表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/137

少女と男

目を覚ますと眼の前に見覚えのない少女が座り込んで心配そうにこちらを見つめていた。


って、え? あれ? ここはどこだ? なんでこんなことに? きみはだれ?

その異常事態にようやく気づいて飛び起き……、ようとしたができなかった。体中が痛くて思わずうめき声が出ただけだった。


「動かないで。待ってて」


眼の前にいた少女は、確かに俺にそういって小走りで去っていった。


しかし、なんだってんだこの状況は。

今俺は体中が痛くて動かせないまま仰向けに転がっている。寝ている場所は土の地面だ。

……夢を見ているんだ、と思いたいんだが体の痛みが夢じゃないと言ってくる。


どれぐらい時間が経ったのだろうか。体が痛いからとても長く感じたが、実際のところは数分といったところな気がする。先程の少女が男を連れて走ってきた。


「ふむ、致命傷を受けてるというわけでもなさそうだな……」

と駆け寄ってきた男はこちらを見つつ、そんな事を言う。少女は俺の頭を抱えて俺を無理やり座らせた。


「いってぇ……!」


ひどく情けない声を上げてしまう。

思わず涙目の俺に少女は赤い液体の入った小瓶を渡してきた。十歳ぐらいの少女に世話されるのは、なんとも居心地が悪い。が痛くて動けないのも事実だ。


「飲むといい」


男がその小瓶の中身を飲むように促す。

痛みで気づいていなかったが、喉も乾いていた俺は、なんの疑いも躊躇もせずにその小瓶の蓋を開けて、中に入っていた赤い液体を一気に飲み干した。若干甘い気がしたがおいしくはなかった。


「それなりのレベルのポーションだ。じきに回復するだろう」


男がよく知っている、けれど実際には聞き慣れない事を言う。

ポーション?

ゲームでよく使われる単語で、だいたい回復薬のことを指す。もちろん現実にはそんな便利なものはない。


……ないはずなんだが、飲んですぐに体の痛みが引いてきた。おいおい、麻薬の類の痛み止めでも、ここまで劇的なものでもないだろうと思うほどだ。


そんな事を考えてる間に痛みは完全になくなった。それと同時に体も動く、というか痛みで削られていたはずの体力が溢れてくる感じがしてきた。


まだ座った俺を支えていてくれた少女にもう大丈夫だと身振りで伝えつつ、立ち上がろうとする。が、予想外に強い力で少女から動かないように肩を抑えられた。


「おとーさん、この人、呪いを受けてる」


「そのようだね。どれぐらいの力だい?」


「不思議。呪いの根本がなくなってて体への影響だけが残ってる感じ。だから三日分ぐらいかな?」


「それぐらいなら誤差だな。解いてあげるといい」


俺を置いてきぼりで二人は会話している。俺が呪われている? そもそも呪いってどういうことだ?

それ解けるの?

と思いっきり当惑していると、傍らにいた少女が俺を押さえつけながら頬にキスをした。


え? なんで?


と思った瞬間、まるで今目覚めたような感覚があった。


……やっぱり夢だったのか?


と一瞬考えたが即座に否定、なぜなら少女は未だに近くにいて、その少女からおとーさんと呼ばれた男も興味深そうにこちらを眺めているから。


「大丈夫?」


少女がこちらに微笑みかけてきた。


「あ、ああ。ありがとう、なんだか頭がすっきりしたよ」


思ったままの返答をする。


そこでようやく少女たちの容姿に疑問符がつく。明らかに現代の服装ではないのだ。

ゲームでよく見る中世ヨーロッパ風のファンタジー世界で村人が着ているような服を身につけている。


そして二人共金髪だし、目の色が黒ではない。いわゆる西洋人のように見える。

しかし俺はさっきから日本語を喋っているし二人が喋っているのも日本語だ。そう、ここに至ってようやくここがゲームの世界、あるいはその類に近い異世界なのではないかと思い至った。


「ゲームとはなんのことかよくわからないが、君の考えは概ね当たっている」


男が俺の頭の中で考えたことに対して返答をしてきた。


「ここは君にとって異世界である、ということだよ」


自分の考えが文字通り読まれていることにもびっくりしたが、異世界であると肯定されたことがもっとびっくりしてしまい、思考が停止してしまった。


「おとーさん、この人悪い人じゃないんでしょ? じゃあお話はあとでいいかな? 小屋にきてもらった方がいいと思う。立てる?」


「ああ、ユーリアの言うとおりだね。そうしよう。君もそれがいいだろ?」


少女が俺に肩を貸そうという体勢で立ち上がろうとしたので、目で大丈夫だと言いつつ、自分で立ち上がる。


男はこちらだと身振りしてから来た方向へ歩き出す。少女はまだ俺を気遣ってそばに立ってくれている。


「おかげさまでもう大丈夫だよ、ついていけばいいかな?」


少女に安心させつつ念のために聞く。


「うんっ、良かった! ついてきて」


少女は男が歩いていった方へ先に歩きだす。常にこちらを見たままで。笑顔で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