3話
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自宅兼事務所に帰ってきた時、俺は忘れていた呼吸を思い出すかの如く息を激しく吸い込んだ。
「はぁ、はぁ・・・何なんだってんだよ・・・クソがっ」
俺は乱暴に来客用のソファに置いてあった書類を蹴落とすとそれで空いたスペースにドカっと座り込む。
柔らかい背もたれにすらもイライラしながらとにかく落ち着きを取り戻す為に深呼吸を繰り返す。
頭に浮かぶクルリ夫妻の『四肢を引き千切られた姿』。
俺はハッとして机の上においてあった新聞に目を向ける。
見出し一面の大きなその文字。
「・・・そうか、あのクソガキが噂の引き裂き魔か」
俺の頭があの美しい白い少女がそうだと一瞬で理解した。
実際対峙して解る恐怖。アレは自らより上位の種にしか感じ得ない恐怖だった。
ヒエラルキーの、上位に君臨するモノ特有の雰囲気だ。
「本当よく生き残ったな・・・俺」
落ち着きを取り戻せば取り戻すほど、あの化け物みたいな少女から良く逃げ切れたな。
俺は安堵すると無意識に机の上においてあった小瓶を手に取り口つけ傾ける。
「ちっ、空じゃねーか。片付けとけよバカが」
その小瓶が自分が出かける前に飲んで空にした小瓶だと気付いて過去の自分に腹を立てる。
そして汚らしい事務所兼自宅を見回して、酒を探す。
どこもかしこも空き瓶ばかり。
どうやらこの今手に持ってる小瓶が最後の酒だったようだ。
買いにいかねぇとな、何て考えて俺は財布の中身を確認しようとして固まる。
「あ、れ・・・クルリ夫妻の返金分・・・あ、あっ!?ああああああああ!!!」
俺の絶叫がこだまする深夜の第3城壁街。
そうして徹夜での資金繰りが決定した瞬間だった。
※
月明かりの消えた舞台に佇む一人の少女。
「わたしを、見てくれた・・・」
その白い瞳が涙を流す。
「わたしを、『人』として見てくれ、た」
その白い髪が風で靡く。
「なに、この、気持ち・・・」
その綺麗な手を胸の辺りでぎゅっと握り締める。
握り締めた右手から流れ出る血だけが赤く、ぽつりぽつりと道路の石畳に後を付ける。
「・・・もっと知りたい、もっと、『あの人』の事、知りたい」
そうつぶやいて夜の聖帝国アリの深い煙の中消えていく一人の白い少女。
右手のひらから流れ出た血の跡だけが第3城壁街側に確かな跡を残しながら。