復旧
領主様の館から帰ってきてもいろいろとあった。
まずは子どもたちやスタッフたちの無事の確認をちゃんとこの目でしてから、子どもたちやスタッフに事情の説明、事の成り行きとカッシオやダンジョウの紹介をした。
二人についてはある程度ぼかしている
幸い?なことに二人の説明をしようとしたところで人化したリヒューサや豪炎竜のムアイグラズさんが屋敷にやってきたからだ。
そんな大混乱してる中、聖王教会からも大司教様自らが屋敷に訪れてくるし、ついでに屋敷で夕食を食べていくしで、調理場も大混乱していた。
「突然押しかけて申し訳なく思うのですが、竜が二人、聖王教会の敷地に降りてこられては、対応せざるを得なく……」
まあ今は領主の方も混乱してるから町に直接降りるのではなく、聖王教会へ降りたのは英断だったと思うけど、巻き込まれた大司教様には災難だよね。
まだリヒューサだけなら面識はあるからまだしもムアイグラズさんも一緒にきたら、ねぇ。豪炎竜の名前とか俺らもさっき聞いたばかりだし。
なぜ二人がこっちに来たのか聞いてみたら、エテルナ・ヌイに竜も人も宿泊できる用意がなかったから、だそうだ。
リザードマンのところへ戻るのも考えたけど、彼らとは対等、あまり世話になるのもどうかと思い、こちらにきたようだ。
まあここなら部屋は余ってるし、寝具も予備を買い揃えていたので問題はない。
食事もなんとかなったし、やくそうの葉は大司教にも竜たちにも好評だった。
ただ手間がかかって仕方ないといったような冗談を食事係のビルデアさんが言ったら、真に受けた豪炎竜のムアイグラズさんがビルデアさんに謝罪し、礼になるものをと鱗を何枚もくれたりした。
リヒューサの鱗よりも大きいものもあり、相当な火抵抗があるらしいので皿にすればよいとのこと。
オーブンに直接入れても問題ない丈夫なものになるっぽい。
けどオーブンに入れるやつはそこからの熱も重要な料理法が多いのでレンジがある世界なら大活躍できた、と思わないでもない。
また大きいものは盾にしてもいいとのこと。
「我に任せてくれたら鍛冶屋に頼まなくてもその鱗を立派な皿や盾に変えてやるぞ?」
傍らで大人しくしてると思っていたら急にカッシオがそんなことを言い出した。
「ほう、面白い事を言うね。是非とも僕の目の前でそれをやってくれないかな? ああ、僕の部屋でだ」
そんな感じでカッシオとついでにダンジョウもクレイトさんの部屋へ連行されていた。
しばらくして戻ってきたときはもともとさっきの竜の鱗であったと分かるけど、意匠のすばらしい皿や盾を持って帰ってきた。
『いやぁ、あれは僕が真似をするのは当分無理だね。魔属それも相当上のクラスでないと無理な技だと思う』
当分無理ということは、いつかは可能ってことか。超便利っぽいので是非とも獲得してほしいものだ。
大司教様は夜中に今いる護衛に追加して他の護衛が向かえにきたので帰っていったけど、元魔属の二人と竜の二人は屋敷に泊まっていった。
子どもたちは特にリヒューサが泊まりなのを喜んでいた。
お昼にあんなことがあったのにまだ元気が余っていたようで、竜化したリヒューサと遊んでいた。
ムアイグラズさんはそれをじっと見ていた。
少し話をしたけど、豪炎竜は生まれてすぐに宇宙に上がるため、ほとんど地上のことは知らないらしく、もちろん竜と人間の子供がこのように遊んでいるのも驚きだったようだ。
……まあリヒューサはけっこう特別だと思うからこの状況は特殊であると伝えはした。
ムアイグラズさんの表情はほとんど変わらないものの、彼が喜んでいると言うか面白がっているという風に感じ取れた。
次の日、カッシオの能力があればエテルナ・ヌイに竜二人と元魔属二人が暮らす程度の物資は作り出せるのではということで、いつもの日課を兼ねて七人で屋敷から小屋へ転移門で移動し、エテルナ・ヌイへ向かった。
