南西戦争前 その1
オーガ本陣は忙しく駆け回っているオーガ達がいっぱいだった
怨血童子の死亡そしてアクアの帰還
怨血童子前の頭首であったアクアが帰ってきただけでも相当だったが
怨血童子や他のオーガ達が死んだことにも衝撃が走っていた
次期頭首として有力視されていた凍土も死亡したのだ
今のオーガにまとめれるほどの逸材がいなかった
そしてそこに北東エリアより人間達が復讐のため出兵したと聞かされたのだ
アクアも困惑していた
いくら愚息と言えど人間に後れを取るとは思っていなかった
というか首都で暴れたと聞いたのでそれが信じられなかった
何か強大な力が世間から離れている間に現れたのだろうか・・・?
・・・そう言えばベルゼブブとか言うのが強いとか弟子たちがいっていたっけかな
弟子たち、サヤ・不変・月下はみんながそれぞれ口を揃えてあいつが一番強い
と言っていた
まあ最強は滅世だろうがな・・・
滅世のことは思い出したくないが仕方あるまい
そして今攻めてきているのはベルゼブブの手下?のルシファーとか言う天使らしきやつとのことだった
百夜だ、嘘は言うまい
ヴァンパイア一番の苦労人であり、嘘はまず言わない
それに夫の亡骸を大事に運んでくれた恩人だ
それにしてもまさか攻めてくるとはな
怨血童子がエリアボスとして君臨していたから当たり前なのか?
統一戦争のとき暴れすぎたらしいしな
報い・・・か・・・
いろいろ考えていたそのときだった
百夜が現れた
「お久しぶりでございますな水牙様」
百夜はふかぶかと頭を下げ、そして微笑みながら頭を上げた
アクアもお辞儀をしてみせた
自然な微笑みを浮かべていた
「百夜か。久しいな!その様子だと更に老けたんじゃないか?」
アクアは軽口をたたく
百夜は顎をさすりながら答えた
「そうですなあ。元祖より先に私が寿命を迎えるでしょうな」
アクアの軽口に冗談のようなやりとりを見せた
だがアクアにはそれは冗談には聞こえなかった
「まあ何か情報が入ったのだろう?聞かせてくれないか?」
アクアの目つきが変わる
百夜も目つきが変わった
「既に敵は南東エリアを通過中です。敵数は一万ほどですが、ほとんどはゴブリンで対処できるでしょうな。それと我々ヴァンパイアも力を貸すと元祖が宣言しました。おそらく戦場は月の加護で守られることでしょう。その方が貴方達も強くなるでしょう」
百夜がそこまで言うとアクアが質問した
「敵の大将は強いのだろう?元祖以上か?そうなると厄介なんだが」
アクアがそう言うと百夜がしばらく顎をさすりながら考え込んだ
しばらくの沈黙の後、百夜が口を開いた
「厄介なことにそうでしょうな。あの強さはゴブリンを20万当てようと塵とかすでしょう。滅世に届く力かも知れませぬ。それほどの相手と思っていたほうが油断はないと思われます」
百夜も滅世討伐戦に加わっていたので滅世の強さは知っている
それであえて滅世の名が出たということはやはり強いということ
ゴクリ・・・思わず唾を飲み込んだ
昔一時期強さを求めて滅世や元祖と争った時代とは違うとは言え、強さを求めるのがこの世界
だが今はそんなことは言っていられない
オーガ滅亡の危機に瀕しているからだ
元々総数が居ない上に繁殖力も乏しいのだ
そこにさらに付け加えてきた
「相手で強いのはルシファーだけと言えるかも知れませんが、召喚されし日本人達がどうやら最近騒がしい、という情報も入っておりますので挟撃が考えられまする。そちらを迎撃出来る人物はおりませんかね」
百夜は片目を開けて、アクアを見る
アクアも考える
そこで一人問題児を思い出した
凶鬼である
刀も魔力もそこそこなのだがとにかく頭がきれた
指揮は得意であったが、何故か日本人に執着しているところがあった
「凶鬼がいいだろう。強くはないが、頭はきれるほうだ。指揮も好きでな。うってつけだろう」
