評判
小屋に戻ってきた。
ユーリアはすぐさまお茶を用意しに行く。
うーん訓練されてるな。
誰もそうしろだなんて言ってないんだけどなぁ。
ユーリア一人にさせるのも何だから俺も台所へ行く。
お茶菓子を用意するか。
夜食だ。
といっても干し果物ぐらいしかないけどな。
お茶とお茶菓子を持ってきてテーブルにつく。
もちろんユーリアも。
司会はクレイトさんに任せよう。
「はい、お疲れ様でした。明日のことですが、思わず子どもたちをもう引き受けてしまったため、急いで準備しないといけなくなりました。ですのでもう手伝ってもらう方を決めようかと思います」
「そうですね、俺らだけだといろいろと厳しいですし」
「まず黄昏の漂流者ですが、アレックスくんは採用しようと思います。他の人の意見を聞きたいです」
「アレックスさんは俺も賛成です。魔法関連でロメイさんもいてくれると便利だと思います」
「わしはやつらを薦めた側だから何とも言えんな」
「ビルデアくんはどうかな?」
「ビルデアさんは結構万能っぽいからいてくれるとすごく助かる気もします。けどモーガンさんとセットということなので、モーガンさんが役立たずってわけではないですけど、二倍払ってビルデアさんを雇うか、という話になりそうです」
「お金の心配はいらないけどね」
「そうかもしれませんが、やっぱり考えますよ」
「人数の問題になりそうだし、二人に関しては後で判断しようか。アレックスくんとロメイくんは決定、でいいかな」
「さんせいー」
ユーリアが元気に答えた。
「では次、ファーガソンくんはどうかな?」
「面接ではいい感じだと思いました。ジャービスさん、ファーガソンさんの評判ってどんななんですか?」
「奴は出来るやつだ。前に何やってたか知らないがラカハイに流れてきてすぐに伝令の頭になったぞ。人をまとめるのが上手いようだ。地盤の伝令たちにも慕われてる。問題があるとすれば能力主義的すぎるところだな。能力のあるやつはとことん可愛がるが、そうでもないやつはけっこうてきとーだな。まあ邪険にするわけじゃないけどな」
「子どもたちを相手にするには厳しい人?」
優秀なのはいいけど自分を基準にして物を言う人だと、トラブル起こしそう。
自分で付き合う人物を決めれる立場の時はそれでいいと思うけど、孤児院みたいなところでそれはまずそうだ。
「うーん、そうでもないと思うけどな。まあやつは世話係というより教師だな」
「ああ、なるほど。俺も含めて皆子どもたちに対して甘々になりそうだし、厳し目の人もいた方がいいかもしれないですね。ユーリアはどうだい?」
「ファーガソンさんは確かに厳しい人、でもそのおかげってことも多かった。私がエドガーくんぐらいのときでもちゃんとお仕事回してくれたし」
「ふむ、ユーリアがここまで評価してるなら雇わない理由はなさそうだ」
「じゃあファーガソンくんも採用、ということで。次はフィデルくんだな」
「フィデルはわしの薦めで来たやつじゃないから、わしも意見言えるぞ」
「あ、そうだったんですか?」
「どっかから聞きつけたのかもな。露天商としての評判は悪くない、むしろ高評価だな。ただお調子者のきらいがあってな、個人としての評価は真っ二つだな」
「若いのはいいと思うんですが、持っている技能がシムーンさんとかぶってるんですよね。まだ検討してないけどシムーンさんはもう採用確定でしょうし」
「そうだね。今日のシムーンくんの働きを見ると採用しない手はないよね」
「シムーンさんずっといるの?」
「ああ、今の所そのつもりだよ」
「よかったー。シムーンさんすごく心配してたから」
「へぇ、そんな風には見えなかったけどな」
「お風呂で、またこれたらいいんだけどねー、って」
そっか。こっちはもう採用確定のつもりだったけど本人は心配してたか。そんなものかもしれないな。
「正直な話、ロメイさんはいつか長い休みを取らないといけないですし、赤ちゃん生まれたらそっちにかかりきりの可能性もありますし、そうなると少なくとももう一人、女性はほしいんですよね。それにちょっと考えが下衆いかもしれませんが、カムシンさんの工房にコネが出来るのも大きいと思います」
「あーそれは言えてるかもね」
「下衆じゃないぜ、人のつながりってのはそういうもんさ。自分の強い立場を振り回しでもしない限りはな」
ジャービスさんがフォローしてくれた。
