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転移門

夜、夕飯を作ってユーリアと一緒に食べていると、クレイトさんが帰ってきた。


え? 早くね、と思ったけど、出てきたのはクレイトさんの部屋からだったのでたぶん転移とかして帰ってきたんだろう。


「ただいま。人に送ってもらうよう頼むといろいろと面倒だったからね」



「おかえりなさーい」


元気にユーリアが挨拶する。


「おかえりなさい、クレイトさん。すいません、今食事中で」


「ああ、気にしないでくれ。ちょっと荷物の整理しておくから」


そういってクレイトさんは台所へ入っていった。



あわてて食事を終わらせて、クレイトさんの後を追う。なんか懐からいろいろなものを出していた。あー、アイテムボックスがあるんだっけ?


「そちらではアイテムボックスというのかい? インベントリという名前の魔法なんだが」


へー、それ魔法なんですか。俺でも覚えられますか?


「やめたほうがいいと思う。僕と同じものを求めるなら常に大きな魔力を消費するからね。必要な魔力を少なくして簡素なものにするならありかもしれないけど、それならアポーツの方がいいだろうね」


アポーツもあるのか。確かものを手元に取り寄せる魔法だったっけ。


「大魔法使いであるとアピールしてきたから、これからはいつでも町にいけるようになったよ。一軒家を買ってきた。そこを転移場所としてきたからね」


おお、それはすごいな。一軒家を即買いか。



「驚くところはそこなのかい?」


珍しくクレイトさんが笑ったような気がした。


「私も町にいける?」


ユーリアも食べ終えたのか食器を持って台所へ来た。


「ああ、行けるとも。ただ一人で歩かせるわけには行かないけどね。今度は三人で行こうか」


「わーい、楽しみにしてるねー」


「えと、今もつながっているんですか? その転移とかいうの。もしそうなら俺もちょっと向こうに行ってみたいんですが」


「ふむ、なにか考えがあるようだね。もちろんいいとも。すまないがユーリア、ちょっと二人で行ってくるよ。ドゥーア殿と留守番をお願いしたい」


「はーい。待ってまーす」



ユーリアの了承を得てから二人でクレイトさんの部屋に入る。


部屋の端に光る門があった。


「これがそうだよ。あちら側にもある」


あーやっぱりか。向こうも見ておかないと。


「それじゃここをくぐればいいんですか? パスワードとかは?」


「再起動するときにはコマンドワードが必要になるようにしたけど、起動中にくぐるときはいらないね」


再起動、ということはオフにもできるってことだな。良かった。


「それじゃくぐりますね」


光る門をくぐる。くぐった瞬間ふわっと体が浮いたような感覚があり、視界が真っ白になった。それはすぐに消え去り、見たことのない空っぽの一室に俺は居た。

後ろを見ると、さっきくぐった光の門が見える。そこからクレイトさんがふっと唐突に出てきた。


「転移酔いとかはないかい?」


頭はしっかりしている。他にもどこも問題は感じない。



「大丈夫のようです。ここがクレイトさんが買ったという一軒家ですか?」


「ああ、そうだよ。その二階だ」


出てきた部屋は中身は空だけど結構大きい部屋だった。


「結構大きめの家を買ったんですね」


「適当なのがこれしかなくてね」


転移門がある部屋を出て、家の中を散策してみた。

とても大きな屋敷のようだ。大きな厨房や風呂まである。特殊な地形の町だったはずだから結構高かったと思うんだけど、これを即買いか。


「これはここにも誰かが住んだほうがいいですね。転移門を制圧されると怖いですし。あれって見えなくしたりできるんですか?」


散策についてきていたクレイトさんに聞いてみる。


「ああ、マジックワードで消すことができるよ」


「起動はクレイトさんにしか出来ない?」


「いや、マジックワードを知っていればそれなりの魔力と引き換えに起動できるよ」


「俺やユーリアでもできそうですか?」


「うーん、リュウトくんならいけると思うが、今のユーリアにはちょっと厳しいかもね」


「使わないときはオフにするとして、やっぱり見張りは置いておきたいですね。それとなんか魔法とかでドアとかロックしたほうが良いかな」


「ゴーレムとかのガーディアンを置くのはどうだい?」


「うーん、ゴーレムはどれぐらい認知されてるかによりますが、目立つところでは避けたほうがいいですね、それこそ転移門のある部屋に設置ぐらいならいいと思いますけど」


やっぱり思考が偏ってる気がするな、クレイトさん。

常識に関してはまだ俺の方がましなぐらいかも。


「転移門のある部屋は俺たち以外は立入禁止にして管理人を雇うのはありかもしれませんね」


魔法でドアをロックしておけばそうそう問題は起こらないと思う。とりあえず今日のところは家の出入り口と部屋のドアに魔法のロックをしておけば一安心かな。庭とかあるならそこに守衛さんを配置するのもいいかも。


