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建国

というやり取りがだいたい八年前にあった。


その頃から今の状況はずいぶんと変わった。

なんせ今の俺は国王だ。


そうなってみても、どうしてこうなった、としか思えないぐらいだ。


とはいえ一応国王という肩書だけど、異種部族連合の相談役みたいなことしかしてない気もするし、多くの人が思い描く大きな権力を持った国王ではないのは確かだ。


そうなる道もあったけど俺が拒否した。

そんな器じゃないし、そこまで大きな責任を背負えるとも思えなかったから。



エテルナ・ヌイの東の地には人間はほぼいなかったので自らの領土として主張するものはいなかった。

そして一番大きな勢力だったゴブリンを併呑し、有力種族だったナーガラージャ、リザードマンとも同盟を組んだエテルナ・ヌイは、開拓村のままではいられなかったのだ。



エテルナ・ヌイは永遠の眠りにつける墓場としてどんどん成長していき、八年前から始めた再開発により旧エテルナ・ヌイの一角に新エテルナ・ヌイがまずは村として、すぐに町として発展していった。


きっかけはゴブリンたちの鍛冶技術だった。彼らは魔力がこもった武具を鍛冶のみで作成する技術を持っていたのだ。そして豊富な人材ならぬゴブリン材が、まずは鍛冶町として新エテルナ・ヌイを急成長させていった。



カッシオの整備した下水道、後に上水道も、が発展に拍車をかけた上、付近の階段都市ラカハイから多くの優秀な鍛冶屋も移住してきてくれた。また、町の中ではアンデッド化もない。こんなに良い条件の町は近隣にはないのも確かだった。



スミスさんなどのラカハイの鍛冶屋が、まっさきに来てくれた。


彼らはすぐにゴブリンたちに自分たちの持つ高い基礎技術を教えてくれ、また良質なラカハイ産の鉱石を使うことによって、更に魔法の武具の質が上がった。


それはもう他では真似の出来ないレベルの完全な特産になり、冒険者たちが集まってきた。


残念ながらその技術はゴブリン以外には使えないものだった。けどこれがあとで大きな意味を持つことになったのだ。



ラカハイの協力も大きかった。ラカハイ領主ドナルド・アレン、王弟である通称ドニーさんはすぐにラカハイとエテルナ・ヌイを結ぶ街道を整備してくれ、人材も制限なく放出してくれた。


またラカハイが所属する王国にも働きかけてくれ、エテルナ・ヌイの向こうの東の地を新領土として組み込む方向で動いてくれたのだ。



しかしさすがにそれは王国内で紛糾し、実現しなかった。


俺もクレイトさんも貴族ではないから、他の貴族から承認を得ることが出来なかったのだ。


もし認めるとエテルナ・ヌイは王国最大の領土になってしまうのも足を引っ張った。


さらに強力な武具の生産が出来、多数の異種族を抱えるここを認めてしまっては、新たな有力貴族が誕生し、自分たちの権益が侵される、と思ったのだろう。



事態は複雑化していき、俺もユーリアもクレイトさんも皆うんざりしていたところで帝国から接触があった。


帝国の言い分としては「王国が汝らを認めないなら帝国が認めるがどうか? 飛び地ゆえ例外としてエテルナ・ヌイ領として自治を任せる」と。

帝国は全土が皇帝の直轄地らしい。中央集権が完全になりたっているようだ。



その接触に焦った王国は大幅に譲歩の方向に動いたと思ったら斜め上の方向に行った。



エテルナ・ヌイに建国しないかと。


人間が持っていた技術を習得したゴブリンたちが作る魔法の武具はたいへん価値があったが、ゴブリンたちをそのままエテルナ・ヌイ以外の町へ招聘することは出来なかったし、ゴブリンたちも行く気はなかった。


エテルナ・ヌイは技術の流出も起きず、権益を独占することが出来たのだが、これが王国の一領地であったり帝国の一領土であっても、自国内部も外部もパワーバランスが崩れると、双方の国が認識したのだ。


エテルナ・ヌイに隣接する国は王国と帝国、それに都市連合だけだったから。

都市連合は今もエテルナ・ヌイを国として認めないしな。



エテルナ・ヌイから東の地は立地的にも王国と帝国の間なので、もういっそのこと完全新規の、ただし王国とも帝国とも仲のいい、国を作ってしまえばいいのでは、となったらしい。


