その後
「わかった。行こう」
俺は国王なんかになってしまったが、そもそも俺のこの世界での存在意義はユーリアを守ることだ。
そしてエテルナ・ヌイ発展の礎はユーリアの持つギフトのおかげだ。よって国の重要な役目として墓守を設定し、ユーリアにはその長になってもらった。俺の妻たちも国民たちも、俺とユーリアは義理の父親の元で義兄妹だと知っているので俺とユーリアが二人で会うことに異議はない。
「直接会うのは久々だな、元気だったか、ユーリア」
「ええ、リュウトこそ元気そうで良かった。私がなぜ会いに来たかわかっているのでしょ?」
仮にも俺は国王だが、ユーリアも国の偉いさんだからタメ口だ。
まあ家族だしな。
国王としては問題だと思うが、元々一般人の俺には家族ですら対等に話できないというのは荷が重いので。
「もちろんだ。先程俺の中に力が流れ込んできた。普段と違い膨大な力だった。おそらくカッシオが大魔王を食らったのだろう」
「ええ、たまたま近くにいた宰相カッシオがエテルナ・ヌイの地へ力を分け与え始めたのでもしやと思い……」
「ほう、ということは」
「はい、すぐにでもおとーさんたちが戻ってこられるだろう、ということと、土地へ力が注がれましたので私の結界をさらに広げられそう」
元々かわいい子だったが、今では美人に育ってくれたユーリアがにこっと笑う。
婿候補に名乗りを上げている者はいくらでもいるようだが、本人にまだその気はないらしく誰とも付き合っていないらしい。
「最近、特に東の都からこちらにやってくるゴブリンが増え続けているから、それは助かるな。東の都との街道を真剣に考えていたところだったからな」
元々ゴブリンたちが住んでいた東の都とエテルナ・ヌイを街道で繋げば、流通がスムーズになってより発展できると分かってはいたのだが今までしていなかったのは、カッシオの力を使えば街道をひくこと自体はそれほど難しくはないのだが維持が困難だったからだ。
しかし都で鍛冶をやっていた者がエテルナ・ヌイに移住してくれるならわざわざ膨大な労力を割いて街道を維持するということをしなくてもよくなる。
今まではエテルナ・ヌイのセーフティエリアが残り少なくなっていたのでうかつに町を広げられなかったのだ。以前魔王を倒した際、余った力を土地に逃したらセーフティエリアを広げることが出来たことをカッシオが覚えていたのだろう。
今のカッシオは宰相でもあるので、国の発展のために気を使ってくれたようだ。
懸案が一つ解決したのも嬉しいが、もう一つのことも嬉しいことだ。クレイトさんとそのお付きのカッシオが久々に戻ってきてくれそうだ。しかも大目的を果たしての凱旋だ。
クレイトさんには国の外で大魔王撃滅のために動くために何の役目も与えなかった。
名目上であっても外交問題に発展しかねないから。周辺国では王国とも帝国とも仲は良好だが、唯一都市連合とは険悪だったからな。
都市連合は八年前に大きな反乱が起こり、体制が大きく変わった。
いや外面的に体制は変わってないが中の人がごっそり入れ替わったのだ。
大魔王による働きかけのせいだとは俺たちには分かったけど、王国や帝国はびっくりしただろうな。
それで以前よりおとなしくなってくれたら万歳だったのだが、大魔王がいるのでもちろんそうはならず、むしろより好戦的になってしまった。
都市連合なのに独裁国家みたいになってしまったのだ。
隣接する帝国の都市の一部も裏切って都市連合の一部になったりと、かなり混乱したようだ。
しかしそこはさすが帝国、すぐに皇帝が全土を掌握し、裏切り者の町もろとも軍事力で圧倒していったのだ。
その際に帝国前線の装備はエテルナ・ヌイで作られた装備が使われた。
ちょっと死の商人っぽくてアレだったが、都市連合は自分たちでトップを選ぶ制度でそのトップたちがろくなことをしない奴らだったので、ある意味自業自得であると納得することにした。
国の長になると、こういう悩みもあるんだなと思ったものだ。簡単に善悪では割り切れないのだ。
