子孫
「ライルさんの話を聞かせてくれませんか? そっくりだって聞くので親近感が」
てきとーな理由をつけてライルさんの情報を引き出そうとしてみる。
「私は一人でもなんとかなるんだけどたまたまパーティーがいたほうがいい時に、ライルに是非にと言われたからパーティーに入ったのよね」
ラピーダさん、一人の方が得意なのか。破術師っていう聞き慣れない職だし、その職の特性なのかな。
「ラピーダもかよ。俺もライルに『君を放置しておくわけにはいかない』とか言われて強引にパーティーに入れられたんだぜ」
トレイスさんが酒を煽あおりながら思い出すような感じで言う。
「私もだ」
相変わらず単語単位でしか話をしないリュハスさん。
「なんや、結局みんなライルに誘われたって口かいな。自らの意思で入ってきたってやつはおらんかったんかい」
「ずっとライル中心で動いてきたからね。そういえば私達、ライル抜きで飲みに行くとかなかったね」
「今回もリュウトさんが来てくれたから、やしな。俺ら、パーティーなのにあまりお互い干渉しない感じやったしなー」
「ライルが異常なまでに干渉してきてたから必要なかったんだよな」
「よく私達、ライルがいなくなってもパーティーとして維持できてたわね」
飲みながらラピーダさんが不思議そうにつぶやいた。
ペトチッカさんが怪訝な顔をした。
「そらお前、お前がありえんほど落ち込んどったからなぁ。いくら干渉しなかったとはいっても長年一緒にやってきた仲間だしお前切り捨てて他に行くとか思いもよらんかったわ」
「なし崩し的に逃避行になっちまったしな、一蓮托生ってやつかもな」
「諦めろ」
リュハスさん何を諦めるんでしょうか? 言葉が少なすぎて分からない。けどラピーダさんや他のメンツにはわかったようだ。さすが長年の仲間ってことかな。
「わかってるわ。あんたたちも本当にライルに影響受けてるものね。けど私、そんなに落ち込んでたの?」
そういえば最初にラピーダさんと会った時の表情の変化は凄まじいものだったのを思い出した。まさに天国から地獄へ、といった感じだったからなぁ。
「見てられんほどだった」
簡潔に一言でリュハスさんが言い切る。
「そっか、そうか……ありがとね」
ラピーダさんがどきっとするような微笑でお礼を言った。
「ライルは勇者らしいからな、その仲間だった俺らが仲間を見捨てるとかできるかよ」
え? なにそれ? 勇者? そこを詳しく。
「ライルさんが勇者ってどういうことですか?」
そもそもこの世界に勇者なんていう概念があったのか。
「ん? ああ、ライルが自分で言ってただけだけどな。何でもライルの先祖が魔王を生み出してしまってその子孫、ライルから見たらそれも先祖なんだが、その数代前が魔王を討ち取って勇者と讃えられた家系だって。今でも勇者として家系が続いているとか言ってたぜ。な、変人だろ」
んんんんんんん?! クレイトさんに聞いたクレイトさん自身の話といろいろと符合するんだが? けどこれはファニーウォーカーには聞けないなぁ。
「そうなんですか。ライルさんの本名、というか姓? それってなんなんですか?」
「へんなこと気にするんだな。俺は聞いたことないなぁ」
「わいも聞いたことないな」
「私には教えてくれなかったわ」
「魔王を生み出してしまった家系だから秘密、だと言われた」
リュハスさんが文章を! いやいやそんなことはどうでもいい。確証は出なかったけどもしかするとライルさん、クレイトさんの子孫なのでは?
「そんなヤツだったから報酬とかあまり気にせず、人の役に立つことばかりやらされてたな」
「正直腐竜退治の話もそれだろ?」
「そうだね、都市連合の思惑はさておき、腐竜が町のみんなに迷惑だったのは確かだったからねぇ。なんてったって付近のアンデッドどものボスだからね」
そういえばたびたび名前があがってくる腐竜だけど詳しいことを聞いたことがなかったな。
「腐竜ってなんなんですか? この町にいると縁がなくて」
「元々颶風竜だった存在が不死の魔王に破れ、アンデッドに堕ちた姿だと言われている」
おお、続いてリュハスさんが文章を。というかもしかして解説役なのか?
