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ファンタジー落語「亜人(デミ)嫁取り(後編)」


 さて大家でもあるご隠居から縁談話を持ちかけられた留吉、しかし見せられる娘は都市伝説だったり亜人デミだったり。

 しかし留吉、嫁を貰う気がないわけではありません。

 ただ気立てが良くて家事炊事が出来て、夜の夫婦生活ができればそれだけでいいという、その程度のことであります。

 この仲人好きのご隠居の話に乗らなきゃあ、一生わびしい一人身で過ごさなきゃあならなくなるかもしれない。

 てんで、 どうにかご隠居のご機嫌をとることに成功した留吉でございます。


「ふうむ、じゃあとっておきの娘さんを紹介してやろうかしらね。ありがた~く聞くんだよ」

「なんだか急に居丈高になりゃあがったね、このご隠居」

「なにか言ったかい」

「いえなにも。おぉ、こりゃまた、外国げえこく女子衆おなごしさんですかい。べっぴんというか、気品がある。こりゃ、ちょいといくらなんでもあっしのような一般ぴーぽーには不釣り合いなんじゃありやせんかい」

「いやいや、きょうびの世の中、身分違いだなんていうお方はおられませんよ。向こうさまとしては、氏素性よりも何よりも、若くて健康な男がいいとご所望で」


 写真の娘はなんとも美形の金髪娘。

 肌青白く、やや影のあるところがなんともまたそそられるというものでございますが、さあここまでくると、留吉の方も少々疑ってかかりたくなる。


「まああっしも職人でやすから、健康にはちっとばかり自信がありますけどね。あの、やっぱりいいとこのお嬢さまってえのは家事炊事がまったくできねえとか」

「いや、嫁入り修行も受けていて、人並み以上だそうだ。ただまあ、見ての通り外国のお方だもんで、多少あれが食えない、これが苦手ってのはあるそうだけど」

「まぁ、外国の娘御ならそれっくらいはしょうがねえですな」

「そんかわり、おまいさんに精の付く料理をたっぷり振る舞いたいそうですよ、どうだい、会ってみたくなってきたろ」

「……じゃあその、実は体の半分がないか、人間じゃないとか」

「いえいえ、留と並べりゃちょうどいい感じの背格好で、ちゃんとした人間に見えますよ」

「そうですか、そりゃよかっ……人間に、見える?」

「おっといけない、今のは聞かなかったことにしとくれ」

「そうはいきませんよ、きっぱりしっかり聞かせといてもらわねえと、おいらのかかぁの話なんですから」


 どうもご隠居、明らかになにか隠しているご様子。


「うーんまいったね。しょうがないから言っちまうけどね、その娘さんは『ヴァンパイア』だ。それもかなり正統な」

「ヴァンパイアに正統もなにもあるんですか」

「まあきょうびは昼日中に出歩いたり、ギョーザが大好物てぇヴァンパイアもいるそうですからね。しかしこの娘さんの血筋はちがう。なんでも遠い親戚にべら・るご○とかいう高名な俳優がおられるそうな。だから、まあニンニクが食えない」

「ま、若い娘さんには臭ぇものを嫌う人もおりますから、それくらいは別に」

「そいから日中は外に出られない。なぁに、きょうび魚屋だって豆腐屋だって出前くらいはしてくれるからでえじょうぶです。どうです、宵宮よいみやなんぞをヴァンパイアのかみさんと夜風に吹かれながら歩くなんざ、風情があるでしょう」

「はあ、まあ。ちょ、ちょっと待っておくんなさいご隠居。あの、さっきあっしに精の付く料理を振る舞いたいってぇのは、もしかして」

「気付いたか」

「気づかいでか」

「なにしろ相手は吸血鬼だ、週に一度くらいは人の生血が吸いたくなる。だからおまいさんにはたっぷり精をつけてもらって、週に一度だけちゅーっと」

「じょ、冗談じゃありませんや、ご隠居! するってぇとあっしはかかぁに血ぃ吸われるために、スタミナ料理をまいんち食わされるってんですか、そんなかかぁはゴメンですよ!」


「あ~……だから言いたくなかったんですよあたしゃ」

「怖いご隠居だね、この人ぁ。黙ってたらどんなかかぁを押し付けられるかわかったもんじゃねえや。あのですね、あっしはほんっと~に平凡なかかぁならそれでいいんですよ。別にデミだってお化けだって構やぁしない。もっと普通の嫁さんをお願いしますよ」

