戦後処理
「さて、次はリザードマンだが、食料を用意してあげないと無事に元の場所に戻ることもかなわないだろうし、また今度だね」
辺りでは今までの喧騒を無視してゴーレムたちが何かを拾い集めていた。生きていたオークやリザードマンが持っていた武器を回収しているようだ。
「なにかに使えるかもしれないと思って、集めてもらっているんだ。オークの武器はもう結構溜まってるし、何か使いみちを考えないとなぁ」
「ラカハイに持っていっても役に立たないでしょうしね。ここに鍛冶屋がいたらこの場で溶かして別のものにするとか出来るでしょうけど」
「なるほど。魔法で溶かしてアイアンゴーレムを作るというのはありかもね。ちょうどゴーレムを増やそうと言っていたところだし」
ふとクレイトさんがこちらを見て、なにかに気づいたような表情をする。
「僕は大丈夫だから今気づいたが、リュウトは寝なくて大丈夫なのかい」
ああ、さすが気遣いの人だ。
「ええ、戦いの興奮とポーションのおかげかまだ眠くないので大丈夫ですよ」
「そうか。でもユーリアもちゃんとしたところへ寝かせてあげたいし、連れて帰ってくれるかい? 僕はまだ居残りで後処理をするつもりだ。朝には帰るよ」
「あーそうですね、分かりました。ユーリアをおぶって帰りますよ」
「念の為ケリス殿を護衛につけるよ」
しばらくすると俺らのところにケリスさんがやってきた。
俺は未だに気絶したまんまのユーリアを背負って小屋に向かう。道中に逃げた巨人やハーピーが出てこないとも限らないしな。ケリスさんお願いします。
道中は何事もなく小屋に帰り着いた。
ユーリアをユーリアの部屋のベッドで寝かす。
小屋の入り口で立って見張っていたケリスさんに声をかけた。
「ありがとうございました。ユーリアは寝かせましたよ。ケリスさんも気を抜いてください」
「お気遣い感謝します。しかし我らもクレイト様同様寝なくても問題ないのでお気になさらず」
「そうなんですね。それじゃ申し訳ないけど俺も寝かせてもらいます」
「ええ、私は引き続き見張っておりますので、安心してお休みください」
小屋に着いた安心感のせいか急激に眠くなったので、遠慮せずに寝かせてもらった。
朝起きるとすでにクレイトさんが帰ってきていた。それにユーリアもすでに起きていた。
「おはよー」
「ああ、おはよう。どこも痛いとか苦しいとかないかい?」
「うん、大丈夫だよ!」
「それは良かった。クレイトさんエテルナ・ヌイはどうでしたか?」
「あれから特に何もなしだよ。スライムを活性化させてオークたちの武器を一部溶かしたところだね。リザードマンたちの食料を取りに行かないといけないから、戻ってきたんだよ」
あー、そういうのもあったな。もう結構太陽が高いし、少し寝過ごしたか。朝食用意しないと。
「朝食作ってあるから食べてねー」
あ、はい。そうですよねー。さすがユーリア。
「ありがとう、食べてくるよ」
「それじゃ僕は屋敷にちょっと行ってくるから、準備して待っておいてほしい」
「はい、分かりました」
朝食を食べて体を拭いた。昨日ハーピーにやられた箇所はもうどこをやられたか分からないぐらいに治っていた。ポーション様々だな。
しばらくしたらクレイトさんが屋敷から帰ってきたので三人でエテルナ・ヌイへ行く。
今日はドゥーアさんのお迎えが来た。
「お待ちしておりました、皆様。少々困ったことになっておりまして……我らでは解決し得ないことでして……」
歩きながら話を聞く。
「ともかく見れば分かることですので、こちらまでどうぞ」
ということらしいので付いて行く。
ついたのはネクロマンサーの男を監禁していた建物。中に入ってみると、逃げたはずの巨人とハーピーがそこで座っており、ケリスさんが立っていた。
俺とユーリアを見たハーピーは頭を下げてきた。なんだろう?
