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街を散策

俺はというとなにか珍しいものがないか漁っていた。


用途の分かる道具からまったく見当もつかない道具までいろいろと置いてあった。

食材のコーナーまであったので喜んで見ていると、嬉しいものもたくさんあった。

どう見ても米、しかも白米とか、半透明なガラス瓶に入ったマヨネーズっぽいのとかだ。

それらを興味深く見ているとおばちゃんの店主が話しかけてきた。



「帝国のものが気になるのかい? 帝国からきたのかい? 帝国じゃ珍しくもないかもだけど、ここらじゃなかなか入ってこないものだから、ちょっと値は張るけど、買わないかい? 今なら値引きしてあげるよ」


おー、これはぜひ手に入れたい。けど値が張るとのことだし、今の俺は甲斐性がない。

クレイトさんに頼んでみるしかない。って頼むまでもなく、クレイトさんが来て、そのへんのを全部買ってくれた。



「えーと、店主さん、これって今度はいつ入荷しそうですか?」


「ごめんねぇ。それたまたま帝国から流れてきた人が路銀に変えるためにうちに売っていったものなんだわ。こうやって売れるのならうちとしても仕入れたいぐらいなんだけどねぇ」


継続的に手に入れるのは無理っぽいか、残念。でも帝国とやらにはあるようなので、なんとかなるかも。

久々に米やマヨネーズが食べれそうだ。おいしいものを作ってユーリアに喜んでもらわないとな。

そうしたらクレイトさんも手に入れるのに気乗りしてくれるかもしれないし。



『別に君が望むなら努力してみるよ。やっぱり食べ物は人間には大きい要素みたいだしね』


あー、まー、俺が日本人だからってのもあるかもだけど。ユーリアと比べたらそりゃ食に対する興味は強いだろうと思うけど。


「食べ物関連なら広場にいけばいろいろと売ってるよ。たまに珍しいのも売ってたりするよ」


店主のおばちゃんが教えてくれた。市みたいなものだろうか。


「まだ時間あるし、そこに行ってみようか」


「行きたい! お客さんで行くの初めて!」


ユーリアが飛びついた。


店主のおばちゃんに礼をいって店を出る。クレイトさんが高いものをたくさん買ったおかげか、ニコニコ顔で送ってくれた。



広場に行ってみると、何やら露店がたくさん並んでいた。

屋台もあるし、敷物を敷いただけのところもあった。

これはなかなかいい雰囲気だ。というかいい匂いがして堪らんのですが……。


ニオイのもとを探してみると屋台に串肉屋があった。これの匂いだったか。肉とか干し肉でしか食べてなかったからなぁ最近は。


「あれが食べたいのかい?」


「ええ、そうですね。何の肉かは分かりませんがたいへん食欲を刺激する匂いがします」


「私も食べたいー!」


ユーリアの素直なおねだりになんかクレイトさんが感動してた。そういや一ヶ月あまり一切の贅沢というかお願いもなかったらしいからな。


クレイトさんが串肉を二本買ってくれた。俺とユーリアの分だ。ここでクレイトさんと一緒に食べられないのは寂しいな。


「よく分からなかったが、味は塩とタレがあったからどっちも買ったよ。セシリアはどっちがいい?」


「タレー!」


俺は余った塩の方をもらった。よく焼けた肉に塩がふりかかっていたが、なんか緑色のものもかかっていた。これハーブソルトじゃないかな。肉はなんだろ? 牛でも豚でもないな、これ。食べたことないやつだ、でもおいしい。


クレイトさんのインベントリって食べ物入れて大丈夫なんですか?


『ん? ああ、僕のインベントリ内ではプリザーベイションがかかっているのと同じになるから食べ物も痛むことはないよ』


もしよかったら何本か買っておいてくれませんか? 干し肉以外は久々なもので。


『ああ、いいよ。なんなら肉屋も探すのもいいかもね』



「セシリア、今でなくていいけどまた食べたいかい、これ」


「はい! とってもおいしいです。食べてみたかったんだこれ。次は塩を食べてみたい」


「ああ、分かったよ。すまんがもうにほ……いや四本いただけるかな?」


「ありがとうございます。オススメの食べ方があるんですが、いかがですか? ちょっと値段あがりますが」


屋台の親父が笑顔で高いものをお薦めしてくる。やり手か! オススメのものって食べたくなるよなぁ。


「ああ、いいよ、それでお願いするよ」


「まいどあり! こいつはうまいぜ」


といって屋台の親父が出してくれたのは黒パンのスライスの上に乗った二本の串焼きで、端っこに溶けたチーズが乗っていた。それを二つ、塩味とタレ味。


「この肉はチーズと一緒に食うのも美味えんだよ」


「これなんの肉なんですか?」


「鹿だよ、なんとかっていう鹿のモンスターの肉だ。普通の鹿より美味いんだぜ」


鹿のモンスターとかいるのか。肉屋にあったら買っておきたいかも。あと肉食べたらワインも飲みたくなってきたな。

あっちでは体弱かったからそんなに飲酒はしてなかったけどさ。



串焼きを昼飯として、たらふく食べた。結局クレイトさんのインベントリにしまうこともなく全部食べてしまった。

露店の親父の言う通りチーズと一緒に食べたら美味さが倍になったかのようだった。

驚いたのはユーリアも俺と同じ量を食べたことだ。実は大食いだったのか?


