ギアスの効果
「え? どういうこと?」
そう問い直した時にはすでにダンジョウはなんか斬りかかるための構えをとっていた。
「はい、悪意とはどの程度のことを指すのかを確かめたいのです」
今まで確かに手ぶらだったはずのダンジョウの手に日本刀が握られていた。
「ごめん!」
ダンジョウが俺に対して斬りかかろうとした一瞬、ダンジョウは刀を落とした。
「ぐふっ」
なんか血反吐を吐いてそうな音を出して、ダンジョウはうずくまってしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
息も絶え絶えといった感じでダンジョウはなんとか返事を返してくれた。
「は、はい。わたしも本気で害そうとは考えておりませんでしたが、一瞬取れると思った瞬間凄まじい激痛が来ました。……これは逆らえない……」
ダンジョウは未だに肩で息をしている。瞬間でそこまでの痛みが襲ってくるのかギアス。
「試して申し訳ありませんでした。本気ではなかったと重ねて……」
「ああ、俺もギアスの効果を見たのは初めてだからむしろありがたいぐらいだよ。ダンジョウ、ありがとう。これで信用できる。ハギルがギアスを喜んだわけがようやく分かったよ」
クレイトさんが使うだけあってこれは信用に足るレベルの効果だ。裏切りを恐れなくていいというのは本当に助かる。
こっちの人は慣れているとかあるのかもだけど裏切りは許されないという文化で育った俺に裏切りは心理的につらすぎるし、裏切る可能性を前提に考えるくせもないからな。
「ところでダンジョウ、その日本刀、どこから出したんだ? インベントリ?」
「……わかりやすく言いいますと実際は違うものなのですが、カッシオ様が先日行った皿や盾の創造したものと同じです。金貨魔法といって価値あるものと魔力をリソースとして任意のものを創造する力です。一部の高等魔属にしか使えないものです」
「ダンジョウは高等なのか?」
「はい、私は大魔王様より直接創造された軍師タイプのアークデビルですので」
「アークデビル?」
「魔属、現地人の言うところの悪魔のランクです。インプが最下級で、下から順にレッサー、ノーマル、グレーター、アーク、魔王、大魔王となります。金貨魔法が使えるのはアーク以上となります」
日本刀を拾い上げる。特に日本刀に詳しいわけじゃないけど、これ結構いいやつなのでは。
「この前のやつ、ホウセンとか言ってたっけ? あれもアークデビルなの?」
「はい、やつは戦士タイプのアークデビルです」
ふと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「そういえばさ、俺ダンジョウとかホウセンって名前に聞き覚えがあるんだけど、なんでだと思う?」
「はあ、それは私にも分かりかねますが、大魔王様や魔王様も根源世界からの名前らしいので。根源世界、もしくはそこに近い世界をご存知なのでは?」
おっと、ダンジョウはまだ俺が中身だけ異世界人ってこと知らないのか。
「そういえば大魔王イスカリオだっけ? その名前もちょっと聞いたことある気がする。少し違う気もするけど。けどカッシオとか聞いた覚えないしなぁ」
「我がどうした?」
おおっと、いきなりカッシオが戻ってきてびびった。
いや歩いてだから警戒してなかったこっちが悪いんだけどさ。
「いや、なんでもない。ただ名前の由来が気になっただけさ」
「どうでもいいことに興味を持つのだな。概ねリュウトの想像は正しいと思うぞ」
カッシオがまるで心を読んだかのようなことを言い出す。まあカッシオは俺の記憶全部見てるから推察が容易なだけだろうけど、正しいのか。まあ確かにカッシオの言う通り、どうでもいいことではある。
「で、下水道はどうだった?」
「おお、思ったよりは損耗は激しくなかった感じだな。エテルナ・ヌイ全域の下水道を元に戻すならだいたい金貨一万枚ってところだな」
「一万か。手頃だな」