「俺たちは降伏します。降伏の理由も話します。話を聞いてください」
昨日戦った巨人だよな、この人。なんか昨日より縮んでる気がするんだけど。ハーピーは他のハーピーを見たことがないから見分けつかないけど、たぶん昨日のだし。
「分かった、話を聞こう。しかし嘘を看破する魔法を使わせてもらうよ」
そういってクレイトさんは呪文を唱えた。
「センスライ」
「俺たちにあなた方に対して敵意はありません。戦えと命令されたので戦っただけです。ガディス……歳をとった男のネクロマンサーに支配されていたのです」
『ここまでに嘘はないね』
「あたいもアビゲイルに命を握られていたんだ」
「ふむ、それで?」
「あなた方がガディスやアビゲイルを殺したんですよね? 支配が解けたので」
「私達が直接手をかけたわけじゃないですけどね。勝手に自滅したのですよ」
「それでも助かりました。命令されてとはいえあなた方に救いを求めるのは道理が通らないのは理解していますが、異種族には恨まれているし、かといってレミュエーラ、彼女はモンスターに分類されてるから人間の町にも近づけません」
「一つ聞いていいですか?」
「はい、答えられることなら」
「彼女、レミュエーラはハーピーなのですか? 私にはセイレーンに見えるのですが?」
ハーピー? のレミュエーラが思いっきり動揺していた。
「ええ? あたい小さい頃から支配されてたから他の仲間を見たこと無いんです。アビゲイルからはハーピーだと言われていました」
「ガディスもハーピーだと言っていました。俺はセイレーンを知らないし、レミュエーラ以外のハーピーを知りませんのでなんとも言えません」
「リザードマンもセイレーンは知らないでしょうし、知らなかったかわざとハーピー扱いだったのかもしれませんね」
確かに俺の知っているハーピーとは違った見た目だしな。
レミュエーラには人間の女性の上半身がある。
ちゃんと腕もあるのだ。
俺の知っているハーピーは顔と上半身だけが人間で腕はなく翼になっているはずだし、醜く不潔だとされていたはず。
しかしレミュエーラには背中に翼があるし、不潔ではなく人間部分は美しい部類に入ると思う。
あ、ちゃんと服は着てるぞ、念の為。
「まあ、それはいいでしょう。君たちはどうなりたいのですか?」
「俺がいた村は奴らに滅ぼされました。レミュエーラは元々どこにいたのかすら分かりません。帰る術も帰る場所もありません。それどころか生きる術すら俺たちは持っていません。あなた方にこんなことを頼むのは筋が違うと分かっていますがあなた方しか知らないんです。俺たちを生かせてほしい。そしてできれば命令とはいえ俺たちがやってきたことの償いもさせてほしい」
クレイトさんがレミュエーラを見る。
「あ、あたいも同じです。あたいはバカだから償いとかよくわからないけど、グーファスがそれがいいと言うなら」
『二人とも本心のようだ。僕は彼らを受け入れるつもりだけど、リュウトはいいかい?』
ええ、言ってたことに嘘がないなら同情できますしね。問題ありません。
「分かった。聞き届けよう。ただし、いくつか問題点があるからそれを解決してからだね」
グーファスを名乗った元巨人の目に希望の光が宿った気がした。今まではどんよりとしていたからな。
「問題点とは?」
「君たちの前に他のネクロマンサーが来てね。知っているかい?」
「ああ、ウォルトですね。ガディスの腰巾着だったネクロマンサーです。ここを攻める前に威力偵察だといって離れていったきり帰ってきませんでした」
「そいつはもうネクロマンシーを封じた上で飛ばしたから問題ないんだが、彼が連れてきたリザードマンを三人ほど捕まえていてね。君たちは彼らにも恨まれているんだろう?」
「はい、おそらく。ガディスたちは俺たちを使ってリザードマンの村を襲撃しましたので」
「君たちを生かすためには彼らから許しを得ないといけないだろう」
「そうですね。禍根を残してしまってはあなた方に迷惑をかけてしまう」
「だから彼らに懺悔してきてほしい。通訳は私がしよう」
「……分かりました。懺悔しただけで許してもらえるとは思えませんが、やらせてください。レミュエーラもいいな?」
「グーファスに任せる」