異種族をまとめるのが困難すぎて俺たちに丸投げしたとも言う。税金を取るのも難しいしな。



そして国としての正当性のために、王国は俺にドニーさんの娘であるアニスを娶れと、帝国は皇女の一人を娶れと言ってきた。


拒否権はなかった。


実際のところアニスは八年前ぐらいに魔族の襲撃から助ける手伝いをしたきっかけから、よく屋敷にきてくれていたので仲が良かったからいいものの、皇女とかあったこともない子と結婚しろとか、すごくためらいがった。



しかしそこは当のアニスに説得されてしまった。

人の上に立つものの責務である、と。


それに王族であるアニスだけ娶って皇女を拒否するのは建国の建前が成り立たない、とも。

正直、アニスは屋敷では孤児たちと仲良くし、小さい子の世話を積極的にしてくれていた子だったので、面食らった。


さすがドニーさんの娘、ちゃんと王族としての教育もきちんとされていたということだろう。それなのに平民である俺たちに別け隔てなく接してくれていたのだ。



結局帝国の皇女もお嫁さんとしてエテルナ・ヌイにきたんだけど、帝国の方から第二夫人でいいと言ってきた。

皇女は幸い気立てのすごくいい子ですぐにアニスともユーリアとも仲良くなってくれた。


娶る前に本人の意思を聞いたんだけど、「私は下位の皇女、だれともしれぬどこかの年寄りと政略結婚する運命だったのです。それが若くて皆に慕われている、新興とはいえ一国の王に嫁ぐことができたのです。これ以上の幸運があるでしょうか? 願わくばここでの生活も幸せであれば嬉しいのですが」と真正面から言われてにこっと笑われた。


勝ち負けじゃないがこれは勝てないな、と思った。



実は一時期ラピーダさんと付き合っていたこともあったのだが、うまく行かなかった。


お互いライルさんに遠慮してしまってギクシャクしたためだ。

ラピーダさんとは男女としてはうまくいかなかったけど、公の方ではすごく助けてもらってる。


俺のことはこれぐらいでいいよな。ラピーダさんで思い出したけど、ファニーウォーカーのうち、斧戦士のトレイスさんはすぐにエテルナ・ヌイにラピーダさんとともに移住してきた。


ペトチッカさんとリュハスさんはしばらくドニーさんの警護を続けた後、トレイスさんやラピーダさんに誘われた形でエテルナ・ヌイの一員になってくれた。

今では全員エテルナ・ヌイ、街名だったけどそのまま国名になった、の主要な位置を占めるようになってくれた。



元冒険者といえばシャイニングホライズンは七年前に解散した。


リーダーであるモヒカンのタルバカンさんはあの見た目で実は遠くの国の有力貴族の子弟だったらしく、今では我が国に外交官としてエテルナ・ヌイに駐在している。遠くの祖国で我が国や王国、帝国と大規模な通商を持つべき、と主張してくれたようだ。


巨漢のウッドチャックさんはタルバカンさんのお付きだったらしい。ブラックキャップさんとロングテールさんはタルバカンさんとは別の遠くの国の商家の出身だったらしく、遠方からわざわざ特産の品を持ってきてくれる商隊を送り込むようになってくれた。

まあよくその商隊に混じってエテルナ・ヌイに訪れて旧交を温めているようだ。

唯一当時少年だったティエンだけは解散後ゴールドマン商会に雇われて今も元気に商売してくれている。



建国するまでは俺もクレイトさんもユーリアも普通にラカハイの屋敷にいたけど、建国後はさすがにそこに住むことは出来ないので、全部ジャービスさんに譲った。

もちろん運営資金は全てこちら持ちのままで。



今では孤児も減ったので学校を兼任してるようだ。

今もアレックスさんとロメイさん夫妻、その娘のライカちゃんは屋敷にいる。


意外なことにモーガンさんとビルデアさんもまだ屋敷にいてくれている。

ビルデアさんの念願?叶ってモーガンさんと付き合うまではいってるみたいだけど、まだ結婚には至ってないようだ。時間の問題だと思うけど。



「陛下、墓守長ユーリア様が来られました」


護衛としての性格も持つ、ナーガラージャの側仕えが知らせてくれた。

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