南東エリアからの北上 その3
翌日みんな準備を終え玉座の間に集合していた
そしてクママと不変がこそこそ打ち合わせをしていた
「シュトリュがどうにも怪しい。そっちも気をつけてくれ。まあ月下は問題ないと思うけれど俺たちを睨んでるやつもいるからね」
クママは周りを鋭い視線で見渡していた
「ふむ。気配は目を閉じても感知できるから気をつけておこう」
不変は目を閉じたままそう答えた
その頃シュトリュは月下と話していた
「修行場所はどこにするんだい?」
シュトリュが片目を閉じたまま月下に問いかけていた
「・・・氷晶窟、グペロ大灯台」
いつものテンションでシュトリュに返答する
「なるほどね。グペロ大灯台を選択するのは実に月下らしいね」
シュトリュはクスクス笑っていた
そしてサヤとノッホ、ピュイアでも
「ノッホさんとはしばらくお別れだな。ピュイアは月下のサポートでついてくるらしい・・・」
サヤがピュイアを一瞥すると舌打ちをしていた
「うふふ。つれないわね~。楽しく行きましょ?」
ピュイアはサヤに胸を押しつけ笑っていた
「サヤさんどうかご無事で~。また、みんなでおしゃべりしましょ~!」
ノッホはピュイアが苦手じゃないのか少しノリノリな様子だった
「うふふ。ノッホちゃんも無事でね?元祖があなたを見る目つき怪しいし・・・」
ピュイアは元祖ことシュトリュを一瞥すると睨み返された気になった
そうこうしているうちにパンッと手を打つ音が聞こえた
「さてではそろそろ首都組は旅立つこととしましょうぞ」
百夜がそう言うとみんなの顔つきが変わった
「月下城にはあやつを置いていきます。何かあればあやつめに」
百夜が名前を渋っていた
「あやつとは月下の眷族で一番の問題児かい?」
シュトリュがそう言うと百夜が頷いた
「・・・コーハレか」
月下が呟く
「コーハレ?統一戦争で南東エリアで大暴れしたと言われるコーハレ侯爵のことですかね?」
クママが怪訝そうに月下に問う
百夜が諦めたかのように月下に代わり答えた
「その通りです。騎士団だけのはずが、住民も殺されたのはコーハレ侯爵が中心なのです」
百夜は上を見上げた
「城の地下に幽閉していたのですが、さすがに弱いのを月下城の守りの中心に置くわけにはいかないのです」
百夜がそう答えると月下も頷いた
「コーハレ侯爵かあ、まあどうせこの城からは出られないだろうし一時的ならいいんじゃないかな」
シュトリュはあまり考えたような素振りもみせずに言った
「わたくしめの眷族では力が不足しておりまして。申し訳ありません」
百夜が頭を下げる
「月下は眷族が少ないし、百夜は多すぎるんだよ。僕が選定してあげようか?あ、そしたらみんないなくなっちゃうか」
シュトリュはクスクス笑っていた
「ご戯れを。そろそろ行きましょうか。では若行って参ります。ご無事で」
百夜が深くお辞儀すると月下は少し頷いた程度だった
そして首都組は玉座の間から出て行ったのであった
「では元祖、いやシュトリュ様。馬車を用意してありますのでどうぞ」
百夜が手を差し出すとシュトリュは手を握りきつそうに乗った
「ここいらへんは小さいと不便だよね~。ベルゼどうしてたんだろ。あ。あいつ飛べるんだった、くっそ~」
シュトリュは悔しさを滲ませていた
「クママさんとノッホさんもどうぞ。4人乗りにしておりますし、くつろげる広さにしてあります故」
百夜が微笑む手を差し出すとまずクママ、そしてノッホも乗った
「南東エリアは特に問題はないでしょうな。北東エリアとの境辺りからちょっと注意ですな。尤もわたくしたちは人間にしか見えないでしょうがね」
百夜がそう言うとシュトリュが付け加えた
「とは言っても月の加護が失われているから、日中は眷族はほとんど行動出来ないんだけどね~。まあ治安いいし、ゴブリンみたいな臭いのは排除済みだから問題ないと思うけどね」
シュトリュはそう言いながら空中に浮かんで馬車の揺れの影響を受けないテーブルセットに注がれた紅茶を飲んだ
「コーハレ侯爵が城から出れないのと関係があるってことですかね?」
クママが鋭く質問すると
「その通りです。あやつは日の光に弱くて、まあ真祖でもないので当たり前と言えば当たり前なのですがね。ピュイアもブヘイも動けていたのであやつの怠慢でしょうな」
百夜が答えてくれた
「今度悪戯しにいかなくちゃね」
