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墓守である理由

「ところでどうされたんです? 用事は終わったんですか?」


クレイトさんがわざわざこちらまで来た理由を尋ねてみる。まあ普通に会話に混ざりたかっただけなのかもしれないけどさ。


「ああ、というか準備が終わったというところだね。リュウトくんのギフトを確かめたいと思ってね」


「おお、アナライズギフトでしたっけ? それを使えるようになったんですか」


「ああ、この魔法は面倒な種類の魔法でね。一度使用したら覚えた呪文をすっかり忘れてしまうんだ。だからまた使用するためにはまた一から覚え直さないといけないのでさっき覚え直してきたんだ」


うへぇ、それは面倒だな。しかし俺のためにわざわざ覚え直してくれたんだ。ありがたい。早速調べてもらおう。だいたいの片付けも終わったし。



「じゃあリュウトは調べてきてもらって。お茶用意しておくよ」


ユーリアが気を利かせてくれる。ありがたくちょうだいしよう。


「ああ、お願いするよ。それじゃクレイトさん、テーブルでいいですか?」


「ああ、リュウトくんはリラックスして座っているだけでいい」


俺のギフトはどんなだろう? ……そもそもあるといってくれたけどあるんだろうか? 自分では実感がなかったからな。



立っているクレイトさんに向き合うように椅子を調整して座る。ふーっと息をゆっくり吐き出して目をつぶる。まあこんなことしなくても行けるんだろうけど、リラックスしろってことだったし。


クレイトさんが何やら難しい呪文をすらすらと唱える。俺が覚えているどの呪文よりもずっと長い。……めっちゃ長い。これをそらで言えるようになるまで覚えて、それを忘れてしまうのか。……そりゃなかなか使えないわけだ。


長い呪文を唱え終えたのか、俺の額に向かってかざしていたクレイトさんの手のひらが光った気がした。



「ほう、なるほどね。予想したとおりだね」


「え? どうだったの? 早く教えてよー」


いつの間にかお茶を持ってきていたユーリアが後ろからせがむ。俺もせがみたい。


「まあ、慌てなくても教えるさ。まずリュウトくん、君には二つのギフトがあった」


「おお、二つ。ということは……」


「ああ、君の魂がこの体に宿ったため、体と魂の分の二つが同居している、と考えていいだろう」


「そしておそらく体の方のギフトが頑健だな。その名の通り体が強い、ということだね」


「おお、それはありがたいです。元の体は弱かったのでとても助かります」


「そしてもう一つ、おそらく君の魂の方のギフトなんだが……」


え、なんでそこでためらうの。もしかして悪い内容だった?


「悟り、だそうだ。正直これはどう評価すればいいか、難しいギフトだね」


「悟り、ですか。確かに難しいですね」


「意味合いを考えれば僕の理解力アップと似ていると思うんだけど、別の表現だから違うものだろうしね」


仏教の悟りでもなさそうだしな。こっちには仏教ないっぽいし。たぶんさとり世代とかのさとりだろうな。

体が弱かったせいか物欲とかもあまりなかったしな。

恋愛とかも面倒なだけだったし、生き物としては終わってる感じだったのは間違いないし。

理解力アップしてもこの程度か、ってがっかりするからそれとは別の能力だと思いたい。


「ふむ、多少は心あたりがあるようだね。君が前にいたという世界にギフトがあったかどうかは知らないが、反映されていた可能性はあるわけだ」


「はい、ギフトという概念はあったと思いますが、実在が確認されたという話は聞いたことがなかったです。もしかすると皆が気づいていなかっただけであったのかもしれません」


「体が丈夫なのはいいことだよ!」


悟り関連はユーリアには難しかったのかすべて無視して頑健の方を話題にした。


「そうだね、体のことで悩むのはもうこりごりだし」


「だいぶ元の世界ではひどい目にあっていたみたいだね」


クレイトさんが興味深そうに突っ込んできた。


「ああ、いえ、あちらの世界ではわりとありがちな不具合だったんですけどね。ちょっとそれでトラウマというかどうせ体に邪魔されるってのが何度もありましてね」


「ふむ、わからないでもないな。僕がこんな体になったのもそのへんだしな」


「え、そうなんですか?」


クレイトさんも体が弱くてそれが嫌で自らアンデッドになったとか?



