会場入り
今日はリヒューサとの模擬戦の日だ。
皆朝早くから起きて準備を始めている。
厨房を覗いてみるとビルデアさんとモーガンさんが料理を手伝う希望の子たちと朝食とお昼のお弁当の準備を同時に行っていた。
大きな厨房で良かったよ。
クレイトさんがいないな、と思ったら庭にいた。
なにしてるんだろと見に行ったらアイアンゴーレムの設置をしていた。
「やあおはよう」
「おはようございます」
これで屋敷を空にしてもある程度安心ですね。
『ああ、ようやく暇ができて設置できたよ。入り口に二体設置したからあと一体、巡回型を設置しようと思っている』
へぇ、そんなこともできるんですね。
『そのためのコアだからね。この門番タイプも従来のゴーレムと比べたらだいぶと応用が効くはずだよ』
ある程度自律していて、門を突破されても追いかけたりできるようだ。
『ただ屋敷に入られるとアイアンゴーレムでは重すぎて床を踏み抜いてしまうから、屋敷内用にウッドゴーレムも配置するよ』
他に窓や普段使わない出入り口にはロックをかけ直しておくそうだ。
「それじゃ朝ごはん食べてきますね」
「ああ、エテルナ・ヌイまで子どもたちの引率は任せるよ。僕はたぶんアンソニーくんや大司教様の相手をしないといけないだろうからね」
朝食を終えたあと、スタッフ全員とともに子どもたちと一緒に教会へ向かう。
補助をしてもらっている年長組のアエラスとフレデリックをのぞき、男女で一組になって歩いてもらう。
元の世界での小学校みたいなもんだな。まあ男女比があってないから普段はダロンとルクスがあまりだが、今日はレミュエーラがいるからダロンとレミュエーラが一組だ。
ルクスはジャービスさんが背負っている。さすがにルクスの歩く速度に合わせていられないので。
ちなみにユーリアは俺と一組だ。
教会の近くまでくると、いつもの助祭さんがこちらにやってきた。
直接転移門へ行くようにとのことだ。
まあ子どもたちがぞろぞろと教会に来られても困るのかもしれない。
助祭さんの先導のもと転移門がある建物へ入っていく。
見張りであろう兵士さんに頭を下げながら建物に入っていくと、すでに荷物を背負った伝令?たちがたくさん出入りしていた。
背負ったり手押し車を見るにお酒を持ってきてくれるゴールドマン商会の荷物だと思う。
ダグサさんもいたし。
「おはようございます、ダグサさん」
「あ、リュウトさん、おはようございます。本日はよろしくお願いします」
「ダグサさんも来られるんですか?」
「ええ、お酒の手配はアンソニーより私が任されましたのできちんとすべてお渡しできるまであちらにいさせてもらうつもりです」
アンソニーさんのお目付け役でもあるっぽいな、これ。
「そのアンソニーさんはどちらに?」
「はい、今は教会の方にいると思います」
また誰か入ってきた。大量の荷物をもった伝令だった。
中身がお酒だとしたらすごい重さになってるはずだ。
たぶんこの人も怪力のギフトを得てるのだろう。ギフト持ちって結構いるんだな。
怪力のギフトだと判明しやすいってのもあるんだろうけど。
その人は荷物をおいて出ていった。ピストン輸送してるのか。
「馬車が使えないとたいへんですね」
「ええ、でも馬車を手配して時間をかけて運ぶよりは、こっちの方が手軽で助かるんですよ」
そうなんだ、迷惑かけてないのならよかった。
転移門はまだ開いていない。
今日もクレイトさんが開くことになっていて、俺達と別行動しているクレイトさんがまだ教会から来ていないから。
待ってるうちにすごい量の物資が集まってくる。
集まりきったのか伝令の出たり入ったりがなくなったぐらいに、クレイトさんがアンソニーさんと大司教を伴ってやってきた。
「みんな、集まってるね。待たせてすまない」
片手を上げながらこちらにも声をかけてくれるクレイトさん。アンソニーさんはダグサさんの報告を聞いている。アンソニーさんの周りにはファニーウォーカーの面々もいた。
大司教がにこやかにクレイトさんの後ろに控えていたので、代表して俺が挨拶に行く。
「おはようございます、お久しぶりです、大司教様」
「やあ、おはようございます、リュウトさん。面白そうなものに誘ってくださってありがとうございます」
「こちらには子どもたちがいますので、騒がしくなるかもしれませんが」
年長組に目配せする。それだけで年長組は理解してくれたようで、大司教に挨拶した。それにつられて次々と子どもたちも挨拶する。
大司教は子供嫌いではなかったようで、終始にこやかに挨拶を受けてくれた。
「本日はわたしどもも皆さんの近くで見させてもらいますよ、こちらこそどうぞよろしくです」
ほんとに権力者なのか? と思うほどできた人だ。まあ宗教者なんだから当たり前なのかもしれないけど。
クレイトさんが転移門を開いた。
先触れというか様子見に最初にアレックスさんとビルデアさんが入っていく。
しばらくしてクレイトさんが入っていき、それに続いて大司教が護衛を伴って入っていく。
次に俺らが入っていくことになった。たくさんの荷物があるゴールドマン商会は最後のようだ。
転移門の先ではみんなが待っていたようで、主だった面々は全員そこにいた。
驚いたのはハギルもいたことだ。さすがに後ろに控えているけど帯剣もしている。
かなりドゥーアさんやケリスさんからの信頼を得ているようでなによりだ。
彼らは大司教の方へいっていて、俺達にはアルティナさんが出迎えてくれた。
ダグサさんもやってきた。
その後ろにはフローティングディスクにのった大荷物がついてきている。
グーファスが対応してとりあえずの置き場所を教えている。ダグサさんのあと何人もの伝令が荷物を持って入ってきた。
「子どもたちの案内をしますね」
アルティナさんが子どもたちをひきつれて出ていく。慌てて俺とユーリアもついていく。
ゴーレムたちが建物を打ち壊して開けた土地にしていた場所へ案内される。
今日の模擬戦はここでやるみたいだな。
転移門寄りに簡単な柵が作られていて、そこらへんが見学場所のようだ。
休憩処から持ってきたと思われるテーブルや椅子なども置いてある。
これらはアンソニーさんや大司教用なんだろうな。
クレイトさんたちもこちらにやってきた。
「先にお墓参りをするよ。ユーリア来てくれるかな。僕はこちらで準備しておくから」
ユーリアと二人でアンソニーさんと大司教を墓場へ案内する。
まずは先にいつものチェックをユーリアにしてもらう。
そのあと大司教が何やら聖王教のお参りらしいことをしてくれた。
そのあとアンソニーさんがお墓に向かってお祈りをしている。
こういうの見ちゃうと俺は親不孝をしてしまったな、と思ってしまう。自分の意志でそうなったわけじゃないけどさ、戻る努力はしてないからなぁ。
ダグサさんは転移門の方でグーファスと荷物のやり取りをしているためいない。ファニーウォーカーだけが護衛だろう、アンソニーさんと一緒にいたのでお参りが終わったあとに声をかける。
「おはようございます、本日はよろしくお願いします」
一番近かったトレイスさんに声をかけたのだが、トレイスさんは護衛中のためかこちらを見ただけで近くにいたラピーダさんを呼んできた。
「おはようございます。名目上今は護衛中のため私のみが対応させていただきます」
「ああ、すいません。仕事の邪魔しちゃいましたか」
「いえ、大丈夫です。対応が私が係というだけですので。本日はこちらこそよろしくお願いします。ダグサが戻ってきたら護衛任務は終了ですので、もうしばらくお待ち下さい」