緊急の依頼
「どうされたのですか?」
クレイトさんが落ち着いてるためか、その人も落ち着いてきたようだ。
「ああ、すまない。事情を話さなければ分からないですね。私は商人のアンソニー・ゴールドマンと申します。先日父のマーク・ゴールドマンが亡くなったのですが、その遺体をネクロマンサーに狙われているのです」
「なるほど、ではそのマーク・ゴールドマンさんをエテルナ・ヌイに葬りたいということでよろしいですか?」
「はい、そのエテルナ・ヌイであればアンデッドとされることはないと聞きまして……。ここに来る道中にも襲われたのです。父がアンデッドになるとか考えられない……」
「ええ、そうでしょう。我がエテルナ・ヌイならば安心して永眠を得られることでしょう。ご遺体は今ここに?」
その問いには助祭が答えてくれた。
「はい、こちらに運び込まれております。こちらに到着する前からプリザーベイションはかけられていたようで、生前そのままのお姿で永眠されておりました」
「すでにネクロマンサーに襲われたとのことですので、念の為、ご遺体を確認したいのですがよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
アンソニーさんは頭を下げた。本当に困ってるって感じだな。助祭が遺体の置かれている霊安室へ案内してくれるようだ。
霊安室には大きな棺桶が置かれていた。めっちゃ大きい。え? これなの?
「父はかなり恵まれた体格を持っていたのです」
ついてきていたアンソニーさんが説明してくれて、棺桶の蓋も取ってくれた。
「父です。どうかご検分ください」
「ありがとうございます。ユーリア」
「はーい、まかせてー」
ユーリアが棺桶を覗き込む。俺も見てみたけど、すごい体格の人だった。けど血の気がまったくないから生きているようには見えない。
「遺体に呪いはかかってなかった。封印するね」
特に何かしたという感じはしなかったけど、封印は終わったらしい。
「これでけっこうです、ありがとうございました」
助祭が棺桶の蓋を閉めて、布をかける。
「あとはエテルナ・ヌイへ埋葬すればもう大丈夫です。私達が責任を持って管理しますので」
「その件なのですが、一緒についてきていただいてよろしいでしょうか? また襲われたらと思うと……」
「ええ、構いませんよ。私達もエテルナ・ヌイへ行かなければならないのですから。ご一緒しましょう」
「ありがとうございます。クレイト様は稀代の大魔法使いでもあられると聞き及んでいますので」
「ではご遺体は出発の時まで預からせてもらいます。出発する際に引き取りにきてください」
助祭がアンソニーさんへ言いつつ、再び応接間まで案内してくれた。
「クレイト様のご都合が良ければすぐにでも出発したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
「それでは荷物運びと護衛の手配をしますので一時間ほど後に出発でいかがでしょうか?」
「分かりました。一時間後にどこに行けばいいですか?」
「町の入口で馬車で待っておりますので、来てください」
一度、屋敷から小屋に戻って準備してくることにした。
「ただいま」
帰ってきたらシムーンさん以外の全員、黄昏の漂流者の面々とファーガソンさんが来ていた。
「やあ皆さん、これから頼みますよ。私はちょっと本来の仕事で出かけることになってしまいましたので」
「我々全員を雇っていただき、本当に感謝しております。事情はジャービスさんから聞いておりますので、皆で協力していきますよ」
アレックスさんが代表して、クレイトさんに挨拶をする。
「申し訳ないが僕とリュウトとユーリアは出かけるので、私がいない間ここはジャービスさんに取り仕切ってもらうからよろしくお願いするよ」
「ああ、分かっている。ジャービスなら問題ない」
これはファーガソンさん。
「帰ってきたらびっくりするほど整えておきますよ」
アレックスさんが自信を持って宣言する。まあこのメンバーに加えてシムーンさんもいたら俺らなしでも十分回るとは思う。むしろ俺とか邪魔なだけかも。……まあここで卑下しても仕方ないか。
