怪獣大決戦
まずハギルたちナーガラージャの一団がその崩された一角から飛び出した。
それに続いてケリスさんと俺とグーファスが。
正直俺とグーファスはおまけで万一下がることになった際の退路を確保する役割だ。
ユーリアの守りはグーファスからドゥーアさんに変わっている。
まあオーガたちもいるしレミュエーラには変わらずユーリアに付き従って補佐してもらっている。付近にはエクテルグもいる。
ゴブリンゾンビや空飛ぶイルカを蹴散らしながらマルモンめがけて突撃していく。
正面はハギルたち、側面の敵方向はケリスさん、俺とグーファスは味方方向なので、たまにふわっと寄ってくる空飛ぶイルカや討ち漏らした敵を相手にするだけでよかった。
ケリスさんは剣圧だけでゴブリンゾンビはもちろん他の魔属も近づけさせない。
マルモンのところへたどり着いた。
ハギルは一閃でグレーターデビルを切り飛ばしたけど、ハギルに選抜された精鋭ナーガラージャ二人はグレーターデビルを討ち損じた。
そのグレーターデビルの反撃で、ファイアジャベリンが俺たち全員に一本ずつ襲いかかってきた。
ハギルはなんなく回避、魔法を余裕で回避するのか……。
確かにファイアボールとかライトニングも避けれるけどさ。
ファイアジャベリンには誘導機能もついていたっぽいのに。
しかしナーガラージャの二人は直撃、吹き飛んで戦線を離脱した。死んではいないようで何より。
俺はグーファスが持つ大きな盾で俺の分まで引き受けてくれたのでダメージはない。
グーファスもファイアブレス対策の盾で受けたのでダメージは小さいようだ。
ケリスさんは別格で魔法であるはずのファイアジャベリンを切り払い、返す刀でグレーターデビルにとどめを刺していた。
エテルナ・ヌイ生粋の戦力の中でも飛び抜けてるよななぁ、ケリスさん。あんな人の教えを受けれてたんだ。
そのままケリスさんとハギルはマルモンに斬りかかった。
しかしマルモンが片手を掲げると謎バリアが二人の攻撃を阻んだ。マルモンのもう片手には何かを抱きかかえている。
「よくやった」
突然マルモンの背後に現れたカッシオがマルモンの頭ににチョップ? して唐竹割りにしてしまった。素手なのにどんな威力なんだ?!
と思ったら真っ二つに割れたマルモンが土塊になってしまった。これは……?
「見ての通り、これはマルモンの土人形だ。本体は別のところにいる、それよりも」
カッシオの見下したような視線は、その土人形が抱えていたものに注がれた。
よく見てみると多少大きいがゴブリンの子供のゾンビ?のようだ。なぜこんなものを大事に抱え込んでいたんだ?
「こいつが元、ゴブリンキングだな。今はアンデッド化してオーバーロードになってやがる。ゴブリンゾンビどもが手強い元凶だ」
え? こいつが? キングとかいうから大きくて太ってて偉そうなのを想像してたけど、そういえば生まれたばかりとか言ってたか。生まれたばかりでこれなら大きい方だし、それにアンデッド化してるのか。
そう思うと急に哀れに見えてくる。周りに持ち上げられて恨みを買い、殺されてアンデッドになってしまい、その後も利用され続けるとかひどい人生、いやゴブリン生だ。
ゴブリンオーバーロードゾンビは覚束ない感じで立ち上がり、こちらに威嚇してくる。
途端に今まで無軌道に動いていたと思えるゴブリンゾンビたちが一斉にこちらに襲いかかってきた。
ゴブリンゾンビを操れるのか。ひどいゴブリン生だったからといって放置するわけにもいかないようだ。
ハギルがゴブリンオーバーロードゾンビにとどめを刺すべく剣を振り上げると、ゴブリンオーバーロードゾンビが光に包まれた。
これは?!
