償い
俺たちは行かなくていいかな、と思ったけどクレイトさんについてくるよう言われたのでユーリアと一緒についていった。
リザードマンたち三人は部屋の中で大人しくしていた。
クレイトさんが懐から肉の包みと木の実が入った壺を取り出す。
「君たちの好みは分からなかったから、適当に持ってきた。食べられるものであればいいんだが」
リザードマンがなにか言って肉の包みを解く。
包まれていたのは鳥肉だな。むねとももが6つづつあった。
よほどお腹が減っていたのだろう。
何かクレイトさんに言ってから肉を食べ始めた。
といってもほぼ丸呑みだったのであっという間に食べ終わったけど。木の実はなんだろ?
クルミっぽい? 硬そうな殻を割って食べ始めた。
『ごちそうだ、と言ってたよ』
食事が落ち着いたところでクレイトさんが切り出したようだ。とたんにリザードマンたちが木の実をおいて座る。
クレイトさんが入り口に向かって手招きをする。建物の外で控えていたグーファスとレミュエーラがリザードマンの前に立つ。
さすがのリザードマンの顔色も変わったように見えた。なんか威嚇音みたいなのを出してる人もいる。
しかし三人のリーダー格っぽいリザードマンはクレイトさんとなにか話をしている。
『復讐したいがグーファスとレミュエーラは僕たちの軍門に降っているから我慢する。何故なら俺たちも不本意でここに攻めたから同じことだと。しかしもうこちらに害をなさないという保証が欲しいと言われた』
保証かぁ。
口約束しか出来そうにないなぁ。え? それでいい?
強い俺たちが保証してくれれば信用する、と。
出来ればリザードマンの村との同盟も組んでほしい、と。
異種族だけど義理堅い人達っぽいし、いいんじゃないですか。
お互い不可侵の同盟を結びたい?
そんなの勝手にやっていいのかな?
村に帰ればたぶん次の長はあのリザードマン?
ならいいんじゃないですか。
結局グーファスとレミュエーラは俺たち預かりで不問となったようだ。
まあリザードマンとの同盟とかもいいかもね。少なくともあちら側から攻めてくることが減りそうだし。
『腹は満ちたし懸念はなくなったから村へ帰りたい、と言ってる』
いいんじゃないですか。リザードマンたちがここにいてもやることないだろうし、向こうのことをちゃんとしてもらったほうが良さそうだし。
「皆さんが使っていたと思う武器はあっちにありますから持っていってください」
武器を集めていた建物を指差し、言う。クレイトさんが翻訳してリザードマンへ伝えてくれる。
『ありがたい、感謝する、と言ってるよ』
リザードマンたちは自分たちの村へ帰っていった。
「さて、君たちの処遇を考えないとな」
グーファスとレミュエーラを見てクレイトさんが言う。
「人手が全く足りてなかったんだ。君たちにはここで墓守となってほしい」
「墓守、ですか?」
「ああ、そうだ。今までネクロマンサーの使いとしていろいろやってしまったんだろう? だからその逆を今後はやらないか? 死者を弔い、眠りを守る役目だ」
おお、とグーファスから声が漏れた。
「ただ、ここには今は人が暮らす準備が出来てないから、しばらくは不便かもしれない」
「その程度のことは我慢します」
「それと、君たちも知っていると思うが、ここには霊体のアンデッドが多数いる。が、彼らは仲間だ。仲良くしてやってくれ」
「はあ、確かにゴーストとかスペクターとか見かけましたが、意思疎通できるのですか?」
「あたいたちは無理やり習得させられたアニメイテッドデッドを使わされていただけで全然アンデッドのこと知らないんです」
「問題ない。彼らはしゃべれはしないがこちらの言葉は理解できる。身振り手振りなどでもやり取りできるし、なにより彼らとも私たちとも話ができる存在がいる」
そうか、この二人はドゥーアさんとは一度も会ってないのか。
「しばらく君たちの世話役となる存在だ。仲良くしてくれると嬉しい」
すぅっといつの間にかドゥーアさんが来ていた。
「レイスのドゥーアと申します。ユーリア様とクレイト様、リュウト様に従っておるものです」
ドゥーアさんがいつもの大仰な身振りで二人に挨拶する。
