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エピローグ

エピローグ


目覚めてから二ヶ月間、ずっと病院と呼ばれる場所でりはびりてーしょんと呼ばれる運動を続けていた。


僕は自宅で倒れているところを見つかってから一ヶ月ずっと眠り続けていたらしい。


目が覚めてみるとそこは明るい部屋の清潔なベッドの上だった。



僕は仲間を逃がすために一人で腐竜に挑み、破れたことまでは覚えている。


破れた後いたぶられていたことも。

しかし何故か自宅で倒れていて、体には傷一つついていない、どころか僕は僕でなくなっていた。


見たことのない顔、貧相な体つき、弱った体力、全部僕のものじゃない。


決定的なのは僕の家族を名乗る、全く見ず知らずの他人が僕を甲斐甲斐しく世話をしてくれたことだ。



僕は別人になってしまったようだ。


しかもここは全く見知らぬ国のようで、見たことのない魔法具がたくさんあった。


……見たことのない魔法具なのに、それがどういったものか分かるのも気持ち悪い、がそれのおかげでここでの生活は苦にならないのは助かった。


見たことのない素材でできている食器に乗った見たことのない料理はおいしく、またてれびと呼ばれる魔法具は飽きることがなかった。



主治医と呼ばれていたおそらく治療術師に、僕は記憶喪失だと言われた。



僕が覚えていないだけで僕は僕なのか?


冒険者としての今までの人生はなんだったのだろう?


主治医にそれを話してみたが、ずっと昏睡状態だった時に見た夢なのかもしれない、と言われた。



夢、だったのか?


勇者の家に生まれ、勇者となるべく育てられ、十五歳になって家を出て、仲間と出会い、冒険したのも全部夢だったと?!



そうなのかもしれない。この僕の体はライルだった僕の姿と似ても似つかないし、なにより世界が違いすぎる。

この国にはモンスターどころか野盗の類もいないようだし、誰も魔法を使わないのに高度な魔法具がそこかしこにある。


僕がライルであるときに当然と思っていたことがこの体にも、この国にも通用しないのも、ライルが夢だった証拠なのかもしれない。



なにせこの体、無理が全く出来ない。


りはびりと呼ばれる運動を言われた以上しただけで体が悲鳴を上げる。


弱っていたからだろうと思ったけど、一向に無理が出来ない。


ちょっと体に負荷をかけただけで熱を出し、倒れてしまうのだ。


夢の中のライルは無理をしたらそのときこそダメージを受けるけど、すぐに回復し、それは無理ではなくなっていたのに。



ある日、寝ているように言われている時間に体を動かしたくなり、真っ暗な中ベッドから這い出て運動しはじめ、ライルのつもりでやってしまったためふらついて転けてしまった。


その際に無茶な受け身をとってしまったようで右腕にひびが入ってしまった。


こんなに簡単にヒビが入ってしまうのか、と思いつつすぐに回復魔法を自分にかけてひびを直した。


回復魔法では体力は戻らないので、ひびの痛みで減った体力が危険な域にまで下がってしまったのですぐにそのまま寝た。



その次の日になってからようやく重大なことに気づいた。


夢の中のもののはずだった回復魔法を使った?


それとも運動しひびが入ったことも含めて夢だったのか?


それを確かめるべく、自由時間に建物の屋上へ行き、誰もいないことを確認してから空に向かってライトニングを使ってみた。青白く光る稲妻が真っ直ぐに空へ飛んでいく。


……出来た。



では僕はやはりライルなのか。となると今の僕「スガノリュウト」とは誰なのか?


この見覚えのない発展した国はどこなのか?