「ではちょっと二階で準備してくる。リュウト、ユーリア、上に上がるよ」
二階に上がって、転移門で小屋に戻る。
「一日とはいえ旅になるからね。必要と思うものを持っていこう」
「ポーションとか?」
「そうだね、何があるか分からないから持てるだけ持っていった方がいいかもね」
出来る限りの準備をして三人で屋敷に戻った。
戻ってきて一階に降りると、子どもたちが増えていた。ああ、あとから来ると言っていた子どもたちかな。
「時間がないけど、一応面接させてもらおう。四人の子を別室に連れてきてくれないかな?」
「はい、クレイトさん、あの部屋でいいですかね?」
ジャービスさんが指さしたのは玄関の広間からも扉が見える部屋だった。今は何も使われていない。
「ええ、よろしく」
クレイトさんは腰掛けを持って、その部屋に入っていく。俺たちもそれに従う。
しばらくするとノックされた。
「どうぞ、入ってください」
見たことのない四人の子どもが入ってきた。
「俺はフレデリック、こいつはダロン、こっちがパトリシアとカールだ」
子どもと言ってもフレデリックを名乗った子はもうかなり大きい。
「ダロン」
「パトリシアです。水売りをしてます」
「カールで、僕もパトリシアと一緒に」
他の三人も名乗った。
「はい、分かりました。水売りということは魔法が使えるのですね」
パトリシアと名乗った女の子が答えた。
「はい、私はクリエイトウォーター以外にもティンダーとピュリフィケーション、プリザーベイション、ライトが使えます」
「ほお、誰かに教えてもらったのですか?」
「いえ、見て覚えました」
俺やユーリアも師匠から教えてもらいながらで時間をある程度かけて覚えたのに、見ただけで覚えるとか天才か?
「ほう、ギフト持ちですか」
「はい、そう言われたことはあります。調べたことはないです」
『たぶん、魔法の才能、というギフト持ちだね。たまにいる』
そうなんですね。わかりやすいギフトもあるんだな。
「俺もたぶんギフト持ちです」
そう言ったのはダロンと名乗った少年だった。
「俺、生まれつきすごく力があるんです。大人が持てないようなものも簡単に持てたり。だから荷物運び専門の伝令やってます」
「なるほどね、ありがとう。怪力というギフトを聞いたことがありますからたぶんそれかもしれませんね」
見た目は普通の少年なんだけどなぁ。ギフトってすげぇな。
「俺はギフトとか持ってないけど、今は伝令をやってる。カールもたぶん持ってないけどクリエイトウォーターが使える」
「なるほど、分かりました。一つだけ皆さんに聞きたいことがあります」
クレイトさんが話題を変えた。最初の六人にも聞いたやつかな。
「今までに悪いことをしたことはありますか?」
質問の意味が分からなかったのか、四人はとまどっているようだ。
「えと、俺は俺たちが孤児だとバカにしてきた奴らをぶん殴ったことがあります」
フレデリックがさすが年長と言った感じで最初に答えた。
「ふむふむ、なるほど」
フレデリックが答えたからか他の子も答えてくれた。
「私は横柄なお客に高い請求をしました」
これを言ったのは水売りのパトリシアだった。
「皆で分けないといけないものを自分だけたくさん食べた」
すっごい落ち込んだ表情で言ったのはダロンだ。
「えと、えと、僕はどんくさいのでいつも皆に迷惑をかけてます……」
ダロンに増して、消えゆくような声で言ったのはカールだ。
「分かりました。ありがとう。よく答えてくれました。そのおかげで君たちも良い子であることが分かりました。よければ我が屋敷で住んでください」
皆追い出されると思っていたのか暗い顔をしていたが一気に顔が明るくなった。
「あ、ありがとうございます。そ、その、何も出来ませんが……」
「今は何も出来なくていいですよ。今後何か出来るようになりましょう。ああ、先程おっしゃってくれたこと、これからはなるべくしないようにしてくださいね。カールくんは努力目標です。今は出来なくても構いませんからね。では皆さん、先に居た六人と合流して仲良くしてくださいね」
「はい」
そういって子どもたちは部屋から出ていった。相変わらずの人心掌握術だなぁ。これで数百年人間と接していなかったというのだから恐れ入る。