「普段は理性を保ちおとなしくしているようだが、たまに理性が吹き飛んで暴れるらしい。それで町が一つ滅んだという話もある」
あー、それってエテルナ・ヌイのことだな。
「腐竜の出す死の瘴気を浴びて死ぬとアンデッドになってしまうらしい。だから腐竜はアンデッドの主となっている」
ドゥーアさんたちがアンデッドになった理由がそれか。
「生前、力があったものは強力なアンデッドになるらしいからな、ライルがそれで死んでいたら恐ろしいことだな」
「やめてよ、考えたくないわ」
リュハスさんの想定を否定するラピーダさん。まあ確かに元仲間が強力なアンデッドになってるなんて想像はしたくないだろう。
「すまない。だが事実だ」
「どれぐらい強かったんですか? ライルさん」
ちょっと悪い雰囲気になりそうだったので話を変えてみる。
「魔法なしでも結局勝てなかったなー。これでもライル以外に負けたことないんだがな」
魔法なしでも純戦士のトレイスさんに勝っちゃうほどか。
「その上あいつ頑健持ちだったせいか怪我一つせえへんかったんだよなぁ。治療術師としてはやりがいのないやつやったわ」
「頑健ってギフトのそれですか?」
「そーそー。詳しくは知らんけどそういうの持っとる言うとったで」
ギフトまで一致しちゃったか。今までも疑う余地はなかったけど、これほぼ間違いないな、この体はライルさんのだわ。
「魔法の力も大したものだった。さすがに専門家にまさるほどではなかったが魔法戦士であのレベルの使い手は他に見たことがないな」
戦士以上の戦士で魔法使い並みの魔法使いって、そりゃ確かに勇者だなぁ。
「あいつ回復魔法も使えたんだぜ。わいの立つ瀬ないっちゅーの。あんなハイブリッドなやつ他にはおらんやろ」
ますます勇者だ。けどライルさんが回復魔法が使えたのなら、俺も頑張れば回復魔法使えるってことか。良いことを聞いた。
料理やおかわりのお酒も運ばれてきて、いよいよ飲み会らしくなってきた。
ファニーウォーカーの皆さんのこともいろいろと聞いたけどライルさんの記憶が蘇ってくることはなかった。
途中から酒に酔ったせいかライルさんとして扱われてた気がするけど、悪い感じはしなかった。
ライルさんの魂がどこかにまだあるのなら体を返してあげたい気もするけど、その場合俺の魂の行き場所がなくなるしなぁとか酔った頭で考えながら他愛のない話をした。
そうこう数時間話しながら飲み食いして、普段はあまり飲まないらしいリュハスさんがつぶれたのでお開きになった。
「リュハスがつぶれるとか、珍しいわ。彼もライルにいろいろと思うところがあったのかもね」
とはリュハスさんの最低倍は飲んでるはずなのにぴんぴんしているラピーダさん。
怪力のギフトを持つらしいトレイスさんがリュハスさんを抱えて店の外に出る。
店の店長にはペトチッカさんが代表して支払いをしてくれた。俺はおごりだそうで甘えることにした。
「トレイスのやつも足元やばいんでわいがついていくわ、リュウトさんはラピーダに任せるわ。襲うなよ?」
「ばか! そんなことするか、バカ!」
大事なことだったせいか二回もバカと言っていた。まあ見た目はそんなに変わらないけどラピーダさんも流石に酔ってるんだろう。
「俺なら大丈夫ですよ。そんなに酔ってないんで」
「あなたもライルみたいにお酒に強いのね。本当にそっくりだわ。いいえ、預かった手前ちゃんと送り返さないといけないですから」
そういって屋敷まで送ってもらった。帰宅して女性一人で返すのはまずいのでは?と思い、屋敷に泊まっていくことを提案したけど固辞された。
「では私が送っていこう」
クレイトさんがのりのりで話にのっかってきた。
いくら強いとはいえ酔ってる女性を一人で返すのはねぇ。
送ってもらう時点で気づくべきだったんだけど結局俺も酔ってたってことなんだろうな。
「師匠、申し訳ないです」
「はっはっは、気にすることはない。私も破術師と話をしたいしね。では行ってくるよ」
そういってクレイトさんはラピーダさんを送っていった。まーライルさんがクレイトさんの子孫っぽいからなにか思うところもあるんだろう。
俺はと言うと、酔ってないつもりだったけど戻ってすぐベットに倒れ込んで寝てしまった。