幽霊
この世界へきてから三日目の朝食は硬いパンと干し肉、トマトっぽい果実だった。昨日に出たスープにも入ってたけどどうやって保存してるんだろうか。冷蔵庫がわりのものがあるのかな。
これらを自分で作り出した水で流し込んだ。同じものを食べ続ける耐性、連食耐性は高いと思っていたが、これはちょっときついかも。
ジャンクフードになれてるから味が薄く平坦で単調に感じるせいかな? それとももはや別の何かにすら感じるレベルで硬いパンのせいか?
向こうの世界では簡単な料理ぐらいは作れたから今度手伝ってみるか。
あー、でも食材がやばそうだよなぁ。今までのラインナップを見ても。
そのへんも改善できそうならしたいな。クレイトさんには実感がないからわからないんだろうけど、ユーリアにはちゃんとしたものを食べてもらいたいしな。
こっちの基準は知らないけど、俺の世界の基準では食べ盛りの子が満足できるものじゃないし。
さて、今日はこれからユーリアについて行って見回りをするんだったな。
あ、クレイトさんもついてくるんですか? それはよかった。人見知りが激しいのかユーリアは一人でこちらに関わってくることはなかったからなぁ。
まあ文字通り湧いて出た異世界の異性の大人だしな。警戒されてても仕方ない。
小屋から三人で出発して荒野に見える方向へ歩いていく。道中にはまばらに木が生えているのと、何度も歩いているからの獣道みたいに見える道が続いているだけ。その道にそって歩いていく。
辺りは静まり返っており、鳥の鳴き声一つ聞こえてこない。えらく寂しいところだな、というのが率直な感想だ。
しばらく自分たちの足音だけを聞きながら歩いていると、小高い丘が見えてきた。そこにはどうも建物があるように見える。ここが目的地だろうか。
先導していたクレイトさんが振り返った。
「もうすぐ到着だよ、リュウトくん。言うのを忘れていたが向こうであった人には、君はうちの居候でユーリアの護衛というかお付きをしている、ということにでもしておいてくれ。とりあえずだけどね」
「え、あ、はい。居候なのは事実ですし、護衛になるかは分かりませんがお付きみたいなものですから、分かりました」
「本当に助かるよ。君の世界の人は素直なのか、君自身が素直なのか。……こっちでは身分だの立場だのうるさいのが多くてね……」
「いやぁ、自分が素直とも思えませんが、こっちの世界だってうるさいのはうるさいですよ」
「リュウトさん、私のお付きなの?」
驚きの顔でユーリアはクレイトさんと俺の顔を交互に見る。
「ああ、そういうことになった。なんなりと命令を、ユーリアお嬢様」
俺がおどけてかしこまった礼をしてみる。ユーリアは冗談であると受け止めなかったようで、困った顔でクレイトさんの方を見た。
しまった、まだ距離が縮まっていないのに、ちょっとやりすぎたか。
「リュウトくんはおどけてみせてくれているが、そういうことにしておいたほうがなにかと説明が楽だから、そういうことにしておいておくれ、ユーリア」
クレイトさんがとりなしてくれる。
「うん、分かった! けどリュウト、お嬢様だけはやめて! 呼び捨てでいいから! 敬語もいらないから!」
俺もクレイトさんの方を見る。こっちの常識を思い出してはいるが自分の経験ではなく本で読んだかのような知識なのであまり頼りにしたくなかったからクレイトさんに判断を頼んだ。
「どう見てもリュウトくんの方が年上だからそれで大丈夫だよ」
「ああ、わかったよ、ユーリア」
グッと親指を立てて答える。ユーリアも同じように握りこぶしに親指を立てて返してきた。ボディーランゲージも有効である。本当に日本語圏なんだよなぁ。このボディーランゲージが日本発祥のものではないことは関係ないのだろう。
そんな話をしながら丘を登っていった。門と壁が見えてきた。……城塞都市? その割にはぼろぼろだけど。
門は破壊されたかのようにぼろぼろで開いていた。しかしその門の両側に石でできた人型が立っていた。これってもしかして……。
「クレイトさん、あれ、ゴーレムですか?」
「リュウトくん、それは体が覚えていたという知識かい? それとも元からの、君自身にあった知識かい?」
そう問われて、よく考えてみた。確かに体に残っていた?覚えていた知識にもゴーレムはあった。が、今回の判断は普通に元からあった俺自身が持っている、ゲームからの知識だ。
「どっちもありましたね。聞かれるまでは元からあった俺自身の知識だけだと思ってましたが」
「ふむむ、興味深いがまたあとで話をしようか」
「あ、はい」
クレイトさんを先頭に門の前までやってきた。クレイトさんの後ろにユーリア、その斜め後ろに俺という感じで並んでいる。
「ご苦労さま」
クレイトさんが挨拶として片手を軽く上げながらゴーレムに話しかける。今まで微動だにしなかったゴーレムが動き、それに返礼した。
「ドゥーア殿はおられるかな?」
ゴーレムがこちらを見て、目を光らせた、ように見えた。実際に光ったのかどうかは自信ない。
「それじゃ中の部屋で待っていていいかな?」
ゴーレムは答えず、頷いただけだった。首があまりないデザインなので体ごとって感じだったけど。
一体のゴーレムが前に進み出てきて、ついてくるように促した。
クレイトさんは一回大きくうなずいただけで門をくぐり始めた。ユーリアもそれに続いたので俺もついていく。見張っていたゴーレムは微動だにせず通してくれた。
壊れた門をくぐると、町があった。ただしどう見ても廃墟だ。建物はたくさんあるものの、一部は破壊されているし、無事と思われる建物も風化が激しく見えた。
ゴーレムの先導で歩いていくと、比較的状態がましと思われる建物の前でゴーレムは止まった。
入り口の前で頭を下げるゴーレム。
「ありがとう」
手をかざして労をねぎらうクレイトさん。……どう見ても俺の知ってるゴーレムではなさそうだった。
建物の中は真っ暗だったが、クレイトさんがライトの魔法を使って光る玉を生み出し、自分の周りに漂わせる。便利そうだ、使えそうならこれも教えてもらいたい。
クレイトさんは建物の構造を知っているようで大きな部屋まで来た。そこには大きなテーブルとたくさんの椅子が並べられていた。一部の椅子は壊れているように見えたが、だいたい使えそうだ。
テーブルは丈夫だったのかホコリが多少積もってる程度だ。
「適当に座ってくれ。じきに来るだろう」
クレイトさんはそう言いながら手近な椅子に腰掛ける。ならってユーリアも近くの椅子に飛び座った。少々彼女には大きかったようだ。俺も離れすぎない位置にある椅子に腰掛ける。
「お待たせいたしました、ユーリア様、クレイト様」
座ったと同時にテーブルの上に幽霊?!が現れ、クレイトさんとユーリアにうやうやしく頭を下げた。