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子どもたち

次に入ってきたのは、いかついおっちゃんだった。


「ファーガソンという。伝令頭をやっている。それなりに顔は広いつもりだから警備以外にも使えると思う」


「どうぞ、おかけになってください」


見た目いかついのに意外と丁寧に座った。


『どうやらこの方、ユーリアと知り合いみたいだ。ユーリアの評価は高いね』


なるほど、伝令頭とか言ってたし、そっち方面でかな。



「伝令頭だということですが、子どもたちの教育についてはどうお考えですか?」


クレイトさんがなんか難しそうなこと聞きだしたぞ。


「魔法の素養を調べることが出来ればベストだな。魔法が使えたらあの子らなら生きていけるだろう。あとは読み書き計算だな。今までは時間を含めたコストの問題で出来なかったことだ」


「なるほど。確かに現場に居た方の意見ですね」


「力がないから食えずにいるのだから力を与えればいい。その力は別に腕力に限らん」



なんというか迫力のある人だけど意見はまっとうだな。


『彼はああ見えて、孤児たちへの面倒見も良かったみたいだ』


これは決まりかな。なら一つ聞いておかないと。



「あ、えとですね。今伝令頭ということですが、こちらに来られたら伝令頭の仕事はいかがなされるのですか?」


「問題ない。見込みある者を育てている。そいつに地盤を渡すつもりだ」


おお、ちゃんとした意見を持っているだけあって万全だった。


「なるほど。それとですね。小さな経営になると思うので、ファーガソンさんより若い人から指図されたり、雑用を頼まれたりすると思うんですが、それも大丈夫ですか? 今のように俺みたいな若造から上から目線で聞かれたりとか」


「こう見えて下積みはちゃんと積んでるから問題ない。組織ではありがちなことだしな」


黄昏の漂流者の面々と同じく一週間以内に連絡を入れると言って、退出してもらった。



「今の所優秀な人材ばかりですね」


「ああ、そうだな。ジャービスさん、いい人ばかりに声をかけてくれたようだ」


「あ、次の人来たよ」


「露天商のフィデルといいます。主に衣類の販売を行っております。ですので衣類に関することでしたらお任せください」


あ、声かける前に座った。元の世界では減点ってやつだな。まあこっちではそんな細かいことどうでもいい気もするけど。


「仕立てみたいなこともできるんですか?」


オーダーメイドとか出来るのかな? 出来るのなら頼みたいかも。


「いえ、残念ながら補修出来る程度です」


そうなのか、残念。俺がつまらない質問をした後にクレイトさんが突っ込んだことを聞いた。



「なぜ露天商の方が孤児の世話をしようと思ったのですか?」


「え、あ、はい、普段たまに見かける子どもたちを見て、親が居たらこの子たちもここまで苦労しなくてもいいのにな、と思っておりまして。力になれたら、と」


『安定した収入が欲しいから、だそうだ。まあ間違ってはいない。が、今までの人と比べると一段劣るね』


あ、やっぱり心読んでたんですね。今まではそういう報告なかったということは、全部本心だったということですか?


『そうだね、一応今まで全員の心は見させてもらっていた。言っている台詞と心が食い違ったのはこれが初めてだね』


まー悪い人でもなさそうだけど、あえてこの人を選ぶという理由もなさそうだ。


『そうかもね。まあこのへんでいいか』


今までと同じ約束をして、退出してもらった。


「悪い人じゃないと思うけど、あんまり印象ないんだよねー」


ユーリアの台詞は無慈悲だった。でもユーリアはずっとこの町に住んでたんだし、貴重な意見だ。



次に入ってきたのは女性だった。あれ、この人どこかで見たことあるような……。


『カムシンさんの工房にいた女性だね』


ああ、あの美人さんだ。


「どうぞ、おかけになってください」


「ありがとうございます」


お礼を言いつつ、質素な腰掛けにやたら礼儀正しく座った。これは礼儀作法を教え込まれてるって感じだな。


「カムシン工房のカムシンの娘、シムーンです。家事と針子の真似事が出来ます。弟や妹もいるので子供の世話も出来ると思います」


「針子の真似事とは?」


「母が元々針子でしたので幼い頃から針仕事を仕込まれています。ですので簡単なものでしたら衣服も作れます」


「針子にはならないのですか?」


「一応それを目指していましたが、この町では針子はもう十分いるようでして。それに私、弟や妹の世話とか苦にならなかったので向いているのかな、と」


「なるほど、それは心強いですね」


この人はなんだろう? 笑顔がきれいな人だな。技能の方もあるみたいだけど、どうなんだろう?


