来ない。でもまあ高難易度でもなければ失敗とかほとんどないけどな。そのためのマッチングだし。うちに収めてもらうのは冒険者に払う報酬の一割だ。すなわち1ゴールドで依頼したら10シルバーをギルドが取り、90シルバーが冒険者のものになる。依頼者向けはそんなところだな。他にも冒険者に向けたサービスをやっている。素材の買い取りとかだな」
「ほう、例えば魔晶石なんかも買い取ってくれるのですか?」
「ああ、魔晶石ならいくらでもほしいぐらいだ。そういやクレイトさんは大魔法使いだと聞いてたな。余っているのかい?」
「ええ、まあ……」
「もし余ってるならいくらでも買い取るぜ。冒険者登録をしてもらえればな。あーもちろんギルドの金がある限り、だがな。うちは貧乏なんでな」
「冒険者登録ですか。何か義務とかあるんですか?」
「いや、騒動を起こさないとか基本的なものだけだ。あー登録料と年会費がかかるがな」
「売る時に考えますよ。依頼の方はどうなりますか?」
「ああ、出発したい日はいつぐらいだい?」
「明後日ぐらいを考えています」
「なら即時みたいなものだな。心当たりはあるが何人ぐらいほしいんだい?」
「五人ぐらいですかね」
「分かった。一人あたりいくら出す?」
「そうですね、1ゴールドでどうですか?」
「こりゃ噂通りだな! それだと相場より高いがいいのかい?」
「ええ、そのかわり信用できる人に頼みたいです」
「アレックスたちが現役だったら黄昏の漂流者に頼むんだがな。ちょっと待ってくれ。今依頼を受けてないかどうか調べるから」
受付の人が奥に入っていってしまった。
「あれ、クレイトさんにリュウトさんじゃないですか? どしたんすか、こんなところで?」
不意に声をかけられた。入り口に立っていたのは以前エテルナ・ヌイまで護衛してくれたジェイクさんだった。
「ああ、これはよいところに。ジェイクさん今依頼受けてます?」
「ん? いや依頼を探しに来たんだが……」
「それはちょうどいい。今探しているところだったんですよ。クレイトさん、ジェイクさんでいいですよね?」
「もちろんだとも、ジェイクさんなら申し分ない」
「???」
ジェイクさんは何の話だ?と言った顔で立ち尽くしている。
説明してないんだから分かるはずもないよね。
「またエテルナ・ヌイに行くことになりましてね。護衛を探していたんですよ。その点ジェイクさんなら経験者ですし、お願いしたいなと」
「おー、ちょうど探そうとしてたところだし、もちろんいいぜ。クレイトさんの依頼なら美味しいだろうしな」
「お、ジェイクじゃねぇか。ちょうどいい、もう話は聞いたか?」
「ああ、おっちゃん、俺は直接雇用になるぜ、申し訳ないがギルドには一カッパーも入らねぇぜ」
「仕方ねぇよ。お前さんの日頃の行いが良かったんだろうよ」
奥から戻ってきた受付のおじさんがジェイクと話をする。
「お待たせしました、クレイトさん。ジェイクの野郎も候補に入ってたんですが一足早かったようで」
「都合悪かったかい?」
「都合悪いといえばそうですが、ジェイクだけじゃ足らないでしょう。その分で十分ですよ」
話が分かる人でよかった。
「それでなんですが、今いるはずの奴らの中でお勧めはシャイニングホライズンか疾風の玄狼ですかね。どちらがいいですかね?」