「まあ体が弱いというほどではなかったけど、寿命が足りないとは常々思っていたんだよ。この世界の仕組みを知るにはね」


へぇ、真理の追求のため、というやつですか。それって果たせたんだろうか? 流石に怖くて聞けないな。


「怖がらなくていい。僕はこの世界の仕組みを理解した。だからもう消えようと考えたんだ」


おっと、クレイトさん心を読めるんだった。こういう話題のときは困るな。でもまあすでに解明してたようで良かった。……よかったのかな?


「僕自身は満足してるよ。まあ僕がアンデッドになったせいで迷惑をかけた者たちには悪いことをしたとは思っているが、僕の思いは止めれなかったんだ」



本当に後悔の念はあるようで、すごく顔が曇った。これを演技で出来たならクレイトさんは演技者としてもたいしたものだ。


「僕は満足した。だから消えようと思った、んだけど、自分ではどうしようもなかったんだよ」


「とうしようもないとは?」


「おとーさんは自分で自分を消滅させる方法がなかったんだよ。アンデッドの呪いはアンデッドには解けない、らしいよ」


ああ、だからユーリアなのか。



「そうそう、世界の仕組みを解明し、満足した僕は自分を消し去ろうと思ったんだけど、出来なかったんだよ。ためらったとかそういうのではなく物理的にね。僕はうっかり最上級のアンデッドになってしまっていたから、そうそう僕の呪いを解く事ができる魔法使いは居なくてね……」


俺の話からクレイトさんの話になったけど、まあいいか。知りたかったことだし。



「だから僕は自分でかけた呪いを解く方法を探したんだ。けど世界の仕組みを知った僕でもそれは容易なことではなかった。不死の魔王が世界を根本から書き換えてしまっていたからだ」


「ああ、前に言っていた過去に現れたという魔王ですね」


「そうだ。奴がこの世界の法則を書き換えてしまっていたんだ。それを再び書き換えるのはさすがに僕の力でも不可能だった。だから今ある世界の法則でなんとかしないといけなかった」


そこで見つけたのがユーリアというわけですね。



「そうさ。帝国の町に侵入してちょうど情報を集めているときにラカハイで起こったとされる事件の話を聞いたんだ。ユーリアすまないがこの話をしてもいいかい?」


今までおとなしく聞いていたユーリアにクレイトさんが許可を求めた。やっぱりここはネックだったようだ。ユーリアには悪いことをしたかもしれない。


「ううん、おとーさんが気に病むことじゃないよ。リュウトにもちゃんと知っておいてほしいことだしね」



「ありがとう。では説明するよ。ラカハイで起こったのはアンデッドの強襲、そして謎の光による殲滅だった。そんな力は今まで聞いたこともなかった。もしかしてアンデッドの呪いに対する強力な力が発揮されたのでは、と考えたんだ」


さすが理解力アップと言ったところかも。俺の悟りだとどうだったんだろう? どうしようもないと諦めていたのかもしれない。悟りだしな。


「そこで僕は生前行ったことのあった近くにあるエテルナ・ヌイへまず飛んでいったんだ。そこで偶然ドゥーア殿とあったんだが、それはまた今度でいいだろう」


ドゥーアさんとはユーリアより先に知り合っていたのか。


「エテルナ・ヌイでラカハイの正確な場所を知って、今も使っている変装の魔法を使って侵入した。町に入ってからはかたっぱしから申し訳ないけど心を読ませてもらってユーリアをつきとめたんだ」


その頃でも申し訳ないという感情があったんだ。失礼かもだけど意外だった。


「あの頃は人間の町に潜り込む必要から、過去僕が生きていた頃のことを思い出すようにしていたからね。そしてユーリアと接触することができたんだが……」


「私はなにもわかってなかったからね」



「そうなんだ、確かにユーリアの仕業だと思われたのだが、ユーリア自身も分かっていなかった。その力を解明しなくてはならなかった。が、ユーリアは孤児。安心して力を解明する時間も場所もなかった。だからそれを作る必要があったんだ」


