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最終話

「今となっては帰るつもりはないけど、様子を見てきてくれるのはありがたいですね。俺の体やたぶんその俺の体に飛ばされているであろうライルさんのことも気になるし、家族のこともできれば知りたいです」



「ああ、そのつもりだ。ライルくんが向こうで苦境に陥っていたら手助けするつもりだ、ライルくんと仲良くできればリュウトのご家族のことも聞けるだろうし」


本体である骨の姿のクレイトさんが立ち上がった。



「さて、これ以上ここにいたら名残惜しくて真理を捨てたくなってしまう。それにムアイグラズくんを余計に拘束するのもあれだからね」


それを聞いてかリヒューサが立ち上がってクレイトさんに向かって跪いた。



「颶風竜では宇宙を渡るのは厳しいのと話ですし、ユーリアとの約束もありますので、ユーリアを守護し、クレイト様のご帰還を心待ちしつつ、分身体に仕えたいと思います」


「そうか、リヒューサ、君は僕によく仕えてくれた。今後は君のやりたいように、健やかに竜生を生きてほしい」



「僕としてはリヒューサがいてくれるのはありがたいね。本体が戻ってくるまでユーリアは死守しないといけないしね」


これは分身体のクレイトさんの言。もうすでに個別の存在でありつつ、クレイトさんでもあるという難しい状況になっているようだ。



「本体とムアイグラズ、カッシオはここから直接向かってくれないか。すぐ外に護衛団長たちが待っているみたいなので、ややこしいことにしないためにも。僕はこの世界でユーリアやリュウトを見守らせてもらうよ」


分身体のクレイトさんが俺たちの方へ来た。


「分身とはいえ、僕はクレイトそのものだ。今さっきクレイトは二人になった。これからはカッシオみたいに別物として動くが、本体は当分この世界からはいなくなる。本体が帰ってきて統合しても、どちらの記憶も持った存在となる。君たちならカッシオを見てるから理解してくれると思うが念の為ね」



「ええ、まさかおとーさんと今後も一緒に暮らせるとは思わなかったから嬉しいわ」


ユーリアがまた泣いている。今度は嬉し泣きのようだが。


「俺も師クレイトからはまだまだ学びたいことがあったんです。よろしくお願いします」



「正直なところ、どれだけかかるか分からないんだ。けど五十年はかからないはずだからユーリアとリュウトが生きているうちに必ず戻ってくると約束するよ。早ければ数年だしね」


「数年であることを願ってますよ。年取ってからだと涙腺が厳しい気がするので。今でもこんなですから」

俺もいつのまにか涙を流していた。


「ムアイグラズさんも本当にありがとうございました。師をお願いします。カッシオは……、まあ好きにしてくれ」



「短い間だったが、私達が守っている世界のことを知れて良かったよ。私はもう地上に降りてくることはないだろうから、これでさよならだ。リヒューサや他の者も達者でな」


しっとりとした雰囲気にならず、からっとムアイグラズさんが右手で挨拶しながら、別れの挨拶をした。



「相変わらずリュウトは我に厳しいな。まあリュウトの言う通り好きにさせてもらうさ。その代わりに残していく宰相殿は好きにしてくれていい。ああ、いい忘れていたが、我はサブシステムのおかげで遠距離でも同期できるゆえ、たまに報告を入れさせてもらうよ。ただし通信は出来ぬ。会話ではなく手紙でやり取りするようなものだと思ってくれ」



「では、いってくるよ」


「はい、お待ちしております」


「待ってるからね」


最後にもう一度クレイトさんの本体にユーリアが抱きついて、離れた。


目の前でクレイトさんが消え、後を追ってムアイグラズさんが消え、お付きカッシオが消えた。



「本体はいいね。その記憶が手に入るのはいつになることやら」


分身体のクレイトさんが本体に対して嫉妬していた。やっぱり同期するまでは別個体みたいなものなんだな。


「おとーさんとはこれからずっと一緒にいれるじゃない。今後に期待して」


「そういえばそうだったね。本体を見返してやろう」


ユーリアも俺もリヒューサも笑った。やっぱり分身体とはいえクレイトさんだ。湿っぽかった雰囲気を一瞬で吹き飛ばしてくれた。


そうだ、クレイトさん自体はまだここにいるし、本体もいずれ戻ってくるのだから悲しむことではないよな。



俺のやりたいことは、みんな、といっても世界中の人々全員は不可能だし分不相応な望みなので、存在を知覚できるみんなを、少しでも幸せにすることだ。


ユーリアはもちろん、妻となってくれた二人も、俺に付き従ってくれている護衛団長たちも、そして各部族の者たち全員もだ。


今の俺がそれができる、いやしなければならない立ち位置にいる。


もちろん同時に全員が、というのは無理だとは分かっている。


けどそれを諦める理由にはならない。


どうしてもババを引かねばならぬ人々も出てくるだろう。


しかし引きっぱなしにしないことならできるはずだ。



甘ちゃんだと、カッシオあたりには言われると思う。

しかしその姿勢は俺が俺である証明でもあるし、体を借りているライルさんに顔向けできる最低限だとも思っている。


……なにより不本意にも別れてきてしまった元々の家族に胸を張ってこちらで幸せに生きているというためにも。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。これでこのおはなしは終わりです。が、エピローグには続きます。よければそのまま読み進めてください。

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