それはともかく、都市連合自体は帝国に首根っこを抑えられ、皇帝の治世のおかげか、それ以上の大きな裏切りは発生せず、収まっていたのだ。
帝国も都市連合を滅ぼしても意味がないと思っていたらしい。
そんな都市連合に一年ほど前から潜入していたクレイトさんとお付きのカッシオがとうとう大魔王を討ち果たしたのだろう。
今の都市連合とエテルナ・ヌイには国交がないが、大魔王がいなくなったのなら国交を結ぶのも難しくはないだろう。たぶんだがカッシオならそのための導線もちゃんと引いてくれていると思う。
国王としては喜ばしいことだが、一つ懸念と言うか分かってはいたけど残念なことが起きる引き金がひかれたのも事実だ。
ユーリアもそれがわかっているせいか、笑顔に輝きが不足している気がする。
思わず悟りを発動させてしまう。予想通り、ユーリアの心は喜びの中に悲しみも大きく帯びていた。
俺の持っていたギフトであった悟りは、魔力の大きさに比例して、知的生命体の感情がある程度分かるというものだった。
クレイトさんが持っている読心の劣化版みたいなものだ。
この能力のおかげで俺は国王としてなんとかやっていけてる、と思う。幸いなことにこのギフトはオンオフができたので、普段は切っている。
結構魔力を使うので常時使用できないとも言う。
「今日の予定は全部なしにしてきたんだろ? では一緒に別邸に行こうか」
「私は別邸自体久々だけど、またリュウトと一緒に行くことがあるとか思ってなかったから嬉しいな」
ユーリアはにこやかに話しかけてくるが、やはり影があるな、まあ仕方ないことだが。
最低限の護衛とともに別邸へユーリアとともに向かう。
最低限といってもエテルナ・ヌイの最高に近い戦力なんだけどな。
ラピーダさんとトレイスさんは、部下になっても未だにさんづけで呼んでしまう。
本人たちから窘められるんだけど治りそうもない。
他に最初期からエテルナ・ヌイにいるオーガの一人、それにドラゴニュートのエクテルグもいる。
それに孤児の一人だったダロンもいる。
彼は結局戦士の道を選んだのだが、彼に勝てる同期の戦士はいないというレベルだったので、最近成人となったダロンは贔屓抜きの実力でこの立場を得た。
そう言えば最近ダロンはレミュエーラと付き合っているそうだ。
レミュエーラは努力して魔力を得て人間へ変身していた。セイレーンとしては育てられていないので人間となった方が良かったとは本人談。
今ではずっと人間のままだから、彼女が元セイレーンだと知らない知人も多いらしい。
お互い好きあっているようだし、人間でいいならいいんじゃないかな、少なくとも俺が口出しすることじゃないなと思っている。
ちなみにグーファスはレミュエーラの親として鍛冶ギルドの長をやってもらっている。まだ墓守としての発言権というか地位も持っているようだけど。
それは最近引退したドゥーア町長兼墓守長補佐の信任があつかったせいもあるのだろう。
ドゥーアさんは町長をずっと育てていた人間の部下に、墓守長補佐をレミュエーラに譲って引退し旅に出たことになっている。
その旅に付き合うとして人族護衛団長ケリスさんと宮廷魔術師アルティナさんもそれぞれが育てていた人物に地位を譲っていた。
対外的には旅に出たことにしたので、いずれ一人の老人と一組の夫婦による世直し旅の伝説が出回るに違いない。
実際に彼らが抜けた義体に新開発の自立核を埋め込んで旅立ってもらったので。
彼らが死んでいなくなってしまったことにしたら、国に対する影響が大きすぎるための苦肉の策だ。
彼らの元々の性格に似せた自立核にはついでに各国の情報を集めてくるように頼んでいるので、きっと成し遂げてくれるだろう。
ドゥーアさんには俺の元の世界の、副将軍である老人の旅人による世直し旅の話をしたことがあってそれをいたく気に入っていて私もしてみたいとかいってたし。
ドゥーアさんに副将軍の権力はないけど十分な実力があるからなんとかなるだろう。
あまり無茶はしないように言ってあるし、いざとなればエテルナ・ヌイの名前を使っていいとは言ってあるし。