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胡蝶の夢

あれからすぐに解散となって、寝た。寝る前にいろいろと考えてしまったが。


俺は日本に住んでいたスガノリュウト。

だけどそれはもう意味をなさない。

ここは異世界で帰れそうにもないからだ。

そもそも俺が日本に住んでいたスガノリュウトだという証明はどこにもない。

なんせ肉体がもう違う。この肉体は明らかに別人のものであり、別人の感覚と知識まである。

それと統合されてしまっている俺は、もう元のスガノリュウトではない。

元がスガノリュウトだったとしても。



世界五分前仮説というものもあるし、それに似た感じのことかもしれない。

俺は単に異世界から来たスガノリュウトだと思いこんでるだけの一般人なのかもしれない。

スガノリュウトだった頃の日本での記憶があるにはあるが、その記憶が植え付けられたものであるという可能性もなくはない。


誰が一体何のために?

考えても分かるはずもないだろう。

昔の哲学者はこのようなことを考えて「我思う故に我あり」と結論づけたんだろうか。


今やヴァーチャルリアリティとかあるし、俺にとってこの異世界が本物かどうかなんて俺には分からないし、判別がつかない。

けど確かにそんなことを考えている俺はいまここにいるんだから、俺は何かをしないといけない。


ここまでの理屈を日本に居たときに思いつけていたら俺の人生も違っていたのかもなぁ、とは思うけどその結果が今の俺なわけだし、そもそもこんなことを考え出したのもギフトの悟りのせいかもしれないし、うん、考えても無駄だな。


というシンプルな答えに行き着いたら自然と眠っていた。



次の日、三人で屋敷にいってついでに町を見て回ろう、ということになった。


ただし、大魔法使いであるクレイトさんはともかく、俺やユーリアがいきなり町にいるのはおかしいのでクレイトさんが使っている変装の魔法をかけてもらうことになった。

その魔法で性別や年齢は同じぐらいの別人に見えるようにしてもらった。

名前を呼ぶのもばれてしまうので、この姿のときは俺はロバートになる。ユーリアはセシリアだ。

偽名は元の名前と最後の音が同じになるようにした。



まあ用心のためだし、おそらく最初だけだろう。俺らが自由に町に来れることを説明できれば解決することだし。けどまだ説明してないから、よけいなトラブルを引き起こさないためのものだしな。


「ではまず僕が転移門をくぐって様子を見てくるよ」



三人でクレイトさんの部屋に入るとクレイトさんがそう宣言して、コマンドワードを言う。部屋の奥に光り輝く門が出現した。クレイトさんが進み出て門をくぐる。クレイトさんの姿が一瞬で消える。