日本人に執着しているというのは避けておいた
まあ捕虜にする分にはいいだろうし
「オーガ部隊は日本人軍勢を抑えて頂きたい。その間に元祖・若・それに第六真祖でルシファーを倒します。それで日本人も退却するでしょう。切り札もいますし、まずこちらが失敗する可能性はないでしょう」
百夜が珍しく勝ち気でいることに、何故か不安を覚えた
滅世のときもこんな感じだった気がした・・・
「まあ、それで私はそっちには加勢しなくてもよさそうかな?日本人は結構強いと騒いでおったが」
アクアがそう言うと百夜は頷いた
「おそらく水牙様がいらっしゃってもきつい戦闘になるかと思います。ゴブリンもそちらへお使いください。はっきり申し上げますと第六真祖とルシファーにただならぬ因縁があるためなのですが・・・。どうか怨血の仇でもあるルシファーですが、我々にお任せ頂きたく思います」
そこまで言って百夜は頭を下げた
アクアはそこまで仇討ちをしたいとは思っていなかった
「構わない。愚息の仇よりも、一族の危機のほうが重要だ」
それが本心だ
怨血童子は刀の才能がなく、アクアは早々に見切りをつけた
夫が亡くなったことも重なり、頭首の座を降りると宣言し、旅に出てしまった
その後ほどなくして怨血が跡を継いだと聞いた
その頃から怨血は童子をつけるようにした
夫の影響だろうか・・・鬼の名前に童子がつくと聞かされたことがあったためその意味だろうが・・・
凍土に至っては孫にあたるが会ったことすらなかった
ただ戻ってきて凍土の評判を聞くと上々だったらしく少しおしいとも思った
だが過ぎたことだ
今は防衛をどうするか・・・指揮は私も得意ではないので、凶鬼に任せて強いやつを叩く遊撃のほうがいいだろう
私についてこれる者もいない
独りのほうが遊撃にも適しているだろう
「凶鬼に指示は任せたまま、私は遊撃して強いやつを片付けていくとしよう。そっちはほんとうに大丈夫なのか?滅世に近いということはかなりの強さだろう?」
アクアはそっちのほうが心配である
滅世に致命傷を与えることも出来ずボロボロになって負けたのだ
その名前を出すということはかなりきついはずだ
「元祖が力を取り戻しましたので・・・。それに第六真祖ですが、素の素材が強いので期待しております。総合力は若やわたくしめより上でしょうな。接近戦も魔法戦もこなせる万能な方でしてね」
百夜は顎をさすりながら答えた
「そうか・・・。まあ日本人はおかしな武器を持っていると報告を受けているし、こちらも気をつけねばならぬ・・・か」
般若の面が光った気がしたが、百夜は気付いてか気付かぬか話を続ける
「ランクSの冒険者は今出払ってるはずなので、大丈夫かと思いますが、油断大敵でございますね。ランクSのパーティは若と互角に戦いました故・・・」
百夜はどこか懐かしい雰囲気を出しながら空を見上げた
「そう言えば若って月下とか言うヴァンパイアのことか?」
アクアがそう言うと百夜は笑いだした
「ほっほっほっ。そうでございます。そういえば若に修行していただいたとか。ありがとうございます。停滞期でございまして・・・。元気がなかったのです」
アクアは月下の顔を思い出した
あれで真祖とは・・・元祖の力が落ちているというのは本当だったのだな
だが力を取り戻したと言っていたので、私がつけた傷が完治したということなのだろうな・・・
ヴァンパイアにとって眼は力の素に近い
私のもとに来れば治せたものを・・・
あいつも頑固なところがあるからな
無理矢理治すと大変なことになるがまあいいだろう
それもどうにかするだろう
私もそろそろ本気に戻るとしようか
アクアは般若の面を置いた
百夜はその姿に驚いた
なにせ数百年前に見せた美しい顔のままだった
そして憂いた顔はより一層美しい気がしたからだった