ほぼ同時に俺やグーファス、付近にいた皆、殺到してきていたゴブリンゾンビたちまでも光りに包まれていた。見たことあるぞこれ。
はっとなってユーリアの方を見る。ユーリアも発光している。けどすぐ横にいるドゥーアさんやレミュエーラ、エクテルグは発光していない。
以前、イビルコープスが出てきたときにユーリアが使った完璧な呪い浄化効果のあるユーリアのギフト、ディスカースだ。
ゴブリンゾンビたちがただの死体に戻っていく。
威嚇していたゴブリンオーバーロードゾンビも最後は安らかな顔になって死体に戻った。
彼にとってはひどい悪夢だったと思うし、ディスカースは正解かもしれない。
ただこれでドゥーアさんたちエテルナ・ヌイの住民が昇天する日がまた遠のいたと思うと、……俺は助かるかも。皆には悪いけど。
東門での戦闘はこれで終了した。
マルモン、土人形の方だけどこいつがやられてからわずかに残っていたレッサーデビルや空飛ぶイルカも消えたし、ゴブリンゾンビらはユーリアのディスカースで完全に浄化され、死体に戻った。
ゴーレムの中に入っていたゴーストたちや義体に入ってた人は浄化されずに残れたようだ。生身?のゴーストは範囲内にはいなかった様子。
「ドゥーアさん、グーファス、レミュエーラ、エクテルグは引き続きユーリアの守護を。ついでにドゥーアさんにはここの事態の収拾を。ケリスさんとハギル、カッシオは俺と北門へ」
やっぱりユーリアは気絶してしまっているようなので、レミュエーラに任せる。
アルティナさんもじきに合流するはずだし、エクテルグもいるので大丈夫だろう。
俺もついていてやりたいが北門を無視するわけにもいかない。
ケリスさんも残しておきたいところだけど、あの戦力は留守番には惜しいし、ないと思うけどギアスが解けているはずのハギルやカッシオだけでは不安だったから。
北門についたけど、……なんかすごいことになってるな。
エテルナ・ヌイの壁はせいぜい5メートル程度だけどその壁よりはるかに大きい化け物がかろうじて門の外で暴れていた。
門の前にはヴァルカが立ち塞がり、その巨大な化け物にリヒューサとムアイグラズ、颶風竜と豪炎竜が何度も空から攻撃を仕掛けている。
なにこの怪獣大決戦感。
巨大な化け物は下半身はおそらく四足の恐竜、ブラキオサウルスとかそんな感じので、首が生えているはずのところが巨人の上半身になっていた。
その巨人はもともとは四本だったろうけど、今は三本の腕を持っており、それぞれに巨大な武器を持っていて、顔は鬼か悪魔かといったそれで牙の見える口からは人間の下半身のような舌を出していた。
見覚えはないが、どう見ても悪魔としかいいようがない姿をしていた。ただし法外に大きい。全高二十メートルぐらいあるんじゃないかな。
「やはり兄上か」
カッシオがひとりごちる。兄上ってこれが魔王か。脳筋とか言ってたし、物理に極振りの魔王なんだな。
「さすがにこれは、わたしにできることはないかも」
ハギルもため息が混じってそうな口調で言う。ハギルがその感想なんだから俺なんかどうなるんだ?
そういえばこちらに向かったはずのクレイトさんの姿が見えない。どこにいるんだろ? と思ったら建物の影から文字通り飛び出してきた。
『いいところに来てくれた。レッサーデビルとかが湧き出てくるんだ。ヴァルカが危ない、助けてやってくれ』
クレイトさんが飛び出てきた建物の影にマジックミサイルを飛ばしているのが見えた。
三人で門まで駆けつけると、ヴァルカの前にはレッサーデビルやミノタウロスがうじゃっと群れをなしていた。
ヴァルカはブレスでそれらを寄せ付けないようにしていたけど、数が多すぎる。一部のレッサーデビルはブレスの中進んでくるし、このままだとヴァルカはそれらにたかられていたかもしれない。良いタイミングでこれたようだ。
「奴らなら何匹いようと!」
ハギルが張り切ってヴァルカに加勢しにいく。
「クレイト様に加勢は必要ないでしょうから、私もヴァルカの方へ」
そういってケリスさんも北門へ。あの二人が加勢したなら雑魚に遅れを取ることはないだろう。
ヴァルカへの加勢でなんとか北門を破られずに済みそうだと安心していると、目の前、といっても数十メールは先だけど、巨大な腕が落ちてきた。
目線を上にやると魔王の腕が三本から二本に減っていた。竜が魔王の腕を切り飛ばしたみたいだ。かなり善戦してるようだ。
『気をつけて。腕から悪魔どもが沸いてくるよ』
クレイトさんから念話が入る。どういうこと?という疑問はすぐに晴れた。
今目の前で北門へ続く道に横たわった巨大な腕の切り口からインプや空飛ぶイルカが出現してきたから。
湧き出てきた奴らはこちらに向かってくる。