本気でそう思う。本来下水道を復活させようと考えたらとんでもない大事業になりそうだ。
その大事業をしようと思ったら総費用一万では効かない気がする。それを魔法で一瞬でぽんと直せるのなら一万は安いと思う。
「魔力の補助をクレイト様にお願いしたいがな」
そういうことなら一度クレイトさんに相談してからだな。
「下水道はさておき、この建物にするかい?」
「そうだな、ドゥーアの言う通り、物件として優れているようだ。内装は我の力でなんとでもなるし、ここでいいだろう」
「内装の手配はよろしいので?」
カッシオと一緒に戻ってきていたドゥーアさんが聞き直した。
「ああ、出来ることなら内装のために金貨をいくらかいただきたいがな、魔力は我とダンジョウの分でなんとかなるだろう」
「ではクレイト様にこちらにお越し願えるよう頼んでまいります。私は竜殿たちの案内をしてまいります」
「俺もそっちの方に付き合うから、カッシオたちは自由にしておいてくれ。すぐにクレイトさんも来ると思う」
戻ってみるとすでに結界の修復は終わっていたようで、クレイトさんとユーリア、合流していた竜たちが談笑していた。
「おや、そちらは終わったのかい?」
「はい、いいえ、えっと、クレイトさんに手伝ってもらいたいようです。なんか下水道を復活させるということで金貨一万枚と内装費を要求されまして、念の為の許可と助力をお願いしようかと」
「ふむ、金貨はもちろんいいよ。取りに行くのが面倒なのでちょっとヴァルカの分を一時的に拝借させてもらおう。重いだろうから僕が渡しておくよ。助力も問題ない。カッシオのところへ行けばいいんだね」
クレイトさんはレベルの高いインベントリを持ってるから金貨一万枚ぐらい余裕で持ち運びできるんだよなぁ。
「はい、ではそちらはおまかせします。次は竜のねどこを。ユーリアは俺についておいで」
「竜のままでくつろぎたい、とかありますか? なければよい物件があるのですが」
「特に人化が窮屈とか不快などはないので、部屋の中で竜化したいとは思わない。そこに案内してもらえるかな」
豪炎竜のムアイグラズさんが答えた。
「わかりました。ではこちらへ」
ドゥーアさんが再び案内してくれるようだ。リヒューサとムアイグラズさん、俺とユーリアがついていく。
「こちらの区画になります。やや風化具合が酷いですが、三件ほどは、中はそれほど荒れておりませんでしたし、なによりどの物件にも大きな中庭があるのが売りでして。またやや門に近いのが難点ではありますが竜殿なら問題ないかと思いまして、ここであればすぐに大通りに出られますので竜から人、人から竜への変化も滞りなく行えるかと」
「さすがだなドゥーア殿、我ら竜の特性をよく考えてくれている」
よくわからないけど竜の琴線にふれたようだ。けど確かにラカハイの教会では中庭を着陸地点に使ってたような気がする。
「では今後はこちらをお使いになられるということで三件のうちどれらを使うか、各々決めてくださるよう。内装には時間がかかると思いますが、寝具ぐらいはなるべく早急にとお願いしていいですか? リュウト様」
「ええ、わかりました。もしかするとカッシオに頼めばすぐかもしれません」
「それもそうですね、そちらの方、お願いしてよろしいですか?」
ああ、ドゥーアさん忙しいだろうしな、こっちのイレギュラーでこれ以上付き合ってもらうこともないよな。
「はい、任せてください」
「二人共、ここにずっと住むの?」
「ああ、ずっととは言えないかもしれないがここを本拠点としてユーリアの寿命ぐらいは付き合ってやってもいいと思っている」
「私はいずれ宇宙に帰るつもりですから仮拠点としてお借りしようかと。まあ当分はいさせてもらうつもりです」
「そっか、よかった」
「寝具以外に必要なものがあれば言っておいてくれたら用意するよ」
「今は特に思いつかないな。何かあればまた言わせてもらうよ、ありがとう、リュウト殿」
ムアイグラズさんが丁寧に礼を言う。人化したときの見た目もけっこういかついから不思議な感じだ。