色々足りない
アエラスが子どもたちを代表して、受け答える。
「はい、クレイトさん、なんでしょうか?」
「この屋敷についてなんだけど、一階は君たちのための場所となるけど、二階は僕やリュウトとかジャービスさんの個室などになる。だから勝手に入らないようにしてほしいんだ。特に僕の部屋とかは危ないかもしれないから」
「クレイトさんは一流の魔法使いで魔法の研究をしておられる。部屋には危険な魔法の品々があるかもだから、近づかないようにな」
「とはいっても気になるでしょうから、一度は見せますよ。準備できたらね。けどすぐにはできないから、二階には上っちゃだめだよ」
「はい、その程度のことなら。分かりました。ありがとうございます」
「さて、予定を変えてしまいました。ジャービスさん、お金を渡しますのでこの子達の本日の食べ物を買ってきてもらえますか? 水は僕が用意しますよ」
「はい、使いっ走りぐらい任せてください。水を用意するとは?」
「ああ、僕はいいものをたくさん持っているんでね。魔法の水差しです」
クレイトさんはいつものように懐から出さずにアポーツを唱えて水差しを虚空から出した。
「おおー」
子どもたちから驚きの声があがる。
「アポーツだ。本当に大魔法使いなんだ。クレイトさんすげー」
「これで飲み水に困ることはないでしょう。湧き出る速度に限界があるので飲み水に限定してください」
「はい、分かりました」
ジャービスさんにお金の入った小袋を渡しながら水差しの使い方について注意するクレイトさん。
これは口で言うよりはっきりと分かるな。ジャービスさんはああ言ってくれてたけど、俺はジャービスさんの下ぐらいだと思ってる。ユーリアは上で構わないと思うけど。
「よし、お前ら。一緒に行くぞ。広場に出たらなんか屋台があるだろ」
「はーい」
急に遠足に行く小学生みたいなのりになった。
「わしらはしばらく出ておりますので何か準備があればやっておいてください」
「はい、わかりました」
ジャービスさんが子どもたちを率いて屋敷から出かけていった。
「念のために階段にアラームを仕掛けておこうか」
「アラーム?」
「警報の魔法だね。登録してないものが通ろうとすると大きな音がする」
「なるほど、それはいいですね。音だけなら無害でしょうし」
「あとは転移門のある部屋のドアはロックしておけばまず大丈夫かな」
「そうですね、素直ないい子たちみたいですし、警報を無視してロックを解除する、なんてことはないでしょう」
「じゃあ俺たちも小屋に戻って何か食べてきます。子どもたちがいないときに食べたほうがいいでしょうし。クレイトさんはどうします?」
「僕はここに残って、いろいろと準備しておくよ。もし小屋の方でなにかあったら呼びつけておくれ」
「はい、わかりました。ユーリア、いったん帰ろうか」
そういってユーリアと手をつないで転移門で小屋に戻った。
精神的にも肉体的にも疲れた。ので今日も簡単な食事にしよう。
芋は煮て潰してマヨネーズであえる。
塩漬け肉を薄くスライスして目玉焼きの下に引く。
今日は贅沢に白パンにしとこう。そろそろ固くなってしまいそうだし。
念の為スライスしてフライパンで焼いておく。
同じ焼くならフレンチトーストもいいな。
新鮮な卵や乳が手に入ったら是非ともやりたいな。
ユーリアと協力して手早く作る。そして食べる。
確か持ってきてもらったもののうち、予備の毛布があったはず。それを持っていこう。
あとろうそくもあったほうがよさそうだ。ろうそく立てと一緒に持っていこう。
クレイトさんがいるからライトでどうにかなりそうだけど。
それと薪もいくらか持っていこう。
確か屋敷には大きな風呂もあったはずだ。
子どもたちはさすがに汚れていたし、入れてやりたい。
俺も久々に入りたいしな。
今までは体の記憶のおかげか、体拭くだけで満足できてたけど、あるなら入っておきたい。
ユーリアと二人でいろいろと荷物を抱えて屋敷に戻った。
屋敷に帰ってくると、クレイトさんが風呂場でクリエイトウォーターで水をためていた。
「やあ、おかえり。あの子たちを風呂に入れてあげようと思ってね。この量の水を出すのは僕のほうがいいだろうからね」
さすがクレイトさんだ。薪も持ってきたし、火を入れたら風呂になるはず。
「ユーリア、やり方分かる?」
「ごめん、分からない」
「そっか、じゃあジャービスさんが帰ってきたら聞こう。それからになるけど仕方ないか」
一階にもいくつも部屋があるけど、まだ振り分けないほうがいいだろうし、今日は広間で雑魚寝してもらうか。
毛布を広間においておく。
あ、風呂にこれから入るならバスタオルとかほしいな。そんなのここにあるのかな?