しかし挨拶に俺も入ってたぞ。
順位はもちろん一番下だけどさ。
まあその方がやりやすくなるしありがたいけど。
「ドゥーア殿、彼らは任せました。世話してやってください」
「分かりました。彼らも墓守でここに住む、でよろしいのですね。ついでに皆様の宿泊施設も準備いたします。家具とかは持ち込んでもらわないと無理ですが」
「あの……」
グーファスがその大きな体に見合わず小さく手を挙げる。
「俺、奴らに捕まるまでは鍛冶屋をやってましたので、環境さえ与えてくださったらそっち方面でもある程度なら力になれると思います……」
「あたいは何も出来ない……」
「心配するな、お前の分は俺が頑張る」
「おお、そうなのですか。ではここにも鍛冶屋はあったのでその施設も復旧させましょう。クレイト様……」
「ああ、鍛冶屋用の道具とかだね。どうせこちらでも暮らせるよう定期便を作らないといけないだろうし、元々小屋の定期便があったからね。そのへんうまくやってくるよ」
三人で小屋まで戻ってきた。もうお昼はとうにすぎ、もうすぐ夕方といった時間だ。
「今日は夕方になったら屋敷に行こうか。夕食は向こうで準備してもらうよ。昼はどうする?」
俺はまだあんまり腹は減ってないですけど、ユーリアはどうかな?
「私はちょっと減ったかな。けどこの時間に食べたら夜食べれないかも」
「よし、それじゃ軽いものを作ってあげるよ」
「わーい、ありがとー」
「では僕はちょっと部屋にこもるよ。夕方になったら屋敷に行くからそのつもりで」
「はい、わかりました」
昼飯にはチーズパンを作って二人で食べた。
チーズパンと言っても薄くスライスしたパンの上にマヨネーズを塗って削ったチーズをふりかけて、パンを焼いて溶かしただけのものだけどな。軽く塩もふりかけた。
夕方まで何しておこう。ユーリアはポーション作るらしい。
俺も何か生産系の何かがあればいいんだけどな。
とりあえず前に見ても良いと言われたモンスター辞典みたいな本を読むか。
それでハーピーの項目がないか探してみた。
あった。
やっぱりレミュエーラはハーピーじゃなさそうだな。
セイレーンはあるかな? セイレーンもあった。
ハーピーと間違えられやすいとか書いてるな。
楽器が得意なのか。今度覚えてたら何か楽器持っていこう。
読んでいるとすぐに時間が経ったようでクレイトさんが部屋から出てきた。
「それじゃ屋敷に行こうか」
自分の部屋でポーションを作っているユーリアを呼びに行って、三人で屋敷に行く。
いつもどおりジャービスさんが出迎えしてくれた。
「こちらは変わりありません」
「そうですか、逆にこちらは変わりそうですよ。また皆様の力を借りるかもしれません」
「どうかしましたか?」
「まあ、また話ししますよ。緊急ではないので」
「分かりました。食事の準備は今しておりますのでしばらくゆっくりとなさってください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
実際クレイトさんの部屋にはいくつかの家具が運び込まれていた。
「皆様の部屋もある程度形が出来ているはずです」
こっちは後回しで良かったのに。もしかすると他がもう整ったとか? だとしたら早いな。
皆で一階に降りていった。小さな子どもたちが走っていた。
「あ、クレイト様だー、こんにちは」
真っ先にこちらに気づいて挨拶してきたのはトーマだった。
「こんにちは」
クレイトさんにっこにこだ。確かにこの子たちの子どもらしいところなんて見たことなかった。
それが走り回って遊んでいるのは、確かに良い光景だ。
他の子だちも集まってきた。
クレイトさんに間違って触れないよう、俺とユーリアが壁になる。
『対策はしてるけど、これはいずれ触られそうだねぇ。もっと強力な対策を施して触れるようにしたほうがいいかもしれないな』
そうですね、事情を知っている俺らだけならなんとでもなったでしょうが、事情を知らない子どもたち相手では限度がありますしね。出来るのであればしていただいた方がいいとは思います。
『分かった。なんとか考えてみるよ』