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悪の凶弾に気を付けて。  作者: うい
5/7

4話

今回は書ききりたい所までって思って書いてたら結構長めに。

感想、レビュー、評価お待ちしてます。

徹夜明けの日の光は何か大事な物が浄化されていく様な感覚が身を焦がすから嫌いだ。

昨日の夜にあった事など思考の隅へと追いやりただひたすらに残り10万ゼニをかき集めることに奔走した。

10万ゼニといえば大人二人が一ヶ月は上手い飯を食えるだけのお金。

それを一晩で稼ぐなんて全うな手段では困難。

だが残念ながら俺はその『全うな』人間ではない為、やれることは沢山あった。

金貸し屋なんて裏家業、獲物である人間以外の人の弱味の一つや二つ持ってるなければやってられない。

そうしてどうにかこうにか30万ゼニが手元に集まり、今こうやって日もまだ東から昇ったばかりの時間に俺は第3城壁街のとある場所へと向かう。

そうして辿り付いたのは第3城壁街も第2城壁近くの大きな一軒屋。

その一軒屋の前の大きな鉄の門に立っていた門番の一人に話しかける。


「新しい酒が入ったんで、よければ第2城壁主様に献上したいんだが」


そう言って俺は一個の酒瓶を手渡す。


「少々お待ちを」


その瓶を渡された門番はそれを門の横にある休憩所へと持っていく。

しばらく待っているとその休憩所から戻ってきて瓶を俺に返す。


「確認が取れました、どうぞ」


そういって彼は門を開ける。

俺はその門をくぐると小さくため息を吐いた。


「・・・確かにこういった偽装工作は必要だと思うが、面倒で仕方ねえな」


俺はそうつぶやくとその手元に返された酒瓶をちらりと見る。


「面倒だとは思うが、これも安全安心信頼のためだ」


その酒瓶の底にはとある光源を当てると第2城壁主様の家紋が浮かび上がる仕組みになっている。

これを持ってる持ってないで俺達金貸し屋の安全や信頼は変わるといっても過言ではない。

何故ならこれは一個の、裏家業をする上でのステータスになる程の一品だからだ。


「どうもジャック様。お待ちしておりました。城壁主様がお待ちになっております」


「あぁ、案内してくれ」


門を抜け広めの庭を抜け、ようやく扉にたどり着くと背筋をぴしゃんと伸ばした少しばかり年のいった執事が俺にそう話しかけてくる。

俺はその執事の後をついていき屋敷内に入り、その案内に従い連れてこられたのは一つの部屋。

第2城壁主様の執務室だ。


「失礼致します、クローバー様。ジャック様がお目見えになりました。」


「入れ」


静かにその部屋の扉をノックし扉越しに一声かけると短くも鋭い口調の女性の声が扉の向こうから返ってきた。

その返答を聞くと執事はがちゃりと扉を開け、どうぞ、と俺だけを中に入れ、扉を外から静かに閉めた。


「おぉ、ジャック久しぶりだな」


そう言いながまるでその快活で豪胆な性格を現した様な赤い髪の美女は書類に走らせていた筆を置きその釣り上がった勝気な赤い瞳をこちらへと向ける。


「そうですねクローバー様」


俺はその第2城壁主の女性へと深々と頭を下げて返礼する。


「やめてくれ様付けなんて、私とお前の仲じゃないか。それに今は私以外誰も居ないんだから言葉遣いもいつも通りでいいぞ、って言ってもお前は変えないんだろうけどな」


私とお前の仲って言うほど長い付き合いも深い付き合いもしていない筈だが、何故か彼女・・・第2城壁主であるクローバー様は俺を気に入っているらしい。


「お戯れを。クローバー様は一城壁主、しかも第2城壁の主であられるお方です、そのようなお方に私程度の一金貸し屋程度が砕けた口調なんて使えるはずもありませんよ」


「そうか・・・。して、今日はどういった要件でやってきたのだ?」


少し伏し目がちに俺に視線を向けてくるクローバー様。

やめてくれ、美女にそんな目を向けられると俺は弱いんだ。

俺のそんな内心の葛藤など気にもした様子など無く、彼女はあぁ、と一言。


「君が私に会いに来る要件なんて一個しかないか・・・」


そういってまたもや悲しそうにその勝気な瞳を弱らせる。

ぐっ・・・そういった仕草一つ一つが本当俺の被虐心を擽らせる。

第2城壁主様じゃなかったら今すぐにでも抱き締めて苛めている所だ。

俺はその情動をぐっっっと堪えて窮めて冷静に彼女に答える。


「ええ、三ヶ月分の上納金をお持ちしました。」


「そうか、戴こう」


俺は懐から30万ゼニの入った封筒を取り出すとその封筒を彼女に手渡す。

彼女はそれを開け、中身をロクに確認もせずにすぐさま机の中に仕舞い込んだ。


「あの、毎度の事ながら思うのですが・・・」


「ん?どうした?」


「私が言うことではないかもしれませんが、もし私が中身をピンはねとかしてたりとか、そういうことを懸念したりとかしてないのですか・・・?いえ本当に私が言うことではないとは思いますが」


「君はそんなことをする人間じゃないだろ?」


と、クローバー様が俺へとその赤い瞳でまっすぐ見つめてくる。

金貸し屋っていう非合法な仕事してる俺にそんなまっすぐな目を向けないでほしい。

いや、確かに城壁主様に上納するお金をピンはねとかは絶対しないけど。


「それにしても、君はそこまでして非合法な仕事しなくても他の全うな仕事にだってつけたんじゃないか?三ヶ月に一遍のこのお金だって安くは無いだろうに」


そう俺へと彼女は少し悲しげな表情で問いかける。


「いえ、かなり安くしてもらってる方だとは思いますが・・・」


俺のこの上納金だって本来ならこの倍以上はかかる筈。なのにこの城壁主様の「ご好意」によって三ヶ月に一遍に30万ゼニという破格の値段で非合法なこの仕事を『見逃して』貰っているのだ。

うーん、と俺は少し考えて言葉を繋げる。


「そうですね・・・全うな仕事だって沢山ありますし正直な話就こうと思えば就けます。」


「ふむ」


「・・・ですが、私には、この生き方しか出来ませんので」


「・・・そうか」


そういうと彼女はまた悲しげに瞳を伏せる。

だが今回はそれも一瞬。すぐさま目を開くとそこには城壁主としての顔が戻っていた。


「ではジャックよ、また三ヶ月後に」


「はい、ありがとうございました。」


俺は深々と頭を下げて彼女の執務室から退出した。

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