うーんやっぱり必要なものがいろいろと足りてないな。
「ちょっと俺、カムシンさんところに行きたいんですがいいですか?」
「ん? どうしたんだい?」
「いえ、必要と思うものがいろいろと足りないのでカムシンさんところに売ってないかな、と」
「そうだね、家の中のものなら任せてほしいみたいなことも言ってたからあるかもしれない。おや、ジャービスさんが帰ってきたようだ」
お、タイミングいいな。夜の街を一人で歩くのは正直怖かったんだ。まず風呂の焚き方を教えてもらってから付き合ってもらおう。
帰ってきたばかりでお疲れのところ申し訳ないけど、俺とユーリアは風呂の焚き方を教えてもらった。
風呂が炊けるまでの管理はユーリアに任せて、ジャービスさんに俺と一緒にカムシンさんの工房へ行ってもらうよう頼んだ。
「風呂に子どもたちを入れたいんですが、桶もタオルもないんですよ」
「なるほど、わしんちにもそれらはないしな。じゃあ行こうか」
「ありがとうございます」
ジャービスさんの先導でカムシンさんの工房へ向かった。思ったより複雑な経路で一人で行かなくて良かった。
もう夜なので工房の扉は開いていなかった。のでノックする。
「はーい」
出てきたのはシムーンさんだった。、
「あら、リュウトさんにジャービスさん、どうなされたのですか?」
「夜分に申し訳ありません。子どもたちを今日から面倒を見ることになったんですが、ものが全く足りてなくて、こちらで売ってないかと」
「あら、そうなんですか? 何がありませんでした?」
「もうなにもない、という感じなのですが、とりあえず風呂桶にタオルがほしいんですが」
「風呂桶ですか? んー、あったかな? 少々お待ち下さいね」
考えながらも俺たちを工房の中へ招き入れてくれる。中では何人かの職人がごりごりと何かを作っていた。シムーンさんは俺たちをおいて奥に引っ込んだけどすぐに出てきた。
「風呂桶はないですが手桶ならありましたが、どうしますか?」
短い取っ手のついた小さな桶だ。これでいいや。
「ええ、それで構いません」
「あとはタオルでしたね」
「はい」
「おや、これはこれはリュウトさんにジャービスさんじゃないですか」
奥からカムシンさんが出てきた。
「娘がそちらでお世話になりたいそうで。私も先程聞いたばかりだったのですよ」
「ああ、そうだったんですね」
親に相談せずに来てたのか。でもまあ事後とはいえ許しはもらえてるみたいだな。
「カムシンさん、夜にすまねぇな。子どもたちを風呂に入れようと思ってな」
「風呂ですか、いいですな。身なりはきれいな方がいい」
「申し訳ありませんー。売り物のタオルはないみたいです」
申し訳無さそうな顔をしたシムーンさんが戻ってきた。
「ん? タオルが足りないのか。タオルなら未使用の職人用のものがストックにあったはずだ。それを持っていきなさい」
「よろしいんですか?」
「こちらのはストックだしね。そちらは今いるんだろ? こっちは必要になる前にまた揃えればいいことだ」
「ありがとうございます、助かります。全部でおいくらになりますか?」
「ああ、かまわんよ。そんなに高いものでもないし、これから娘が世話になるかもしれんところだ」
それでも払おうとしたけどカムシンさんはがんとして受け取らない、というか値段すら教えてくれなかった。
「ありがとうございます。では受け取らせてもらいます」