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颶風竜

『うぬぅ、ぬかったわ』


サイレンスの中からリヒューサの声が聞こえた。気がしただけで全方位の念話みたいだ。



『人化での戦いは私の負けで良い。模擬戦でなければ腕や首を落としてきただろうしな。私もおとなしく落とされはせんが、この状況に追い込まれている時点で私の負けだと認めよう』



おー、誇り高い?リヒューサが自ら負けを認めた。



『この状態のまま人化を解けばお主たちの不利になるゆえ、離れるがよいぞ。そのかわり先手はお主らに取らせることを約束しよう』



腕ひしぎ十字固めで固められている体勢で尊大な物言いだけど、確かにそうかもしれない。このまま竜化したら巨体に巻き込まれそうだし。



ラピーダさんもトレイスさんも納得したようで、リヒューサから離れてこちらに戻ってくる。


『ふ、よもやこんなにあっさりと敗れるとは思っておらんかった。正直舐めてたわ。本来の姿では舐めずにやりあってやるので心してかかってくるがよい』


サイレンスが時間経過で解けたようだけど、まだ念話だ。



リヒューサは立ち上がって、固められた方の肩を動かしている。


次の瞬間、少女の姿は消え、一瞬で颶風竜がそこに現れた。瞬きしてないので本当に一瞬で変化したんだと思う。



最初に会ったときは犬程度の大きさだったのに、すでにかなり大きくなっている。

ヴァルカほどはないけどもう立派な竜だ。竜基準でいえばまだ幼体らしいけど。



『全員でかかってくるがよい』


「全員、でいいのですか?!」


思わず指揮官のファーガソンさんが問う。確かに普通に考えたらこれだけの人数の攻撃を甘んじて受けたらそれだけで吹き飛ぶほどの戦力はあるはずだ、並の相手なら。



『かまわぬ。人化戦ではみっともない姿を晒してしまったからな。ちょうどよいハンデになるやもしれん』



みっともないというか、あれはファニーウォーカーがすごかっただけという気もするけど、リヒューサがそういうのならいいんじゃないかな。


ファーガソンさんは一度クレイトさんの方を向いてから俺を見た。クレイトさんは肩をすくめただけだったっぽくて俺に判断をふったようだ。俺は行こう!の素振りをした。


「遠距離攻撃の出来るものは準備を。一斉にしかける。できないものは反撃への警戒を」



ハギルの方にも伝わったようで、弓を構えたオークや魔法を使うナーガラージャ、ナーガたちが前に出てきた。各所にいるゴーレムも瓦礫を持ち始め、冒険者たちも位置を調整し、弓や魔法の準備を始めた。そしてケリスさんも前に出た。