「初めて見たけど、これすごいね」


ユーリアも驚いているようだ。


「次は俺とユーリア、じゃなかったセシリアの番だぞ」


「うん、ロバート、手つないでいい?」


大丈夫だと分かっていても不安なんだろう。分かる気がする。


「ああ、もちろんだ。一緒に行こう」



『二人共、大丈夫のようだ。何の変化もない。おいで』


クレイトさんからの念話が届いた。ユーリアにも来ているようだ。ユーリアが握った手を一段強く握り直した。


「大丈夫、心配しないで。行くよ」


二人で門の前に並んで一歩前に踏み出した。


前回と同様、門をくぐった瞬間ふわっと体が浮いたような感覚があり、視界が真っ白になった。それはすぐに消え去り、クレイトさんのいる空っぽの部屋に到着していた。



「ん……」


ユーリアが小さく唸る。


「大丈夫かい? ユーリア、体調の変化はないかい?」


クレイトさんが優しくユーリアに転移酔いの有無を聞く。


「大丈夫、ちょっとくらっとしただけ。それと今の私はセシリア、ね」


「ああ、セシリア、ちょっとでもなにかおかしいところがあったらいつでも言うんだぞ。転移酔いは個人差があるらしいからね」


「うん、わかった」


俺は前回同様問題なかった。



ユーリアは一度深呼吸をして、それから俺との手を離した。


「もう大丈夫、ありがとね、ロバート。ここがおと……、クレイトさんが買った家?」


「ああ、そうだ。ここで暮らすのも悪くはないとは思うんだけど、エテルナ・ヌイのことがあるからね」


「ここに住んで転移門で通う、というのもありだと思いますが……」


念の為聞いてみる。


「それもありではあるんだけど、それだと転移門が公然の秘密になってしまうからね。今の魔法技術では転移門の設置は不可能らしいから、なるべくばれないようにしたいんだ」


なるほど、それもそうか。転移門はいろいろとやばいだろうしな。



「まあ、ユ、セシリアもここは初めてですし、見て回りましょうか。クレイトさんはロックしたところを変化がないか確かめてください」


「ああ、そうか。破られてはいないようだが、破ろうとした形跡があるかどうかだね」


「はい、そうです。クレイトさんがかけたロックを解くのは無理でしょうが、破ろうとしたことが分かればここを狙う輩がいるってことが分かりますからね」


まあ見て回ろう。



「へー、すごいお屋敷だね。こんなとこ入ったこともなかったよ」


「ここに住んでみたいかい?」


「いらない。広すぎて不安になると思う」


はは、同感だ。町に住むのはいろいろと便利だとは思うけど、今の暮らしも悪くないし。


「早く管理人を雇った方が良さそうですね」



「そうだね、ロックの方は何も問題なかったようだ。これ以上面倒なことにならずに良かったよ。さてではここから出て街を散策しようか。どこか行きたいところはあるかい?」


「町で生活するための基本雑貨を揃えたいですね。今のままだとお金を持ち歩くの不便ですし。あー冒険者ギルドものぞいてみたい気はします」



「基本雑貨はわかったが、なぜ冒険者ギルド?」


あー、うん、説明難しいな。


「いえ、冗談ということにしてください。雑貨屋にまず行きたいですね」


「雑貨ー! 雑貨屋なら私が案内できるよ!」


「よし、じゃあまずはセシリアの案内で雑貨屋に行こうか」


これほどの大きな屋敷なら庭も大きいだろうと思ったけど小さな庭しかなかった。……そういえば山をくり抜いたとかいってたっけ。ここは日差しが入る場所だけど土地がないんだろうな。


かなり高いところのようで周りには建物すらない。街の中とはいえ外れのようだ。



「元々は貴族の別荘だったって聞いたよ。だから買い手もなかなかいなかったって」


なるほどね。貴族用なら大きいのも納得だし、ちょー高いだろうしな。


「ここかー、うん、こっちだよー」


ユーリアが屋敷を出て走っていく。そういや以前はこの町を走り回ってたんだっけ。


「おーい、あまり離れないようになー」


まあすぐそばにクレイトさんもいるし大事にはならないか。


俺とクレイトさんは歩いてユーリアが走っていった方へ歩いていく。



初めての異世界の町だけど、特に異世界!と感じるものはなかった。

まあ町並みとかはもちろん俺が居た日本とは全く違うものの、別に獣人も見かけないし、魔法使いがぞろぞろいるわけでもないし。

異世界というよりただの外国だ。ただ飛び交う言葉は日本語だけどな。だから日本語吹き替えの海外の映画を見ている感じだ。



ただ異世界っぽいなと思ったのは水売りを見かけたことだ。町を巡回して呼ばれたらそこに入っていって水を出しているようだ。

もちろん水の入ったタンクを持ち歩いているわけではなくクリエイトウォーターなんだろう。聞く限り水は安いようだけど日銭は稼げそうだ。


観光気分で街を歩いていたが、やがてユーリアのいう雑貨屋についた。


だいぶ下の方まで降りてきたので庶民の店のようだ。そこで俺用の多目的ポーチを買ってもらった。これで小物を持ち歩けるようになった。


買っている間に店に子どもの伝令が来ていたので、クレイトさんがその子を捕まえて、ジャービスさんに昼過ぎに屋敷に来てくれるよう頼んでいた。


もちろん報酬ははずんでいたようだ。その子はすごく嬉しそうに引き受けてくれた。

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