「普段食べれなかったからたくさん食べれるときはいっぱい食べれるようになった」


とのこと……。祭りとかの炊き出しとかかな?


ともかく肉はなくなったし、まだ時間はあったので肉屋にいくことにした。

肉屋は町の一番下の入口付近とのこと。

階段都市と言われるだけあって階段ばかりだ。

馬車とか使ってものを運べないから不便だよな。

荷運びしてる配達業の人も多く見かけるし。

まあだからこそ孤児でも暮らしていける環境なのかもしれない。



肉屋は一発で分かった。

というか肉屋なのに草が生い茂っている。店の周りに鉢植えがたくさん置かれていていろんな草が生えていて、すごい香りがする。これ全部ハーブかな?


「虫よけと保存に使うハーブを自分で作っているみたいだね」


なるほど、衛生と匂いに気をつけてる感じか。肉を取り扱っていたら生臭くなるのは当然だしな。水を自在に作り出せるから出来ることなのかもな。



「すいませんー」


入口付近に店の人がいなかったので声をかけながら店に入る。


「ち、誰だよ、この忙しいときに……」


奥から大きな包丁を持った血だらけの親父が現れた。ここが肉屋だと知らなかったら声を上げていたかもしれない。


「あ、はい。鹿肉を探しているんですが……」


すると仏頂面だった親父の顔が急に破顔した。


「お客さんかい、申し訳ねぇ。ちょっと待っておくれ」


そういうと奥へ引っ込んでいった。が、すぐ戻ってきた。包丁を置いてきて手を洗ってきたようだ。


「すまねぇな、待たせちまって。鹿肉かい。ちょうどいい肉が入ったところだったんだ。安くしとくぜ、どれぐらいいる?」


どれぐらいがいいんだろう?


「どれぐらいの単位で売ってくれますか?」


「そうだな。こっちの都合でいえば一塊づつだとありがたいがな。けどなんなら小分けもするぜ」


「えっと、それじゃ焼いて美味しいところと煮込んで美味しいところの二つの塊、お願いできますか?」


「お、そんなに買ってくれるのかい? ありがたいねぇ、そういや見かけない顔だが、今後も贔屓にしておくれよ」


しまった塊ってそんなに大きいのか? クレイトさんの顔を伺うが、問題はないようだ。


「それじゃちょっと待っておくれ。持ってくるよ」


親父が奥へしばらく引っ込んでいる間、店の中を見て回る。


店、と行っても肉の商品棚もなく待合部屋みたいなところだ。部屋の中にも鉢植えは大量においてあって、ハーブ独特の香りが充満していて、生臭さは感じなかった。

肉の商品棚はないがハーブの商品棚はあって小さな壺の中に細かく砕いたハーブを入れて並べているようだった。


「待たせたな。これだ。こっちが焼いて美味しい、こっちは煮込むといい」


そういって葉っぱにくるまれた大きな塊を二つ渡された。


大きさが違うので見分けはつく。クレイトさんに肉の塊を渡す。

クレイトさんはその大きな塊を懐に入れていく。明らかに懐に収まる大きさではないのだがすっと入っていく。これがインベントリなんだろう。


「全部で100シルバーだ」


「100か。金貨でいいかい?」


「おお、願ってもねぇな。ちょっと金貨が足りてなかったんだ。金貨ならおまけもつけるぜ」


「いいね、では金貨で払おう。何をつけてくれるんだい?」


「ハーブとかどうだい? そこらにあるやつ、どれでも一つ、持っていっていいぜ」


「あ、それじゃハーブソルトとかないですか? さっき屋台で食べて美味しかったんですよ」


そういうと肉屋の親父が笑いだした。


「はっはっは、そういうことか。上のケニーの屋台で食ったんだろ? あいつんとこの肉もそのハーブソルトもうちのもんだよ」


ほれ、これだよと木の瓶を投げてよこした。開けてみると確かにハーブソルトが入ってるようだ。



「肉もハーブソルトもうちのものだが、ケニーの味の再現は難しいかもな。あいつ肉焼くの上手いんだよ、なんか特殊な下ごしらえでもしてるのかもしれん」


クレイトさんが金貨を親父に手渡す。もちろん直に触らないように気をつけていた。手袋しているから大丈夫だとは思うけどね。


「まいどあり。気に入ったらならまたきてくんな」



しゃがんで鉢植えのハーブを眺めていたユーリアに声をかけて肉屋から出た。


「無駄遣いじゃなかったですか?」


クレイトさんに訪ねてみる。相場とか分からないし。


「いや、そうでもないんじゃないか? 僕にも肉の相場は分からないけど、さっきの串肉の値段とか考えたら相応じゃないかな? むしろ少し安かったかもしれない」


クレイトさんが立ち止まり、こちらの顔を見据える。


「それにね、僕にとってこの町で顔を売るのは必要だからね。さっきの肉屋の親父も顔が広そうだったし、そこで気前よく買うのは回り回って僕の利益にもなるんだよ、だから気にしないでほしい」


ああ、そうだった。クレイトさんの顔を売るのも目的だったっけ。クレイトさんだけは今までどおりの変装だしな。

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