『針子仕事はともかく一般的な家庭のことをわかってる人は必要なんじゃないかな? 今のところ、冒険者とか一般的ではない方々ばかりだしさ』


あーたしかにそうですね。俺もこの世界の常識は体が持ってる知識に頼ってるし、クレイトさんもユーリアも一般的な家庭って分からないしな。


彼女とも同じ約束をして、退出してもらった。



次に入ってきたのはジャービスさんだった。


「わしで大人は終わりです。次からは子供ですが、個別にやりますか? まとめてみます? 今日来たのは六人ですが」


「そうですね、ジャービスさんの採用は決定してますので面接する必要はないですし、こちらにきて一緒に面接しましょうか」


「え、あ、いや、俺が声かけたやつらばかりだし、不利になるようなことはしないぞ」


「ええ、もちろん、子どもたちの良いところを引き出してあげてください」


「そういうことなら……」


ジャービスさんが納得したので腰掛けを一つこちら側に持ってくる。もう一個の腰掛けは……、集団で見るみたいだし、もういいか。奥へ置いてこよう。


腰掛けを持って奥の部屋に行って適当に置いてくる。

帰ってきたらもう子どもたちが入ろうとしているところだったので慌てて俺の席に座る。

あれ? 俺の横にジャービスさんの腰掛けを置いたのに、俺達と子どもたちの中間の位置に移動してる。


これはジャービスさんの立ち位置を表したものか。ジャービスさんらしいや。


入ってきた子どもたちは五人。あれ? 六人っていってなかったか?と思ったら一人背負ってた。こんな小さな子までいるのか。



一人を除いておどおどしている。無理もない。逆にその一人がすごいと思う。


「俺はアエラスです。この小さいのがルクスです。男の子です」


一番大きくてしっかりしている子がまず名乗った。その子の背中にいる子の名前も教えてくれた。まだ一歳いってないぐらいだろうか?


「私は、フィオナです」


「僕はトーマ」


「エドガー」


「レイーネ」


男の子が四人に女の子が二人か。年齢は大きい子が小学高学年ぐらいで、他が低学年、それに赤ちゃんってところか。



「今までに悪いことをしたことはありますか?」


クレイトさんがいきなり直球のやばめな質問をした。


「……知らない人がお金を落としたのを見たけど、言わないでそのお金を拾って俺のものにしたことがあります」


アエラスが正直に答える。すごいなこの子。このレベルのことをちゃんと悪いことと認識してるんだ。元の世界ではたしかに悪いことだが、この世界にそんな法律があるとも思えないし。


「ジャービスさんちに泊めてもらったときにおねしょして汚しちゃった……」


次に告白したのはエドガーと名乗った子だった。



ジャービスさんが立ち上がる。


「わしはそんなもん悪いこととは思っとらんぞ。今後気をつければいいことじゃ」


「はい、正直にありがとう。もういいですよ、君たちのことはよく分かりました。良い子ですね」


『本当に悪いことをやった子はいないようだ。境遇の割にいい子ばかりだよ。ジャービスさんのおかげかな』


クレイトさんの人心掌握術がすごいんですけど。クレイトさんが笑顔で良い子と言っただけで、子どもたちの表情が一変した。

結構絶望的な表情だったのに一気に希望に満ちた顔になった。



「君たち、今日は寝る所あるのかい?」


「俺達は時々ジャービスさんところに泊めさせてもらってます。そうじゃない時はそこらへんで寝てます」


「ではこれからはここで寝なさい。まだ準備が済んでないから部屋の中で寝られるっってだけだけどね」


「え! ということは、いいのですか?」


「ええ、いいですよね、ジャービスさん?」


クレイトさんがあえてジャービスさんにふった。


「おお、ありがとうございます、クレイトさん。お前ら喜べ、ここに住めるぞ」


子どもたちは全力で喜んでいた。



ジャービスさんがごほんと咳払いをし、クレイトさんへ頭を下げた。


「お前たち、このクレイトさんがここで一番偉い人だ」


そして掌で差し出すような形で俺とユーリアを示す。


「そしてその次に偉いのはこのリュウトさんとユーリアだ。ユーリアは知っとるな」


子どもたちが何度もうなずく。


「その次ぐらいがわしじゃ。しっかり頭に叩き込んでおけよ」


クレイトさんが立ち上がり、少し前に出る。


「君たちのお世話をさせていただくことになったクレイトです。リュウトは僕の弟子、ユーリアは娘です。今日からここに泊める代わりに一つ約束をしてください」

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