月下城 その7
「・・・ル。・カ・・」
不変はサヤと意志疎通を断っていた
それほどに緊迫していた
一瞬の隙はそのまま死に直面するからだった
それなのにどこからか声が聞こえる
聞こえるようになったのはクママのオーケストラが発動してからだった
「誰だ!?なぜ我を呼ぶ?どこに答えればよい?」
不変が問いかけるが返事は返ってこない
そしてサヤは傷つき血を吐いていた
ノッホも戦線離脱状態でパーティとしては絶望的な状態になっていた
クママも善戦はしているが決定力にかけているようで月下に圧されつつあった
サヤが血を流したまま我の柄を取った時だった
「・・エル。ミカエル。聞こえますね」
どことなく温かみのある声だった
聞いたことがあるような気がしたが、思い出せない
「ミカエル?誰じゃ?」
不変は思わず漏らす
「あなたはその刀の中で怠けていたのですよ。しっかりしてください」
溜息をつくような呆れた声で言われる
「怠けるも何もずっと奉納されておったわけだし・・・」
不変は反論したい気持ちだった
「あなたは刀の中に逃げ込んだのですよ?全く・・・」
理不尽に怒られている。そんな気持ちだった
「ヌゥ。それでミカエルとは何をしておった?なぜ今声が聞こえるのだ?」
不変は問いただした
「まずミカエルとは大天使です。あなたは大天使ミカエル。堕天使ルシファーを追っていたはずですが、いつの間にか刀に乗り移ったようですね。そして声が聞こえるのはあの人間のオーケストラの効果です。また今触れている女性の血もきっかけになっているようですね」
我が大天使・・・?そもそも天使とか言われても実感ないのだが・・・
「どうやら記憶があやふやになっているようですね・・・。仕方ないですね」
声の主がそう言うと、目の前で信じられない光景が広がった
まだ日本が刀を持って戦争を繰り広げていた時代
そこで人知れず堕天使と言われたものと戦っていた
そしてあと一歩のところまで追い詰めたところで逃げられた
一息つくためにそこいらに転がっていた唯一折れていなかった刀の中へ入ったのだ
意識を沈めていたときに農民に拾われ神社に祀られてしまったのだった
そこからは不変の記憶通りだった
巫女の舞いであったり、話しであったり、そしてサヤとの出会いまで
「堕天使ルシファー・・・。こちらの世界で感じたような気がするぞ」
どこで出会ったのかは不明だが、記憶が戻ると確かに出会ったのは感じた
「これも神の思し召し。堕天使ルシファーを倒しこの世界を守護するのです」
そうどこからか聞こえてきた声が言うと視界が広がっていった
そして視覚・聴覚だけだった不変の世界に触覚・味覚・嗅覚が広がっていくのを感じた
スペシャルスキル:「神格化」を覚えました
そう、どこからか聞こえる
そして足元を見ると甲冑らしきものが見え、手を伸ばすと手が見えた
そう。ここにミカエルこと不変が降臨した
サヤが柄に手を取った瞬間、眩い光に包まれた
みんなが思わず光を避けるかのように腕を上げていた
そして光が収束し、みんな唖然とした
金色に染まった長髪で渋い顔をした男性が立っていた
神々しい甲冑に炎を纏っている
顔にも痛々しい傷跡が無数にあり歴戦の戦士という風格が漂っていた
背中からは翼が生えていた
だがその男性の第一声は
「我は不変!この世界の守護者である!!」
不変が声を上げると辺り一面に声が響きわたる
サヤとクママが思わず目を合わせた
「ハァ?渋いおっさん。頭打ったか?」
サヤは思ったことを特に考えず声に出していたことでクママは頭を抱えていた
辺りの雰囲気が変わったおかげかノッホも気付いたようだった
「サヤよ!我の声を忘れたのか!?クママはもう気付いてるだろ?」
不変は残念そうな顔でサヤを見ていた
その時だった
「貴様!クママとの戦いを邪魔してくれてわかっているのだろうな?」
月下が凄い形相で不変を睨んでいた
「ああ。すまん。受肉とはこういう感覚なのかと思ったら嬉しくてな。はっはっはっ」
サヤは唾を吐き捨てると
「チッ。その言い方は不変だな。だが状況がさっぱりわからないのだが?」
サヤは怪訝そうな顔を崩していなかった
だが月下がもう動いていた
「死ね!」
鋭い突きを不変の首元めがけて放っていた
そしてみんな首が飛んだものと思った
がしかし、不変はその場を動かず首は飛んでもいなかった
「いい突きだな。普通の者ならば死んでいたはずだ」
不変は不敵に笑っていた
「何・・・?」
不変は月下の突きを掴んでいた
そして炎が月下の右腕を燃やしはじめていた
「ふんっ」
月下は容赦無く右腕を切断する
「すまんな。月下お主より我の方が強いようだな」
不変はしたり顔をしていた
「サヤよ。我もスペシャルスキルを手に入れたのだ!それがこの結果じゃ。ふはははは」
豪快な笑いが辺りに響く
月下は百夜に助けられ切断した右腕の修復を行っていた
「チイッ。私より先にそんないいの手に入れんなよ!」
サヤが心の底で思ったことを叫んでいた
「ほら。我って元々祀られてたぐらいだしな?」
サヤが本気でいらついてるのがわかったのかなだめだしていた
「ところで本体?はここに掴んだままなんだけど・・・?どうなってるの?」
サヤの手にはしっかり不変が掴まれたままだった
「そこいらは知らん!」
その時だった
「スペシャルスキルの効果だと思いますぅ~。意外と柔軟なんですよぉ~」
場の雰囲気を壊すかのようにノッホの間延びした声が聞こえた
「ああ、確かにある程度自由が利くのは、同じスペシャルスキル持ちとして言わせてもらおう」
クママもノッホのほうに向かって頷くとそう言っていた
「サヤもそのうちスペシャルスキル開花させるんじゃないか?」
不変はゴマすりのような手の動きでうざくサヤの周りを動いていた
「若。どうなされますか?」
百夜は冷静に今の状況を見つめ直そうとしていた
月下も冷静さを取り戻したのか
「ふん。分が悪いだろう・・・な」
同じ考えだったのか百夜は頷いた
そして百夜は顎をさすりだした
「お互い傷つきましたし、ここまでにしませんか?依頼は完了と報告させて頂きます故」
百夜が笑うとクママはノッホ、サヤ、不変に目配せし
「我々もこのまま続けるのはきつかったので、依頼完了でお願いします」
そう言って月下戦は終わりを迎えた




