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乗っ取り

え? なにこれ?


意識はあるのに体は思うように動かない。


金縛りのようだが、金縛りと違って体は勝手に、俺の思考と関係なく動いて、魔将ダンジョウとやらを無視して辺りを見渡していた。



そのおかげで、ふと見えたけどレミュエーラはモーガンさんの癒やしを受けているようだ。


癒やしを受けているということは生きてるってことだよな。


そんな二人をカバーするグーファスも見えた。



子どもたちの様子も知りたいけど自分の意思では首も動かせず目も動かせないので分からない。


先程見渡した時も視界に入らなかった。


ただ不吉な叫びとか泣き声は聞こえないので無事でいる、と思いたい。


屋敷のスタッフやシャイニングホライゾンを信じるほかないだろう。



たぶんさっきの声のやつのせいだよな。なんとか動かせないだろうか。


自分では力を入れてるつもりなんだけど、まったく思い通りにはならず、指一本動かせない。



『ほう、崩壊もせずにまだいたのか』


おそらく俺の体を乗っ取ったやつが話しかけてきた。


崩壊? 体を返してくれ。


『残念ながらそうもいかん。我は精神体なのでな。体がないと維持に疲れる。通り道になってくれた貴様には悪いが、このまま我の体とさせてもらう』



通り道?

そう言えば以前にもどこからともなく声が聞こえた気がしたことがあったな。


『そう、その時にこの世界に通じている穴、通り道を見つけたのだ。だから竜どもに邪魔されずにこの世界に降り立つことが出来たことには感謝しておる』



感謝してるならせめて体を返してくれよ。


『先程も言ったが我も体がないと困るのだ。それに普段であれば我がこの体を得た際に貴様はとうに崩壊しているはずなのでな』



ダンジョウはこちらの様子を伺うように首を動かしているだけで動かない。



崩壊するって! お前はいったい誰なんだ。なぜこんなことをする?!


『我は魔王のカッシオという。糧を得るためにやっとるに過ぎん。貴様らも糧を得るために他のものを殺しておるのだろう? 同じことよ』


魔王?!



くそっ、さっきいきなり現れたやつが言ってた魔王か。


ひどいやつに目をつけられた。

俺の様子に気づいた人はまだいないみたいだし、なんとかしないと。


『面白きやつよな? 貴様、この状態でかつ相手が魔王であると分かっても希望を捨てぬのか。貴様のその希望は我らの楽しみとなる故、思う存分抗うが良いぞ。どうにもならんがな』



ひどいことを言い出した、さすが魔王。どうにもならないけど抵抗しろってか。もちろん抵抗はするさ、これで終わりだなんてやってられるか!


『せっかく魂が崩壊せずに残っておるのだ。貴様の記憶を利用させてもらうぞ』


おい、ふざけんな、人の記憶を勝手に見るな!



大司教がゴーレムから降りて俺より前に進み出て、魔将ダンジョウと名乗ったやつに指差す。


「お主、名乗ったとおり、魔の者のようだな」



武器を構えたままケリスさんと相対していた魔将ダンジョウは視線を大司教に向けることなく答えた。


「ええ、そうですよ。偉大なるお方の命により先遣としてこちらに来ることとなりました」



「ユーリア」


俺がユーリアを小さく手招きする。

駄目だ、今の俺に近づいては。しかし俺は俺自身が念話を飛ばすことは出来ない。

ユーリアはなんの疑問も持たず魔将ダンジョウを見据えながら俺の方へ近づいてくる。


今の俺の動かせない視界の中で、俺の異変に気づいている風な人はいない。誰もが魔将ダンジョウを見ているせいだ。いや、やつがいなくても気づけないのかもしれない。



「偉大なるお方? 魔王カッシオではないのか?」


大司教が問答を始める。魔王カッシオはここですよ!

