埋葬
無事新しい子どもたちの面接が済んで、町の入口に来た。
町の入口には馬車が三台もいた。その先頭の馬車の近くでアンソニーさんが待っていた。
「お待ちしておりました」
挨拶してきたアンソニーさんの近くに冒険者らしき人達もいたのだが、その中に見たことのある顔があった。
「クレイトさんじゃないか、俺もお世話になることになったようだな」
ジェイクさんだった。冒険者だったのか。
聞いてみたら別の町でラカハイまで護衛する仕事があったので参加したらこれだったそうだ。
ついでに護衛の継続を願われたのでエテルナ・ヌイまでの往復の護衛となったらしい。
「では揃いましたので出発しましょう」
アンソニーさんが音頭を取る。
三台の馬車の先頭にアンソニーさんと護衛の冒険者三人、
真ん中の馬車に棺桶とそれを守る俺たち三人と、知り合いらしいからということでジェイクさんが護衛に、後ろの馬車には物資と護衛の冒険者が四人乗り込んだ。
護衛が俺ら以外に八人とはかなりものものしい。
「来る時は俺含めて護衛は4人だったんだがな。道中襲われたから肝を冷やしたのと皆さんが合流するから増やしたんじゃないか?」
とはジェイクさんの話。まあ護衛が多ければそれだけ安全だろうし、ユーリアもいることだし、安全に限る。
旅と言っても馬車に乗っているだけで退屈なものではあった。
やがて日が暮れてきて馬車は止まった。
ここらへんで野営するようだ。
周りは草原みたいなところで遠くに森が見える。
来た方向には大きな山々が見える。
ラカハイはあの山々の一部なんだよな。
「森の中だと警戒が難しいからここらで一泊のようだ」
確かにここらだと見晴らしはいいから不意打ちは避けれそうだ。
「昼過ぎに出た割には結構なところまで進んだようだね」
何度か行き来しているクレイトさんの感想。結構ハイペースだったようだ。
夕飯はアンソニーさんの夕食をごちそうになった。子豚の丸焼きみたいな料理とスープだった。
それらを冒険者の人が調理し、皆で分け合って食べた。
アンソニーさんは気前がいいようだ。
ジェイクさんが普通なら冒険者は自分たちで用意した携帯食になると教えてくれた。
護衛にまで振る舞ってくれる人は少ないようだ。
夜は冒険者の人が交代で見張りをするらしいけど、その中にクレイトさんも入ることになったようだ。
まー寝ないでいいし、魔法使いだしな。
冒険者の中にも魔法使いの人はいるみたいだけど。俺とユーリアは護衛される側なので寝かせてもらえる。
はじめての野外での睡眠だ。
元の世界でもキャンプとか行ったことなかったし。
俺とユーリアはクレイトさんの近くで毛布に包まって馬車の中で寝ることになった。
クレイトさんにいつの間にか持っていた杖で突っつかれて目が覚めた。
『何かが近寄ってきてるよ』
その後クレイトさんがそれを知らせに他の場所で見張りをしている冒険者のところへ行った。
俺はすぐに剣を持って、ユーリアを起こした。
「んー? もう朝ー?」
「残念ながらまだ夜だよ。何かが近づいていているらしい。念の為起きていよう」
ユーリアも傍らにおいていた剣を取る。
ジェイクさんがこちらに来た。俺ら担当の護衛ということらしい。
「確かになんかいる。まだなにかは分かっていない」
「アンデッドだ」
どこかで冒険者が叫んだ。
『アンデッドならネクロマンサーの襲撃を警戒しないといけないね。気をつけてくれたまえ』
そうですね。ユーリアと共に馬車に籠城するのも考えたけど、囲まれてたらやばいので馬車から出ることにする。馬車を背にしておけば後ろから襲われることは少ないだろう。
「ウルフもいるぞ、気をつけろ」
他の冒険者が声を上げる。
『自然発生のアンデッドかもしれないな、これは』
戦闘の音が聞こえてきた。
夜の闇がすごすぎて、焚き火から少し離れているともう見えない。
ライトを使おうかと思ったけど、クレイトさんも冒険者もライトを使っていないので使わないほうがいいのかな?