クレイトさんが珍しく顔を曇らせる。


「実を言うと僕にも妻や子供も居たんだ。もちろん生きていた頃の話ね。必要性から過去のことを思い出していたから、ユーリアに情が移っちゃってね。なんせユーリアは僕の娘と同じぐらいの年齢だったし、僕の息子はそれよりも小さかった。そんな子供を妻の元に残して一人、人間を裏切ってアンデッドになったんだからね、僕は……」


「そうだったんだ、それは知らなかった」


ユーリアも驚いている。



「自ら望んだ結婚ではなかったが妻を愛していなかったわけでもなかった。もちろん子どもたちもだ。だけどそれよりも僕は世界の仕組みを知ることを優先した。その事自体に後悔はないが、妻や息子たちに苦労をかけさせてしまったと思うと、ね。そしてそこまでして望んでやったことを僕の存在ごと消してしまおうとしているんだ、僕は」


不意にクレイトさんの変装の魔法が解けて、骸骨の姿になった。



「僕はユーリアに提案したんだ。君を引き取りたい、と。君が孤児で一人なら僕に世話をさせてほしい、と。もちろん保護の目的もあった。けど、僕はここにきて僕が存在した理由。今までこの世界に存在してきた結果を残したくなってしまったんだ」


「いつもジャービスさんが言ってたんだ。俺がお前たちを引き取れる甲斐性があったらよかったんだがなぁって。だからおとーさんに、クレイトさんについていけばいいことが起こるかもしれないって。おにーちゃん死んじゃったしね。あ、おにーちゃんってのは私より年上の孤児仲間でよく私の面倒を見てくれてたんだ」


『ワイト化してユーリアを襲ってしまった子のことだよ』


こんなときでも俺に気を使って補足してくれるクレイトさんやっぱすげぇよな。



「おにーちゃんを埋葬してほしいって頼んだんだ。そのときおとーさんに」


「その事件で出た遺体は採掘ギルドの本部の広間に集められていた。ブリザーベイションをかけられてね。そこで遺族に引き渡しをしていたんだが、孤児だったその子はもちろんそこに置いたままだった。だからユーリアのために僕が引き取ることにしたんだ。その子だけでなく他の引き取り手のない人たちもね」


「その時はもうおとーさんと会ってから三日ぐらい経ってたんだけど、おとーさんが私の力を解明してくれて、ギフトだってわかったんだ。その使い方もね」


「魔力の形跡がなかったからおそらくギフトだろうとあたりをつけていたんだけどね。しかしびっくりしたよ、任意発動のギフトとか滅多にないからね。そしてちょっとその時は絶望もした。



そのギフト、ディスカースには必要エネルギー量みたいたのがあって、それは時間でしかたまらないのだが、僕を浄化するには1年分ぐらい必要だと分かったんだ。ユーリアはその力を使い果たしていたからね」


「その時おとーさんほんとにがくーってしてたものね」


ユーリアがクスクス笑う。大げさに。


「ああ、そのときはほんとにがっくりしたよ。けど今ではそれでよかったと思っている。こうやってユーリアと生活する感傷とかではないしっかりとした理由が出来たしね。今ではその力が溜まっても、準備が出来たと思うまでは使わないように考えている。……僕たちに良くしてくれているドゥーア殿とかを優先したいしね」


「おにーちゃんも眠ってるエテルナ・ヌイをちゃんとしたお墓にしないといけないものね」


あー、そういうことだったのか。ユーリアが熱心にエテルナ・ヌイに通っていたのは維持の理由もあるけどお墓参りの意味もあったんだ。


しかしこの二人には強い結びつきがあると思ってはいたけど、実際に聞いてみると重いな。俺なんかで支えられるかな。


『支える必要はないよ。君は理解さえしてくれたらいい。それは僕らには慰めになる』


それでいいなら喜んで。


「これからもよろしくね、リュウト」


「ああ、こちらこそよろしくな」

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