シュトリュは悪だくみを考える無邪気な子供の顔をしていた
「はぁ。若だけでも大変なのにシュトリュ様までとなりますと大変ですよ」
百夜は困った顔をしていた
クママとノッホはそんな百夜の様子を見て笑った
「ところでクママとノッホは恋人なのかい?」
シュトリュが急に話題を変えてきた
ノッホは頬を赤くした
「そうですね。約束が果たせたら結婚も考えてますよ」
クママはそう言うと視線を泳がせ頬をぽりぽり掻いていた
「約束・・・?あ、聞くのは無粋だね。そうかそうか」
シュトリュがにっこりするが笑っていないように感じられた
「二人だけの秘密ですので・・・。そうしてもらえると助かります」
クママがそう言うと
「結婚ですか。懐かしいですな。怨血童子の時以来ですかね?我々は結婚というのはないので」
百夜が昔を懐かしむ和やかな顔をしていた
「怨血童子ですか・・・。レイカはどうしてるんだろうな。ジュピ・・・」
クママもジュピとレイカの顔を思い出し天井を見上げた
ノッホは涙ぐんでいた
「おや?レイカとやらは知っているよ?女性だろ?人間は一人しか居なかったから、そのジュピとやらはわからないね」
シュトリュがそう言うとクママの顔つきが変わった
「レイカは無事なんですか?ジュピは俺の幼馴染でしたが、指輪が砕け散った時ジュピの死は感じました。その時スペシャルスキルを使いレクイエムを弔いにしたいのですが、それをシュトリュは聞いたんじゃないですかね」
クママがそう言うとシュトリュが「なるほど」と頷いた
「そうか・・・。人間は脆いし、寿命も短いからね。そうそうレイカという人間は怨血童子の凍土って娘と仲良さそうでね。今頃北西エリアに向かってるんじゃないかな?あっちはあっちで何か思惑があって動いてるみたいだしね。勢力で言えば一番弱いしね」
シュトリュはクスクス笑っていた
「半年で何があったんだ・・・。まあ俺達もこうしているから言えた義理ではないのだけれど」
クママは頬を掻いていた
「きっとわかりあえたんですよぉ~。統一戦争前も小競り合いぐらいだったらしいですし~」
ノッホがそう答えるとシュトリュが続いた
「前勇者で現勇者の父でもある、勇者モッペンがあの戦争の最大戦犯って言われてるね。まあ戦争のきっかけが勇者モッペンの怨血童子の妻殺しだからなあ。それに勇者モッペンの首で戦争が終わったしね」
シュトリュも百夜も当時を思い出したのか苦い顔をしていた
「あの戦争のおかげで僕たちは南東エリアを自由に闊歩出来るようになったんだけどね。別に昔の暮らしも嫌いじゃなかったからね。特に子供たちと別れて暮らすことになっちゃったしね」
シュトリュはそう言うと百夜の方を見た
「元々はとある場所で神器をみんなで守り静かに暮らしていたのです。麓の人間に少し血を分けてもらうだけで十分でした故」
当時を思い出したのかシュトリュも百夜も和やかな顔をしていた
長旅であったが、順調に北東エリア付近まで進んでいた
しばらくしてから馬車が止まった
「何事ですかな?」
百夜がそう言うと
「いえ、北東エリア近くまで来たのですが何やら人間のパーティが向こうからやってくるようでして」
人間の御者が答えた
「ふむ。ちょっと降りてみますかね。クママさんとノッホさんも降りてみてもらえませんかね。シュトリュ様はそのままで」
百夜が言いかけると
「いや僕も降りるよ。百夜が守ってくれるだろ?」
シュトリュがそう言うと百夜は頷いた
そう言うとみんなで降りて人間のパーティを迎えようとしたところで、向こうから走ってくる姿が見えた
「クママさ~ん!」
クママが目を凝らすと見たことある顔だった
ノッホはクママの袖を引っ張っていた
そう人間のパーティはドリィ・メッフィのパーティだった
「知り合いかい?女性二人から声掛けられるとか羨ましいね」
シュトリュがそう言うがクママは困った顔をしていた
「あはは・・・。騒ぎにならなければいいんですが・・・。特にノッホが・・・」
そこまでクママがいうと口を濁した
「ん?ノッホさんがどうかしたかい?あ・・・、そういうこと・・・ね」
シュトリュの顔が引きつっていた
ノッホがクママの後ろに隠れたまま魔力がダダ漏れで二人の女性を睨んでいた
一瞬で消し飛べるほどの魔力が漂っているのがわかったためであった
「クママ。いきろよ・・・」
シュトリュはそう呟くと空を見上げた




