捕縛
「これは、思慮が足りなかったようで申し訳ありません。広場まで下がって迎え撃つでいいですか?」
「そうだね、それだけ下がれば相手も調子に乗って追撃をしかけてくるかもしれない。リュウト、ユーリア、ゴーレムたちを抜けて雑魚どもがこちらに殺到してくるかもしれない。自分の身は自分で守れるね?」
おおう、怖いことを言う。けどそのために訓練もしてきたんだし、ここで役立たずにどこで役に立つというのだ。
「うん、わたしは多分大丈夫」
「二人共よろしい。念の為ケリス殿もここにいてもらうけどね」
広場で警戒に当たっていたらしいケリスさんが義体でこちらに合流した。
「私がいるからには皆様には毛ほどの怪我もさせる気はありません。ただ無謀な突撃だけはやらないでくださいね。それはかばいきれない」
「突撃なんかしたくないです。むしろ魔法の固定砲台やります」
「ははっ、その方がいいかもね。剣はあくまで護身用ということで」
「わたしもそうしたほうがいい?」
「そうだね、ユーリアにもしものことがあったらたいへんだから、皆の周りにいるんだよ」
「わかりましたー」
ゴーレムに大量のゾンビがたかる。
大きな腕を振り回して吹き飛ばすものの、数が圧倒的だ。
横合いからスペクターがマジックミサイルで数を削っているものの、焼け石に水レベルの状況だった。
かといってこの混戦では範囲魔法や貫通魔法は味方を巻き込んでしまいそうだしな。
「浄化する?」
「いや、ゾンビごときにユーリアの力を使うのはもったいない。それにネクロマンサー共にユーリアの力に目をつけられても面倒だしね」
「はーい」
ユーリアはマジックミサイルを覚えていないので、俺が頑張るとしよう。
連続してマジックミサイルを詠唱してゾンビたちを吹き飛ばしていく。
……さすがに生きているやつと死んでいるやつだったら死んでいるやつのほうが吹き飛ばしやすい、精神的に。
左で踏ん張っていたゴーレムが破壊された。
破壊されたゴーレムからゴーストが出てくる。
脱出に成功した戦闘機パイロットといった感じだ。
ゴーストは慌てて下がって無事だが、左に穴が開いたのでそこからゾンビも生きているオークもリザードマンもこちらに殺到してくる。
こっちに殺到してきてくれてよかった。残っているゴーレムの後ろから攻撃されたら残ったゴーレムもただではすまなかった。
こちらに殺到しようとした奴らはスペクターとユーリアとドゥーアさんの範囲魔法や貫通魔法で一掃された。
こちらの一部が崩れたせいかかなり後方にいたはずのネクロマンサーがかなり近寄ってきていた。
「ほらお前ら、寝てんじゃねぇぞ! アニメイテッドデッド!」
ネクロマンサーは再びゾンビ化の魔法を使ったようだが、発動しない。
「あれ? なんで起き上がらないんだ? アニメイテッドデッド!」
何度も繰り返し使うが発動しない。
エテルナ・ヌイの敷地内ではユーリアの結界がはられているから、呪い付与系に分類されるゾンビ化の魔法は発動しない。
これがクレイトさんがゴーレムたちに下がらせた理由だ。
「え? これやばない?」
ようやくここではゾンビ化は出来ないと悟ったのかネクロマンサーが慌てだす。
「捕らえますか?」
「そうだね、ここで逃がすよりも捕らえたほうが釣れるかもね」
「分かりました。バインドしておきます」
ドゥーアさんが何かの魔法を唱えるとネクロマンサーの男が固まったかのように動かなくなった。
男の動きが止まったことで、まだ近くに居た護衛だったろう生きているリザードマンたちは降伏してきた。
ドゥーアさんだけなら逃げ出していただろうけど、こっちにも人間がいるってバレたからな。
「まあ、どうせ脅されていただけだろうし、降伏は受け入れるよ」
とりあえず3体のリザードマンは武装解除させて、付近の家に入れてクレイトさんに出入り口をロックしてもらった。
男は動けないままクレイトさんの懐から出てきた勝手に動く縄に縛られた。これで魔法が解けても逃げれないだろうし、魔法も使えないと思う。
そうこうしているうちにゴーレムやスペクターたちが残っていたゾンビをすべて破壊した。生きていたオークは皆逃げ出した。
「元ゾンビとはいえわりとグロいですね……」
人間ではない、と思いこんで直視を避けていたけどやっぱ取れた腕とか首とかはグロい。
元の俺のままだったら吐いていたかも。この体は慣れっこのようで助かった。けどどんな修羅場をくぐり抜けてたんだこの体。
「ゴーレムを一体破壊されてしまいました。申し訳ありません」
ドゥーアさんがクレイトさんに謝罪してる。それ謝ること?