「そうかい? え~っと後はねぇ、オーガにモノアイにフレッシュゾンビに、そいから……ああ、このアラクネの姐さんがね、もとは花街の花魁おいらんだったんだけど身請けされて、けど旦那がとんだ浮気性で、いまは一人身だって話で」

「それ、前々回の噺でやりましたよ。しかし、一体なんだってこのご隠居は、そんな妙ちきりんな娘との縁談ばっかり取りつけたがるんだろうね。まったく理解に苦しむよあっしは」

「しょうがないだろ、あたしだって人に頼まれりゃいやとは言えませんよ。お~、この娘はどうだい、留」


 と、取り出したのはまだ少ぅしおぼこいが、気立てのよさそうな娘。

 身体はどうやら人間型のようですが、ただ両のこめかみから山羊みてぇな角が二本。


「その娘は魔族なんだがたいそうな苦労人でね。元の世界じゃえらく迫害を受けていたところを、とある洋食屋の店主に雇われて、以来まじめにこつこつ働いて、店でも人気者だそうですよ」

「ほう」

「どうしてなかなか、最近の若い人には滅多にいませんよ。店主の手伝いをするうちに料理も覚えたっていうし、もとより掃除はお手の物だ。それに苦労してるだけあっておとなしくて気立てがいいと聞く。これならおまいさんも文句はあるまい」

「今度は魔族でやすかい。じゃあこの角も」

「ああ、言っときますけど、角が生えてるって以外はまったく普通の娘さんです。あたしも知り合いから聞かされてその洋食屋に行ったんですけどね、たしかににこにこと愛想がよくきりきりとよく働く娘さんでしたよ。おまけにここの店主の腕がいい! その店主仕込みの腕なんだから、料理の方も間違いはありませんよ」


 なるほどたしかによさそうな娘ではありますが、ここで留吉、う~んと考え込みます。


「なんだい、まだなにか文句があるのかい」

「いえね、この娘さん自体に文句はねえんですが……ご隠居、あっしはどうも根っから日本人ってえか、その洋食ってのがどうも苦手なんですよ。日本人なら白い飯に焼き魚、菜っ葉のおしたしに味噌汁、漬けもんがあれば十分てなもんでさぁ」

「まあおまいさんにハイカラなもなぁ、あんまり似合わないね」

「そりゃあっしだって、たまには気まぐれを起こして『はんばぁぐ』なんて食ってみたくなることもありまさぁ。そんときでも日本人なら大根おろしにポン酢だろう! てな具合で」

「わりと面倒な男だねおまいさんも」

「いえ、タルタルソースだのなんだのソースが苦手で、どうにも胃にもたれるんですよ。ですから、洋食屋で働いてるってえのがちょいと気になって」

「う~ん、その店は別に洋食専門ってわけでもないし、呑みこみのいい娘さんらしいから、和食だってきっとすぐ覚えてもらえると思いますよ」

「そうでやすかねえ」


 嫁は欲しい、相手はいい娘だ、しかし……と留吉うんうん唸っておりましたが、やがて意を決したように、畳に頭をすり付けんばかりに頭を下げます。


「ご隠居、申し訳ございません! やはりこの話はなかったことにしていただけますか。どうか、先方さまにはこちらの落ち度であって向こうさまは何も悪くないとだけ」

「いえ、まだ何も話は進めてないからそれはそれでいいんだけどね。しかし勿体ないねえ、おまいさんもたかが洋食くらいでさぁ」

「いえ、夫婦めおとてぇのは他人と他人が所帯を持つこと。味覚の不一致がのちのち仲たがいの元になったとあってはいけやせん。なにしろあっしは根っからの日本人ですから」


 と、留吉ここで顔をはたと上げて。


「やっぱり『デミ』グラスソースよりはおろしポン酢を選びます」


 お後がよろしいようで……


 やっぱりばかばかしいお話でどうも申し訳ございません。

 亜人ちゃんネタというので、どうしてもアレとかアレとかアレのネタが入っております。ですが、別に元ネタを知らなくても大丈夫だと思いますが、いかがでしょうか。


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