『最初の一撃は全力で行う。持てる最大の火力を出してくれ』


魔法使いたちが詠唱を始める。俺とユーリアは最大の火力と言われてもライトニングとファイアボールだからなぁ。



『かまえ……、放て!』


冒険者の陣地と異種族の陣地から多数の矢がリヒューサめがけて放たれる。ゴーレムも合わせて瓦礫を投げる。

全部当たったと思うけど、音がおかしい。

生き物に当たったような音がしない。むしろ金属音がする。

リヒューサの鱗に触ったことあるけど確かに金属みたいだったしな。遅れて魔法が完成し、ライトニングやファイアボールがリヒューサを襲う。


さらに遅れてデトネーションの爆発や、地面から土でできた棘、ケリスさんが放ったであろう剣の衝撃波がリヒューサを攻撃する。



人間だったら数回は消し飛んだかもしれない攻撃がリヒューサをつつんだ。



しかしもちろんリヒューサは健在。さすがに無傷ではないようで、何本か矢が刺さっているのが見えるし、焦げている部分もある。


一番大きなダメージはケリスさんの衝撃波じゃないかな。


ちょっと左腕に切り傷が見えるし。けどピンピンしてるな。


大半の冒険者たちはあーやっぱりかーって感じの表情をしているけどファーガソンさんには驚きだったようだ。



『あれほどの攻撃を受けても平気なのか。恐るべきは竜よな。弓兵、魔法兵は下がれ、前衛は前に出ろ。くるぞ』


以前の癖なのか兵扱いだったが、まあ間違ってない。



リヒューサがその場からブレスをふいた。炎のブレスだ。毒ガスや電撃じゃないのね。


距離があったせいか以前言っていたように手加減してくれたのかそのブレスでこちらの被害はなく、全て防ぎきれた。


オーガやグーファスの盾、冒険者たちの前衛の盾が防いでくれた。


しかしそのブレスはこちらへの目くらましだっただけのようで、リヒューサから見て後方に位置していたゴーレムの陣地へ攻め込んでいた。


後ろからの攻撃がうっとおしかったのかもしれない。


最初の飛び付き尻尾払いで数体のストーンゴーレムが文字通り吹き飛び、残ったストーンゴーレムもかぎ爪とブレスで吹き飛んで、その場所のゴーレムは全て動きを止めた。



うわぁ、あのタフなストーンゴーレムたちが一瞬で殲滅されてしまった。


ファーガソンさんがあわててゴーレムたちに攻撃停止の命令を送る。ゴーレムたちの中身のゴーストには生前に戦闘経験のある人いないからなー。



『各冒険者パーティーごとに突撃。これ以上ゴーレムを壊させるな。ハギルはこちらが戦闘に突入したら背後から突っ込め』


冒険者達に細かい戦闘指揮は不要とばかり丸投げしていく。

確かにゴーレムの戦闘力では抵抗すらできないと証明された以上、ゴーレム陣地を守らないといけない。


でないとせっかく配置したのにいざ飛ばれた時に対抗策が減ってしまう。



本陣ということで、ファーガソンさんの周りに俺とユーリア、グーファス、レミュエーラ、守りにオーガたちがその場に残り、オーガの数名が近くにあるアイアンゴーレム陣地へカバーのために近づく。


冒険者たちはパーティーごとにリヒューサへ近づく。



最初にリヒューサに接敵したのはケリスさんだった。


ジャンピング近距離衝撃波でリヒューサを攻撃する。


その攻撃をリヒューサは右腕で払うように受ける。ダメージが入っているようには見えない。


その直後長い首を操って噛みつき攻撃をしてきた。

着地の隙を狙ったようだけど、無事飛び退って回避した。


その下ろしてきた頭を狙って追いついたトレイスさんが片手で持つには大きな斧を振り下ろす。


その攻撃を頭を引いただけで回避したリヒューサはそのまま二人に向けてブレスをはいた。



やばっ!と思ったけど、それほど大きな炎ではなく、またケリスさんが以前に見た盾が光る技を使ったので、二人は丸焦げにならずに済んだようだ。

やっぱりリヒューサはブレスを手加減してくれているようだ。

全力で吹かれていたら……どうなっていたんだろう? そういった意味でもリヒューサ恐ろしい子。



少し回り込んだ位置にいたウッドチャックさんが弓に変えて装備した大剣をリヒューサの足に振り下ろす。

すごい音がして弾き返されたような体勢になる。


まじかよ、って感じだ。


ウッドチャックさんの名誉にかけて言うと、ケリスさんやトレイスさんは魔法の武器だけど、ウッドチャックさんの大剣は魔法のかかっていない通常武器だしな。


たぶんそのへんの差なんだろう。



「ウッド、いったん下がれ! エンチャントする」


後方にいたロングテールさんから指示が飛び、ウッドチャックさんが下がろうとする。


それと同時にリヒューサがその場を回る。リヒューサの長い尻尾がウッドチャックさんやケリスさん、トレイスさん達前衛を襲う。



後ろにつこうしていた素早いオークが吹き飛ぶのが見えた。


あのスピードじゃオークでは反応できなかったのだろう。


ウッドチャックさんも吹き飛んだ。が大剣で攻撃を受ける体勢で着地したので無事受け流せたようだ。

受け流せてあれほど吹き飛ぶのか、って感じだけど。


ケリスさんとトレイスさんは避けれたようだ。尻尾の到達が一番遅かったしね。



前衛との距離がいったん離れたせいか、後衛から猛烈な魔法攻撃が飛んでいく。


再びデトネーションを使ったのはアルティナさんだろう。

ファイアジャベリンも飛んでいる。


ライトニングも飛んでいた。誰だろうと思ったらラピーダさんだった。攻撃魔法も使えるのね。



それらの攻撃を嫌がったのか、リヒューサが翼を大きく広げて飛び上がろうとした。


その瞬間ファーガソンさんの指示でゴーレムから瓦礫が投げ込まれ、翼に当たった。リヒューサは飛ぶのを諦めたのか着地してこちら本陣に大きく飛びかかってきた。

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