『そうだね、ライトを使うとそこにアンデッドが殺到するかもしれないからね』
やっぱりそうか。冒険者たちが苦戦してるようでもないし、大丈夫そうだ。
『どうも相手はボロボロのアンデッドオークとアンデッドウルフだからね。たぶんここらへんでやりあったあとゾンビ化したのだろう』
こんなところにまでオークがくるのか。そりゃ護衛いるな。今回はアンデッドだったけど生きてるオークに襲われる可能性もあるってことか。
『油断しないようにしよう。自然発生に見せかけたネクロマンサーの襲撃という可能性も捨てきれない』
冒険者たちも同様の考えのようで、戦闘の音が聞こえなくなってもすぐに警戒が解かれることはなかった。
静かになってからだいぶと経ってから、警戒は解かれた。
なんかこの暗闇の中を偵察に出た冒険者がいたそうだ。
周辺に怪しい者もその痕跡も見つからなかったらしい。
「もう夜が明けてきたね。どうします?」
クレイトさんがアンソニーさんに訪ねていた。
「冒険者たちさえ良ければもうこのまま出発したい気分ですね」
依頼主の意向を汲んで出発することになった。
朝食はなしで各自で携帯食をということになった。
俺らは携帯食を持ってなかったのでアンソニーさんから分けてもらった。
乾パンとチーズ、干し肉をもらった。
いつものだが干し肉はなんか美味しかった。
アンソニーさんのだし高級品だったのかもしれない。
ジェイクさんからこっちに被害はなかったしこれぐらいは慣れてるから君たちは寝てもいいと言われたので俺とユーリアは毛布にくるまって寝ることにした。
クレイトさんも全く寝ないのは怪しまれるので寝た振りをしている。
ユーリアは器用に座って寝ていた。
すっげぇ慣れてるって感じだった。
結局うとうとしただけで寝れた気がしないまま、エテルナ・ヌイに到着したようだ。
クレイトさんと俺とユーリアが馬車集団の前を歩くことになった。
案内しないといけないし、冒険者は元々ここがアンデッドの巣窟だったって知っていたので気後れしたみたいだ。
それに入り口に立っているゴーレムたちを見てびびってたってのもある。
クレイトさん配下だと知って安心してたけど。ゴーレムの戦闘力は冒険者がびびるほどってことか。
一度戦っているのは見たことあるけど、確かにオーク三匹と同時に戦って善戦してたものな。
暫く進むと義体のドゥーアさんが合流した。
ドゥーアさんはクレイトさんから念話で報告を受けて準備していたそうだ。
だからか辺りにはゴーストもスペクターも見かけない。
「広場にもゴーレムを二体、用意しております。墓穴も大きめのものを掘り終えております」
「ありがとう、助かるよ」
馬車が広間に着いた。さっそく埋葬するということで、馬車から冒険者たちが下ろした大きな棺桶をゴーレムが受け取って、予め掘ってあった墓穴にクレイトさんのフローティングディスクの魔法でゆっくりと下ろす。
そのさい冒険者の一人が白いマントみたいなのを纏ってお祈りを始めた。
『彼は聖王教の司祭だね』
冒険者にも司祭がいるのね。というかゲームとかでいういわゆるプリーストってやつか。
彼の祈りが終わって合図があったのでゴーレムたちが墓穴に土を入れていく。
その傍らでアンソニーさんが
「さよなら、父さん……」
と呟いていたのが印象に残った。俺は親父とは別に仲良くもなかったが、俺はもう親父を看取ることもできないんだなぁ、と思い出してしまった。
戻れるなら戻る、かなぁ?
今更ユーリアと離れるのもクレイトさんと別れるのも惜しいよなぁ。まあ帰れそうもないから考えるのはやめ。
しばらくして穴埋めが終わったので冒険者たちが後ろの馬車から墓石を運んできた。
「急遽作ったものなので簡素ではありますが、これを設置してよろしいでしょうか?」
アンソニーさんがクレイトさんに尋ねる。
「ええ、もちろんですとも」
クレイトさんが懐から大きめの花束を取り出してユーリアに渡した。
司祭の冒険者が墓石に何やら儀式をしていたので、それが終わってからゆっくりと花束を墓石の前に置いた。
「あとは結界の状態を見て終わりだな」
「ううん。もうみたよ。異常なし」
「そうか、さすがだユーリア」
「これでもう大丈夫です。お父上はここで永遠の眠りを約束されました」
クレイトさんがアンソニーさんに宣言する。
「ありがとうございます、クレイトさん」
「いえ、私は取り仕切っているだけで力があるのはこのユーリアなのです」
「そうだったのですね。なぜこんな可愛らしい子にずっと着いてこさせているのか不思議ではあったのですが」
「ええ、あまり吹聴してユーリアが狙われては困りますからね。しかしアンソニーさんには知っておいてほしかった。彼女がお父上の安眠を守る者だということを」
「はい、吹聴はしませんし、何か力になれることがあったらいつでもゴールドマン商会にお声がけください。残念ながらラカハイに支店はありませんが、ラカハイに出店を考えても良さそうですね」
「おお、それは心強いですね、ありがとうございます」
「では我々はいったんラカハイへ戻りますが、皆様はいかがします? 戻るのでしたまた一緒に戻りましょう」
「まだラカハイにやり残したことがあるのでご同乗させてもらえますか。守りはここにいるドゥーアがきちんと行います」
「ドゥーアさん、父を、よろしくお願いします」
ドゥーアさんは深々と頭を下げてその返事にした。
馬車でラカハイへ帰る。小屋から転移門を使えば早くに帰れるけど、知らない冒険者とかいる状況でそれを使うのはまずいので。一日馬車にゆられて帰っていった。
帰りは襲撃がなくてよかったよ。ラカハイに戻れたのは出発して二日後の夕方だった。