魔の者感知は肉体だけなのか、魔将の気配が大きすぎて俺に紛れている魔王には気づけないのか。



『ええい、ダンジョウは何をしている。さっさと暴れぬか』


俺のそばに寄って来たユーリアの肩に俺は手をおく。ユーリアがそれだけでだいぶと安心したのが手越しで分かる。



「わたくしはカッシオ様からはパスをお借りしただけですよ」


ダンジョウが大司教に斬りかかる。

ケリスさんや大司教の護衛がカバーに入るが間に合わない。凄まじいスピードだ。

俺の視力では捉えることも出来なかった。


大司教が袈裟に斬られるのが見えた。俺自身は顔をそむけたかったが、体は動いてはくれなかった。

大司教が崩れ落ちる。

ケリスさんがダンジョウに斬りかかったけど、ダンジョウは面倒くさそうにその剣を払っただけだった。



「ふむ? あまり手応えがないな?」


魔将ダンジョウが不思議、といったイントネーションでつぶやく。



ばっさり斬られたはずの大司教が立ち上がってくれた。良かった、生きてる。


「魔の者に安々と殺されはせんよ。これでも人間としては長生きしてるのでな」



「なるほど。聖の者か。うっとおしいのう」


ダンジョウが大司教に向かって、左手を突き出す。


「長生きしたんだろ? ならば、そろそろ去ね。デトネーション」



「カウンタースペル」


アルティナさんの魔法打ち消しだ。ダンジョウはアルティナさんの存在に気づいてなかったか、舐めていたかしたのだろう。

爆発の魔法を打ち消されて、驚いている。



その隙を見逃さず、ケリスさんが再び斬りかかる。が、軽く受け止められてしまった。


うーん、ケリスさんでも格下になってしまうのか。

だとするとこの場では誰もダンジョウに敵わないってことなるな。その上俺が体の自由が効かないばかりか、乗っ取られてるっぽいのは、まずい。



俺はうんうん唸って体を取り戻そうとするけど、全然駄目だ。


ユーリアの肩から手が離れない。今の俺の近くにユーリアがいるのは危険すぎる。


そっとユーリアが俺の手に手を重ねた。


「大丈夫だから」



ユーリアは震えていた。それをごまかすようにつぶやいたのだろう。普段の俺ならなんとしてもユーリアを守るために動くだろう。

が、これでも体は動かせない。魔王もこの体を動かさず、ずっとユーリアを手中におさめている。



『ダンジョウも言うほどでもないのだな』


あー! 駄目だ、ケリスさん逃げてー。と思わず叫ぶが、もちろん声は出ない。


それどころか俺はユーリアの肩に手を載せながら、不穏な動きをしている。


このままではケリスさんとユーリアがやばい。



「リュウトさん」


後ろから小声がかかる。

はっとして俺は後ろを振り返る。

ペトチッカさんだ。ペトチッカさんが進み出て二人共後ろに下がるよう身振りで指示してきた。


後ろにはラピーダさんとリュハスさんがアンソニーさんを守っているのが見えた。



『ち、タイミングの悪い』


俺の中の魔王は悪態をつきながらペトチッカさんの指示に従い、ユーリアを連れてそっと後ろに下がる。


リュハスさんがユーリアを抱えあげてアンソニーさんの乗っているゴーレム、大司教が降りたので空いていた、に乗せた。


おーナイス! あとは俺だけだ。



「こちらへ」


ラピーダさんが小声で言ってから腕を取って引っ張る。と思ったら後ろ手に取られて関節を決められて動けなくなってしまった。



俺も、俺の中の魔王も『「???」』となる中、ダンジョウがこちらの動きを見つけ飛びかかってくる。


しかしその動きは今度はケリスさんに止められた。



「お前は誰だ?」


ラピーダさんが腕を決め、首に短刀を近づけて俺に囁く。


「誰って、どういうことですか? ラピーダさん」


俺の中の魔王は内心焦りまくってるけど極めて冷静にそんな事を言う。


さすがだ、ラピーダさん、気づいてくれたんだ。

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