ベルゼブブ その2
なんとも異様な光景になりつつあった
クママが演奏しているのは今「捨て猫拾ったあいつにドキッ♪」である
そこに本来ならばベルゼブブのパートをノッホが歌っている
ルシファーも歌っている・・・
眠姫はじっとサヤとベルゼブブの戦いを見ている
そして二人、サヤとベルゼブブの間にはルシファーらしき人物と相討ちした不変刀が突き刺さっている
その不変刀を二人は一周する
先ほどとは一変して討ち合いにはならなかった
乾いた地面に吹き付ける風
サヤはゆっくり歩いたままだったが、ベルゼブブは少し足取りを速めはじめた
「オイ!さっさと来たらどうだ?」
「なんかサヤちゃんも~?強くなった気がしたから合わせてみたの!にゃはは~」
ベルゼブブはもちろんまだまだ余裕そうである
サヤは息を整えるのを待っていただけであった
頭に詠唱の声が聞こえてきた
「汝に問う。幾千年の流星が流れ落ちるこの星に。悲しみと嘆きが降り注ぐこの星に」
「こっちから行くぞ!」
「かも~ん!にゃはは~」
サヤは一気に間合いを詰めると一閃
ベルゼブブはそれを拳で受け止める
凄まじい衝撃波が辺りに拡がる
「ひょぉ~。もはや人間最強語ってもいいんじゃないかな~?僕の見込んだ通りで楽しいよ!にゃはは~」
「チッ。軽々と合わせられると困るんだがな」
サヤは苦い顔をしている
そして不変刀を一瞥する
・・・長さが違うから二刀流はさすがにきついか・・・
すぐに二刀流の考えはやめる
どちらにしろ慣れていないことをしても勝てる気がしない
一刀二刀と振り放つ刀
そしてそれを真正面から弾き返すベルゼブブの拳
軽い連撃を放っていた先ほどの戦いとは違い
一刀一刀が居合に近い速度である
だがベルゼブブの素人ストレートが同じ速度であった
近接は得意ではないというのは本当のところである
だがそれでも未だにダメージを負わせた気配がない
そんな中また詠唱の声が頭に響く
「汝に問う。血を吸い続けた大地に。絶望と怒りを吸い込んだ大地に。」
サヤからは汗が流れ始めていた
今サビが流れ、ルシファーとノッホが何故か息ぴったりに踊っていた
だがサヤにはもちろん歌を聴いている余裕はない
ベルゼブブはサビの時ちゃっかりウィンクするのは確認していた
これだけ強くなっても私と同じくらいの年に変身したベルゼブブに手傷を負わせることすら出来ないなんて・・・
サヤの表情は強張って来ていたが、高揚感はあった
私は今確実にこの世界で一番強い敵と戦えている・・・と
最初にトロヘイ大森林で出会った時は正直目の前で動くのが精いっぱいだったのだ
あのときには絶望しかなかった
・・・?
領域を使っていない?
サヤはふと思った
それを悟ったかのようにベルゼブブが喋る
「うん。領域は使っていないよ?そうだね~。クママの新曲が終わるまで耐えたら使おうかな。僕の真の姿になってあげるよ!詠唱はまだまだ時間かかるんだよね~。あ、ちなみにサヤちゃんの頭にだけ僕の詠唱が流れているからね?にゃはは~」
「それはご丁寧にどうもっ!!てか真の姿とかやはりあるのか」
サヤには真の姿が全く想像出来なかった
願ったことはただ一つ
巨大でグロくありませんように!
である・・・
サヤとベルゼブブの戦いは全くの互角であった
だがベルゼブブの全力がわかっていない状態で既にサヤは7割に近い力で戦っている
先ほどのベルゼブブの話からするとこの後少なくとも1段階まだ変身した状態で戦うであろうことはわかっていた
目の前のベルゼブブは無邪気に攻撃を避け、そして単調なストレートを放ってくるだけである
そしてまた頭に詠唱が流れる
「汝に願う。長年を生きよと。別れと出会いを繰り返さずに。アイ・ウィル・ノッツ・ホォゲッチュ!」
左足に出ていた魔法陣が空へと吸収され、右足の魔法陣に少し重なる
「お!左足も完成した~!じゃあじゃあ次は~!じゃじゃ~ん!右手に移りま~す!にゃはは~」
ベルゼブブの右手に魔法陣が浮かびあがる
そして演奏も終わりを迎えた
「お!?おおお!?クママの新曲まで耐えたね~!サヤちゃん!新曲にも耐えたら僕の真の姿見れるよ~?まともに見た人なんていないから激レアだよ~?にゃはは~」
ベルゼブブの姿がまたも変化していた
今まではかわいい系路線を走っていたベルゼブブだが一気に妖艶な女性になっていた
出るところは出て、引き締めるべきところは引き締まっている
垂れ目気味だが目はぱっちりしている
泣きぼくろが左目尻にあり、口元にもほくろがある
サイドダウンの髪型が異様にマッチしていた
紫のドレスに大胆な背中びらきである
「さぁてこの姿も久々だよ~!サヤちゃんもそろそろ全力で来ないと死んじゃうかもよ~?にゃはは~」
ベルゼブブから溢れ出るオーラが一気に強まっていた
・・・おそらく並みの人間はもう立っていられないだろうな・・・
すっと出たサヤの本音であった
領域ではないが邪悪なオーラが漏れ出ている
変身しないのも納得は出来る
「それじゃあクママ!新曲頼むよ~?君と見た崖桜!!それとサヤちゃんがあまりやばそうになったら手助けしてもいいよ?そこの滅世に似た雰囲気のドラゴン!にゃはは~」
ベルゼブブは眠姫の方を見て手を振っていた
それに一礼した眠姫
そしてサヤのほうを見る
「ベルゼブブがああいってますが参加したほうがよろしいですか?」
「一回だけまずそうなの喰らいそうになったら助けてくれ。それ以外は手出し不要で頼む」
サヤの顔が少し和らいだ気がした
「クママの新曲とやらにも耐えてみせよう!いくぞ!ベルゼブブ!」
サヤからは自然と笑みがこぼれていた
そしてベルゼブブも微笑む・・・