エテルナ・ヌイの皆と合流してからいつものチェックを行ったところ、珍しく今回は不備があるとのこと。ユーリアが構築してる対呪いの結界も、クレイトさんの魔術的結界も、双方損傷しているとのこと。
模擬戦やったり、いきなり魔属が出てきたり、結界内でクレイトさんが別の結界を作ったりしたせいらしかった。……一番の原因は最後のやつらしいけど。
普段はほとんどない結界の修復という作業が入ったため、ユーリアとクレイトさん以外は暇になってしまったので、俺がドゥーアさんとともにまずは元魔属の二人を案内することになった。
竜の二人は人化を解くかどうかで検討方向が変わるので、竜の二人には待っててもらうことにした。竜の二人はいざとなったらどうとでも出来るみたいだしな。
「こちらの建物などはいかがですか? 再整理区画から離れていますし、保存状態もいいのでなにかに利用しようと考えていた建物です」
ドゥーアさんが不動産屋みたいな立ち回りをしてくれる。
「この建物は日当たりもいいですし、中央区画にも近いですし、何らかの対策が施されていたのかほとんど風化しておりません。さすがに内装まではそうはいかなかったようですが」
「ほう、この建物には下水道があったようだな、そのための設備がある」
「ええ、かつてのエテルナ・ヌイの一部には下水道が通っておりました。上水道はありませんが、水は比較的容易に作り出せますからね。しかし下水処理はそうはいかないので」
確かにいくらピュリフィケーションで綺麗にして再利用できるとはいえ、感覚的なもので緊急時以外あえて下水を使いたいとは思わないしな。
それにクリエイトウォーターよりピュリフィケーションの方が魔力使うし。
「しかし下水道網も浄化石も完全に風化破壊されてしまっているので使うことはできません」
「我ならそれらを復活させることも可能だが、どうする、リュウト?」
「え? 皿とか作れるみたいだけどそんなインフラ設備まで作れるの? それとてもすごい能力じゃない?」
「もっと我を褒め称えていいぞ。元とはいえ魔王の力、あなどるでない」
「といってもそれなりの見返りが必要となりますけどね」
ぼそっとダンジョウ。今の俺はそのぼそっともはっきりと聞くことが出来る。
「見返り? 生贄を捧げろとか?」
「まあそんなものです。金貨や宝石が最適ですけどね」
「お金でいいのか、むしろ願ったりかも。どうです? ドゥーアさん、お金を使ってでも下水道って整備する必要性ありそうですか?」
ドゥーアさんは顎に手をやって考え出した。
「そうですな。このような方々が今後エテルナ・ヌイに宿泊もしくは移住することになってくれば、当然あったほうがよろしいでしょうね。下水道があれば魔力を用いなくても使える水も生まれますので鍛冶や獲物の解体をやっているグーファスなどにはありがたいことだと思いますし、他のものも楽になるでしょう。問題はその利益を超える出費となるかどうか、かと」
出費に関しては全く問題ないかと思うけど、まあ法外だったら遠慮しちゃうよなぁ。
「ふむ、ドゥーアとやら。下水網の中心となっているであろう浄化石の場所は分かるか?」
「ええ、もちろんですカッシオ殿。私は元よりこの町の町長でしたので」
「それは知っておる。では案内してもらえるか? そこに行けばどの程度の費用がかかるか言うことが出来るようになる」
「おお、そうですか。ではご足労になりますが、参りましょうか。ご案内します」
「ダンジョウはリュウトと待っておるといい」
そういって、カッシオとドゥーアさんはお勧めの建物から出ていった。
ダンジョウと二人きりとかどうすんだこれ? まったく会話のネタないぞ。
ダンジョウもギアスを受けているので安全ではあると思うけど。
「リュウト様、一つお願いしたいことがございます」
そんなことを考えていたらダンジョウから話しかけてきた。
「ん、なんだい?」
「斬りかかろうとしてよろしいでしょうか?」