そう考えていたら仲間の一人だったラピーダから教わったことを思い出した。



アンデッドや魔族の一部には体を乗っ取る術を使うものがいるという。


しかし体を奪われてもその人物の魂はその体に残り続けるとも。


そこから俺は腐竜によって別人の体に魂を飛ばされたのかもしれない、と考えた。


となると僕の元の体も心配だが、体を乗っ取った形になってしまうスガノリュウトに申し訳なく思った。



戻れるのならいいのだが、戻れるのかどうかすら分からない上、僕をリュウトだと思って、事実体はリュウトなのだし、僕に甲斐甲斐しくしてくれる両親に報いねばと思い、リュウトのふりをすることにした。もし戻れたらリュウトが問題なく生活できるように。



しばらくして僕は病院から出るように言われた。


両親によるとリュウトの自宅はすでに引き払ってしまったらしい。


以前やっていた仕事も退職扱いになってしまっているし、動けるようになったとはいえ記憶も戻っていないから当分実家で生活するようにと両親に言われた。


幸いなのか僕は記憶喪失という記憶がなくなる病気であると説明されているのでリュウトの人生をまったく知らないことも不自然ではない、戻れたときのためにちゃんと関係を作っておこうと思った。



実家に戻って見知らぬ両親とともに生活を始めて三ヶ月がたった。


リュウトの幼馴染と名乗る女性が度々僕の世話、というか相手をしてくれていた。



彼女はアキというらしいが、元々リュウトと両親は仲があまり良くなく、アキが両親に頼まれて僕に付き合ってくれているみたいなことを匂わせていた。


アキ自体はそんなそぶりを見せないが両親からのアキへの対応などを見る限り、そうとしか思えない。


僕、ライルは両親と仲は悪いということもなく尊敬すらしていたので両親と仲が悪いということに想像があまりつかないけど、リュウトは記憶喪失なので新たに関係を築いてもいいだろう。



アキにはインターネットというものも教えてもらった。

リュウトは元々そのインターネットと関係する仕事をしていたらしく、全く知らないのにある程度使い方が分かった。


アキも「記憶喪失でも体が覚えていることは覚えているのね」と言っていた。

おそらくリュウトの魂が僕に教えてくれているのだろう。


そのインターネットで学んだのだが、どうもここは元の場所と同じ世界ですらない気がしてきた。

国が違うだけだと思いこんでいたのだが、世界自体が違うと考えたほうが道理が通った。



それとこの平和だと思っていたこの世界も、それほど平和ではないと思い知る出来事があった。


夜、少しでも体力をつけるために外を歩くことを習慣にしていたのだけど、夜でも明るいこの世界の街でもところどころ光のない場所がある。


そこを歩いている時にアンデッドに襲われたのだ。


闇の中から出てきたそれはおそらくゴースト。


アンデッドで最下級といえる存在だが、魔法しか効かないという特性がある。


なので魔法を誰も使わず、伝説の中にしかないこの世界では最下級といえど驚異と言えるはずだ。僕が相手でなければ。


マジックミサイルの一発で撃退したが、この世界にもモンスターがいるのだと気を引き締めた。


幸いリュウトの体には魔力があった。僕の世界でも魔力がなくて魔法が使えない人も多いので、これは幸いだった。



アキにゴーストには注意するように言ったせいか、アキに肝試しというゴーストに会いに行く試みに誘われた。


危険であるとアキを説得しようとしたが、逆に煽ってしまうことになってしまったようで、ゴーストが怖いのか?と挑発されたので、リュウトの名誉のために、近くにある有名な廃墟に行くことになった。



