……のために
カッシオが素直に答えてくれる。
「マルモンか、あやつはこの辺にはもういない。最初からあの土人形製のあやつしか来ていなかったようだ」
「そうなのか、カッシオにとってのダンジョウみたいな位置にいたやつなんじゃないのか?」
マルモンも大魔王直属だと聞いたと思う。ダンジョウもそうだったはず。要するに大魔王からの監視の目ってことじゃないのか? そう思って聞いてみたんだが。
「いなかったものは仕方ない。いたのなら竜族が見逃すはずもないしな。無論我の目もごまかすことも出来ぬはず。察するにあのバカ魔王ブルトゥスはとっくにマルモン、もしくは大魔王に見限られていたのではないか」
いくらカッシオと六大竜が二人もいたとはいえ、あっけなくやられたものな、魔王。
カッシオもだし、魔王って弱いんじゃね?とか錯覚しそうだ。
でも魔将とかいうホウセンやダンジョウ、マルモンも強かったし、彼らの上位であるはずの魔王が弱いはずないんだよなぁ。
ましてや残る、魔王の上、大魔王とかどれだけ強いのか……。
「大魔王は我ら魔王より数段上と考えてほしい。魔王が成長限界まで成長した上で、余剰の力を使って子たる魔王を生み出した者が大魔王を名乗るのを許されるのだ。ちなみに我はブルトゥスの大部分を吸収したが成長限界まではまだほど遠いと感じる。そこから察してくれ」
なんか俺の思考をカッシオに読まれた気がするけど、クレイトさんにいつも読まれているので気にならないな。リンクがどうのこうのと言ってたし、その影響かもな。
「まあ、大魔王のことはおいおいでいこう。まずはエテルナ・ヌイの立て直しと体制の再構築をしていかないとね、いろいろと条件も状況も変わりすぎている」
それもそうだなぁ。どんどん遅れているけどドゥーアさんたちアンデッド組はいつかいなくなるんだから任せっぱなしに出来ないし、それはクレイトさんも同様だからなぁ。今のエテルナ・ヌイは基本クレイトさんあっての体制だし、もっと俺も頑張らないといけない。
「そうそう、申し訳ないけどハギルに頼みたい事があったんだ。ハギルには今から皆のところへ戻って亡くなった者の葬儀や火葬とかをお願いしたいんだ。ゴブリンたちもね。敵だったからといって放置もできないしね」
「はい、我らのことですので私が仕切るのは道理ですね。ヴァルカもお借りします」
「ああ、もちろん、ヴァルカがいないと火葬もできないしね。よろしくお願いするよ」
別に知られても問題ないとは思うけど、未だ知らないなら知らないままでいいと思うのでハギルには自然な形で退席してもらった。
もう一人の事情を知らない者、エクテルグはユーリアと一緒に眠っているから大丈夫だろう。彼はユーリアとともにグーファスに抱えられてぐっすりと眠っている。
「さて、ムアイグラズ殿もカッシオも気づいているとは思うが、エテルナ・ヌイな特殊なところだ。僕自身がかなり特殊だしね」
ムアイグラズさんがクレイトさんの発言を受け継いだ。
「ああ、クレイト殿が普通ではないということは気づいていた。それにこの元町では多数の気配を感じるのも。それをリヒューサから問いただしたので、リヒューサがなにか隠していない限り、知っている」
「我はリュウトのログを読んでいるから、もちろん知っておる」
「話が早くて助かるね。僕とここの住民のほとんどがそうだからね。いずれ、近いうちにユーリアにディスカースしてもらう予定なんだ。すなわち今ここを回している人材の多くは近いうちにいなくなる、ということだ。残ってくれそうなのはリュウト、グーファスとレミュエーラ、リヒューサぐらいかな?」
名指しされた俺以外の三人もうなずいてくれていた。
「あとはまあ館にいる人間も多少は関わってくれると思うけど、エテルナ・ヌイと直接の関係はないからねぇ。けどリュウトは残ってくれるようだからリュウトに全て譲ることにしたんだ。
「面白い。形代を手に入れて我は二体おるからな。片方はクレイト様とともに大魔王討伐に勤しむつもりだが、もう片方はリュウトの補佐をしてやろう、すでにそうなっている気もするがな」
二人揃ってクレイトさんの側に立っていたカッシオの一人が俺の方にきて傍らに立った。
「私は大魔王討伐に参加させてもらおう。その時まで私は居候であるゆえ、私を配下として言いつけてくれて構わない」
ムアイグラズさんも嬉しいことを言ってくれる。……ムアイグラズさんの手を借りないといけないようなことなんて思いつかないけど。
「私は最後で構いませんよ。他の者を優先してください。このエテルナ・ヌイが復活するのであれば、元町長としてこれ以上の喜びはありませんから、エテルナ・ヌイの発展をこの目に刻んでから、良い土産話を持ってから、で構いません」
ドゥーアさん、以前はすぐにでもという話だったのに、エテルナ・ヌイの発展を見るまでって何年かかることやら。
でもドゥーアさんの実務能力があれば随分助かるのは確かだしなぁ。
「私とアルティナもドゥーアさんの志に加えていただいてよろしいですか?」
今度はケリスさんとアルティナさんも名乗りあげた。
「以前よりアルティナと話し合っていたのです。ユーリア様の成長を待ちたい、と。アルティナも賛同、付き合ってくれると。なぁに、二百年もふらふらしておったのです、先に行った仲間たちもあと十年ぐらいは待ってくれるでしょう」
ケリスさんほどの力を持った戦士が、これからエテルナ・ヌイに根付いてもらうのは一苦労するだろうし、それはアルティナさんの魔法使いとしての力も同様だ。それにユーリアのために、というのがすごくなんというか、助かる。
「ありがとう、皆。頼もしい限りだ。リュウトを中心にして頑張ってほしい。僕も大魔王討伐時以外はリュウトとユーリアの元で参謀させてもらうからね」
クレイトさんは参謀というより後見人といった感じだけどな。