うん、戒めも同時に言ってくれてるな。やっぱりジャービスさんも必要な人だ。
「となると、やっぱりフィデルくんは不採用かな」
「そうなりますね。まあ不採用ならあと一週間近く猶予ありますから、それまでにこちらの都合が変われば、ってこともありますし、今のところは、ですね」
「シムーンくんは採用でいいな。彼女はいいね」
「さんせいー」
「問題ないかと」
「では明日に採用を伝えて手伝ってもらいたいのは、ファーガソンくんとシムーンくんででいいかな? アレックスくんとロメイくんには伝えづらいし」
「そうですね、残り二人をどうするか決めないことには黄昏の漂流者には言いにくいですね」
「そういえばジャービス殿、子どもたちはあれだけなのかい?」
確かに、思ってたより少なかったな。
「ええ、俺が面倒見れていたのはアレだけです。ただ他にも孤児はいますから、聞きつけて来てくれるかもしれません」
「本来の目的は屋敷の防衛だから人が多すぎるってことは考えなくていいけど、どうせならね」
「それならやっぱり黄昏の漂流者の残り二人もいてくれた方がいいですよね。断るにしても保険かけておいてもいいかもですね。例えば子供が増えたら頼むかも、みたいな」
「それをするぐらいなら最初から雇っておきたいかな。そうだね、明日以降期限までに他の子供達が来たら採用というのでどうだい?」
「ええ、いいと思います」
「わしもそれでいいと思います」
「私も思うー」
ユーリア、お前つられて同じこと言ってるだけじゃないよな?
「よし、ではこんなものかな。明日も忙しくなると思うが皆よろしく頼みたい」
「はい、もちろんです」
「ではジャービス殿は屋敷に送るよ。僕たちは小屋にいるからもし何かあったら指輪で呼びつけてほしい」
「分かりました。ではおやすみなさい」
そう言ってジャービスさんは転移門で屋敷に戻っていった。転移門はクレイトさんが見えなくした。こちらを隠せば向こうも見えなくなるらしい。
「さて、僕はこれから作業をやるよ。二人はもう寝るといい」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさいー」
各々の部屋に戻って寝た。
次の日の朝。比較的早めに寝たおかげか目覚めは良かった。
しかし頑健な体っていいな。
起きたら体調不良とかがないのがすごくいい。
今日はどうもユーリアよりも早くに起きられたようなので朝ごはんを作ろう。
朝に手軽に作れるメニューってスープぐらいしか思いつかないな。時間がかかりすぎるか、材料が足りないかのどっちかになってしまう。
とりあえず目についた野菜を一口大に切って鍋にぶち込む。
塩漬け魚を水で洗ってからこれも小さくしてから鍋に入れる。
そこまでしてまだ竈に火を入れていないことに気づいた。
いつもユーリアと一緒にやってたし火の管理は任せてたからな。
えっと竈の中に薪を入れて、この別に置いてあるけばだった細いのにティンダーをかけて入れればいいんだっけ?
……ちょっと手間取ったがなんとか薪に火がついてくれた。
火の勢いの調節は薪の位置と数だっけ? まあ煮込むだけだからこれぐらいでいいか。
だいぶ煮立ってきたな。火の勢いを落とすには薪を減らせばいいと思うんだけど、これ勝手に火の勢い落ちるな。そのままでいいか。
味付けは塩漬け魚の出汁と塩分と、ブイヨンもいれるか。
ブイヨン以外のスープの味も考えないとなぁ。ビーフコンソメとかないのかな。
まあビーフ自体があるかどうかまだ分からないけどな。
そうこうしてもうすぐ完成ってときにユーリアが起きてきた。
「おはよー」
「おはよう」
「スープ作ってるの? 何か手伝えることある?」
「そうだな、火加減とかどうかな?」
慣れてるユーリアに火加減を見てもらう。これでスープは万全となった、きっと美味いぞ。
はい、普通の味でした。ユーリアの作るスープと殆ど変わらなかった。まあ材料同じだしな。
朝食を食べてすぐにエテルナ・ヌイへ。日課だし。
問題なくエテルナ・ヌイに到着し、今日はちゃんとドゥーアさんに出迎えてもらえた。
いつもどおり、ユーリアが封印と結界のチェックを行い、問題なし。そして祈る。
思えばこのおにーちゃんが犠牲になってなければ今の状況にはなってないんだよなぁ、と考えると俺もおにーちゃんに対して祈った方が良い気がしてきたので、俺風、というか日本風ではあるが祈っておくことにした。