その廃墟には確かにゴーストがいた。

いたがおとなしいやつらばかりだったので放置した。


この世界では死んでもゾンビにはならないようなのだけどゴーストはいるのだなぁとか考えながら歩いていたのは失敗だったのかもしれない。



アキが持つライトの魔法が使える筒が発する光すら届かない闇の中からマジックミサルが飛んできたのだ。


とっさにアキを庇ったが五発中一発がアキに当たってしまった。

吹き飛ばないように支えてしまったため、大きなダメージを負ってしまったようだ。

残りの四発は僕が体で受け止めたけど抵抗に成功したので大したダメージにはなっていない。


闇の中から強い殺気が飛んできた。ライルの世界ではよく飛び交っていたが、この世界に来てからはいつぞやのゴースト以来だ。


しかもそのゴーストより数段強かった。



アキは抵抗に失敗して気絶した、が逆にこれは好都合。


無詠唱で回復呪文をアキに使い、アキの体を影に隠し、闇の中から近づいてくるものを迎え撃つ。



闇から現れたのはノスフェラトゥだった。


強い魔力をまとった骨のアンデッドだ。


ここまで上位のアンデッドは僕の元の世界でも滅多にいないレベルのものだ。そんな存在がこの世界にもいるとは……。



まずい、ノスフェラトゥは魔力が強いため魔法があまり効かず、物理で倒すのが基本だ。


しかし今の僕の物理は今拾った鉄製の棒しかない上に、この体では満足にその棒を振り回すことも出来ない。



殺される。

そう思ったのでせめてアキだけは逃がそうとアキのところまで戻ってアキを起こそうとした。


しかしアキは目を覚まさない。


悪いことにノスフェラトゥがやってくる方向とは逆の闇の向こうからも魔力の奔流が感じられた。



追い詰められた。


あの魔力の奔流が新手だともう打つ手がない。

ダメ元で攻撃するか、それともアキを抱えて逃げるか、覚悟を決める前に魔力の奔流から人影が二つ飛び出してきた。


もう逃げられないか、と思い、飛び出してきた片方に殴りかかった。


その一撃はなんなく僕、元のライルそっくりの人物に素手で受け止められた。



僕が驚いていると飛び出してきたもう一つの人影が正体を表す。


これもノスフェラトゥだった。僕そっくりの人物にノスフェラトゥ二体。


僕そっくりなのはたぶんラピーダから聞いたドッペルゲンガーなのだろう。


アキを守れなかったのは悔しいが、ノスフェラトゥ二体にドッペルゲンガーとか元々の僕の体であったとしても勝てたかどうか、だ。


今の僕ではどうしようもない。


しかし僕一人ならそのまま諦めたがアキがいる以上、最後まで抵抗しなければ。



「待て待て。我は味方だ」


こちらの全力に近いマジックミサイルを至近距離で受けたドッペルゲンガーは、まったくマジックミサイルが効いておらず絶望しかかったが、その言葉ではっとなった。


ドッペルゲンガーは僕が攻撃するのをやめたのを見届けて背を向けた。


僕たちを守るように。そして新たに現れたノスフェラトゥが放った何らかの魔法で殺気を飛ばしてきたノスフェラトゥが一撃で消滅した。


でたらめな魔力だ。



「間に合ったようでなにより。この世界へ来た瞬間、リンク先の人物が殺されかけているとか夢にも思わんぞ」


にこやかにドッペルゲンガーが話しかけてくる。


「ドッペルゲンガーなのか?」


つい口に出してしまう。



「我がドッペルゲンガーに見えるということはライルの姿を知っているということだな。貴様はリュウト、もしくはライル、でいいかな?」


僕を知っているのか?! しかし僕は僕そっくりの人物に知り合いなどいなかった。

それに先程のノスフェラトゥがこちらに戻ってきた。



『君はライル、だよね? スガノリュウトの体に入ったライル?』


声が頭に響く。念話か。

どうもノスフェラトゥが念話で話しかけてきているらしい。


「え、ええ。ドッペルゲンガーにもノスフェラトゥにも知り合いはいないはずのライルです」



『そうか、良かった。思ったより早く着けたようだ。こんばんは、ライル。僕はノスフェラトゥだったもの、腐竜を討ち滅ぼしたもの、真理を探求するもの、名をクレイトという。リュウトにも頼まれているし、しばらく君の力になりにきた』

ありがとうございました!


今現在新たに「ゴブリンの姫が治癒魔法とゴーレムで世界を変える」「悪役令嬢は生き残る!」というお話を書いております。ここまで読んでくださった方にはぜひ。

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