「なるほどね、そうしておくよ、いやぁリュウトくんがいてよかったよ」



二人で屋敷の中を歩き回って、入口になる場所はロックの魔法をクレイトさんにかけてもらう。ロックの強さは魔力に比例するらしいから、並の人間が破ることは難しいそうだ。


けど本人が強すぎて防犯の意識がなさそうだったしなぁ。町から遠い小屋ならともかく町の中だといろいろと気をつけないと。


しかしまじで屋敷で広いなぁ。ここを転移門のためだけに買ったとかやっぱもったいないな。何か有効活用できたらいいんだけど。


「重ね重ねそのとおりだ。研究に没頭していた時間が長すぎてやっぱり世間ずれしていたようだ。今日も町を歩いている時もいろいろとあったからね」



俺もたいして世間のことわかってるわけじゃないですけどね。あとはジャービスさんあたりに聞くのが一番だと思います。


「ジャービスさんにまるなげしたいぐらいだね」


「ぶっちゃけ、それでもいいと思いますよ。この家の管理自体を投げてもいいかも。もちろんそれはジャービスさんを雇うという形になってしまいますけど」


「ジャービスさんにはユーリアがお世話になっていたからね。便宜は図りたいと思っているんだ」


「そういうことならここに住み込みでって契約でもいいかもしれませんね」


「ふむ、考えておくよ。だいたいこれで入り口のロックは終わったかな」


「とりあえずはそんなところですかね。ある程度の安全が確保できたらあとは時間をかければいいですからね」


転移門をくぐって小屋に戻ってくる。クレイトさんにとりあえず転移門をオフにしてもらった。


「基本的に通る時以外は常にオフでいいと思います。魔力がもったいないかもですが」


会話しながらテーブルのある広間へ戻ってきて椅子に腰掛ける。


「いや、僕の魔力なら問題ない。問題はリュウトくん単独の時ぐらいだろうね、ユーリアには単独で動いては欲しくないから考慮しなくていいだろう」


ああ、狙われる可能性があるんだったっけ。けどそれならクレイトさんが大魔法使いだというアピールってしない方が良かったのでは? すごく目立たない?


「エテルナ・ヌイに拠点を構えた時点で目立ってるからね、もう。むしろ僕の方に目を向けさせたほうがいいと判断したんだ。……思ってたよりエテルナ・ヌイからアンデッドが出てこなくなったことが影響を与えてるようでね。それならば永遠の墓場としての宣伝をもっとしたほうがいいと思ったんだ」



クレイトさんの説明によると、エテルナ・ヌイからはよく死体系アンデッドが周辺に拡散していたそうで、そのアンデッドたちがエテルナ・ヌイを避けて通ってくるオークのような異種族たちへの壁の役割も果たしていたそうだ。

それらがすっかりなくなったため、異種族の侵入が増えてきているらしい。昨日の襲撃もエテルナ・ヌイになにか異変があったことを察知した何らかの勢力が送り込んできた斥候ではないか、とのこと。



「正直な話、周りの影響とか考えずにやってしまったよ。ただこれは良い方向に転がるかもしれない」


???


正直クレイトさんが何を考えているのか分からない。

目立たないほうがいい気もするんだけど。


「ユーリアにずっと隠れ住んでもらう気はないのでね。むしろもっと目立って、ユーリアは欠かせない人物、という認識まで育てたいんだよ。その方が生きやすそうだろ」


なるほど、そういうことか。一人だったらどんなに頑張っても隙が出来てしまうし、隠れていてもいずれ見つかるし、生活しにくい。


それよりもいなくてはならない人物として育てたほうがいいというのは分かる。


実際ユーリアには他にない特殊な能力があるんだしな。


その能力ゆえ狙われやすいけど、逆に言うと理解して恩恵を受ける人から守ってもらいやすいということか。


「例えば君、リュウトくんは最初の、僕たちのすべてを知っている人間の理解者だからね。大事にもするし期待もしている」


はは、責任重大だな。まあ俺にできることをするだけか。

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