第三話 大聖霊の力
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
レオは出来る限りの力を振り絞り神殿へ向かっていった。何故神殿に向かったのかは分からない。直感がレオをそうさせたのだ。
「どうせ逃げても無駄だぞ。」
背後からディースが追いかける。神殿へ向かえば何かある。レオはそう思っていた。
レオとディースはつかず離れずの距離を保っていた。
ディースは村中を烈火で焼くのに多量の魔力を使ってしまい本調子では無いようだ。
(このまま行けば追いつかれず神殿に着く...!)
神殿が見えて来た。
「ぐっ...!このままではっ...!」
ディースは焦っていた。レオが「先に」神殿にたどり着いてしまう事を。
「知ってか否かは知分からんが今、神殿に行かれるのはまずい...!」
そんなディースの思いも虚しくレオが神殿の中に入って振り向いた。
「はぁっ...はぁっ...」
「...何故此処へ逃げてきた。どうせお前は俺に殺されるのだ。運命は変わらん。潔く死ね」
「...此処は父さんの言う供物を捧げる場所なんでしょ?」
「...!何故それを...」
「恐らく父さんは僕達を含む村の皆を自分の手で殺し、その血を捧げて此処で何かをするんだと思った」
「......」
「僕は絶対に父さんの思い通りにはならない」
「僕は父さんを絶対に許さない。だけど僕じゃ父さんには敵わない。すぐに殺されるだけだ。」
「父さんの思い通りになるくらいなら自分から死んでやる!」
そう言ってレオは神殿に置いてあった短剣を自分の首元に向けた。
「待て!!レオ!!」
ディースは叫び、レオに近付いた。レオはそれを無視し短剣を突き立てようとしたその時。
「...ふむ...小僧。まだ死ぬには惜しいな」
またレオの背後から声が聞こえた。
ディースは口を開け絶句。レオは振り向く。
すると、そこには5mを超える火で包まれた巨人がいた。
「だ、大...精霊...か...?」
「なん...だ...これ...」
「小僧。貴様には才能を感じる。今此処で死なせるのは惜しい。どれ、我が手を貸してやろう。」
灼熱の巨人はそう言うと、右手を振り上げ右上から左下へ振り下げた。その瞬間、巨人の右手から爪の形をした炎がディースを襲った。
「ぐっ!?」
ディースは一気に神殿入り口まで吹っ飛んだ。
「つ、強い...!」
「奴も中々やるようだ。炎が当たる寸前で後方に飛び退き回避している。」
「...ふふふ...ふははははっ!」
ディースは高笑いをしながら立ち上がり、レオをみながら言った。
「まさかレオ、お前にその才能があるとはな!いいだろう!しばらく生かしておいてやる!お前が大聖霊と契約するのなら、俺にはやる事が別にある!それまでほんの少しだけ時間をくれてやる!」
ディースは狂気に満ちた顔をしながら左手に魔力を溜め、自分の足元に瞬時に魔法陣を創り出した。
「!ま、待て!父さん!」
「俺の準備が終わり来たるべき時が来た時、俺はもう一度お前を殺しに来る。それまでに精々強くなって俺を超えてみせろ!」
ディースはそう言うと魔法陣の放った光と共に消え去った。
「ふむ...逃げたか...しかもこの周辺ではない、大陸規模で移動したようだな。」
レオはしばらく立ち尽くした。そして、膝から崩れ、静かに泣いた。すると、
「小僧よ。奴を倒す力が欲しいか。」
巨人はニヤリと笑いながらそう言ったのだ。