「中のゴーストは無事なんだろう? ならいいさ。ゴーレム自体はまた作ればいい。というかこういうことがあるなら数も増やしたほうがいいかもしれないね」
「相手が数で押してくるとなると、そうですね。多方面からの攻撃に備えるなら今までの倍はほしいかもしれません」
「破壊された分を含めて五体か。さすがにすぐには無理だね」
「はい、中に入るゴーストの選抜もしなければいけませんので、徐々にでも増やしていただけると」
「そうだね、最近こういうことが多いし、僕もしばらくエテルナ・ヌイに通った方が良さそうだね。さて、そろそろバインドも解けるかな?」
ユーリアはクレイトさんの背後だけど、全員で男を囲んだ。男の背後にはケリスさんが立って男の行動を監視する。
男が動けるようになったようだ。びびりながらもこちらに怒鳴ってくる。
「な、なんなんだよ、お前らは? ここにはアンデッドしかいないって聞いてたぞ」
クレイトさんが進み出る。
「その様子だとろくに話も聞かなかったようですね。最近ここは僕たちが管理しているんですよ」
「お前らか? ゴールドマンの死体を持っていったのは」
「持っていった、は違いますね。僕たちは頼まれて運び込んだだけです」
「俺たちはあれが欲しいだけなんだよ。いいだろ?」
今こいつ、俺たち、って言ったぞ。
『言ったね、確定だ。こいつは雑魚だ』
「それは無理ですね。ゴールドマンさんはアンデッドにはなりたくないそうです」
「死んでからも役立てるんだ。いいじゃねぇか」
「よくありませんよ。ネクロマンサーと取引する者などいませんよ。特に僕たちみたいな墓守がね」
「墓守風情がなんでこんな戦力を持ってるんだよ」
「主にあなた方の様な者がいるからですよ。自業自得ですね」
「くそっ」
捕らえはしたけどどうしよう、こいつ。このまま逃がすのもあれだし、このまま殺すのも目覚めが悪そうだし。
『どうせこいつらは国に引き渡せば縛り首だけどね』
そうなんだ。ネクロマンサー自体が違法?
『まあそういうことだね。僕が生きていた頃はまだそうではなかったんだけど、暴れるやつが多すぎたんだ。いつからかネクロマンシーは使ってはだめ、研究もダメ、ネクロマンサーは人類の敵、やったら縛り首、となったんだ』
けど未だにいる?
『ああ、僕も含めて永遠の命には代えがたい魅力があるんだよ。まともにそこに至ったものはまだ居ないんだけどね』
しかしどうしよう、ほんとにこいつ。
「しばらく監禁しておきましょう。どうせ誰かが助けに来るでしょう」
「おう、そうだぜ。すぐに旦那たちがくるぜ。俺とは比較にならねぇ魔力の持ち主だ。命が惜しかったら俺を開放したほうがいいぜ」
調子にのってアホなことを言い出す。
「どうせ開放したって仕返しにくるんでしょ?」
「おう、よくわかってるじゃねぇか兄ちゃん。だからな開放しとけって」
「仕返しに来ると宣言されてなお開放する奴がいると思ってるんですか?」
「心証が良くなるじゃねぇか」
「あんたらの心証が良くなってどうなんだよ……」
だめだこいつ、自己中すぎてまともに交渉とか出来る奴じゃないや。こいつもリザードマンと同様、しかし縛ったまま建物にロックして監禁した。
「次が来るなら今ゴーレムを直しておいたほうがいいね」
ゴーレム達がいるところへ移動する。自動修復が働いて多少直ってはいたけど今回はかなりダメージを受けたのでクレイトさんの魔法で直していく。
ついで壊れてしまったゴーレムにも再び魔法をかけて復活させる。
元々ゴーレムの中にいたというゴーストを呼び寄せてゴーレムの中に入ってもらい、クレイトさんが再び魔法をかけると、ゴーストの手足となって動くようになった。
「次は総力戦になるかもだから、ケリス殿にはこれを」
と言ってクレイトさんが懐から大型の装飾がすごい盾を取り出した。
「もちろん魔法の盾だよ」
「おお、ありがとうございます。魔法の盾なら酷使しても壊れにくいでしょう。今までの盾では無理はできませんでしたからなぁ」
「それは良かった。さて、旦那とかいうのがいつ来るのか分からないし、どうしようかね?」
「リザードマンの言葉が分かるのでしたら尋問してみては?」
「僕なら彼らと会話ぐらいは出来るね。よし彼らの事情も聞いてみようか。僕らだけだと見た目で舐められるかもだからドゥーア殿もついてきてくれるかな? ケリス殿は申し訳ないが警戒を頼みたい」
「はい、分かりました」
警戒を引き受けたケリスさんがさっそくスペクターやゴーストたちに何か指示していた。こういうことを任せられる人材がいてよかったよ。