2話
少しグロイ表現があり。
「さてここか」
第5城壁近くの住宅街の少しぼろい見た目をした住宅前に俺はバイクを止めた。
俺は少し長い時間バイクにのって凝った首を手で解しながら空いた手で扉をノックする。
「クルリさーん、金貸し屋ジャックですけどー、今日の返金まだですよねー」
トントン、と木の扉をノックする。
返事は無い。
「クルリさーん?いらっしゃいませんかぁー?」
先ほどよりも強めに扉をノックする。
「まさか、本当に夜逃げしやがった・・・?」
俺は焦りと苛立ちの気持ちを抑えながらもう一度ノックをする。
「おーい、クルリさぁん?本当にいらっしゃいませんかぁー?無理やりにでも中に入ってもいいんですよー!」
苛立ちがそのまま声に表れた様で語気が荒くなり自然と声がでかくなる。
すると中からガタリと物音が聞こえた。
「何だ、いらっしゃるじゃないですかぁ、居留守なんて酷いじゃないですかぁ・・・開けてくださいよー」
返事はない。ただ俺は家の中から聞こえた物音で完全に人が中に居ると確信していた為強硬手段に出ることにした。
「開けて下さらないなら勝手に入っちゃいますねー」
お前たちがどれだけ困ってようが、所詮家畜。主人からの人権など無いと思え、と俺は扉のノブを回す。
鍵はかかっておらず、もしものときは扉を壊してでも入る予定だった俺は手間が省けたとにやりと笑う。
ただ冷静にここで考えるべきだった。何故居留守を使ってる奴が扉の鍵を閉め忘れるなどというヘマをやらかしているのか。
いつもちゃんと返済期限を守ってる奴が今日に限ってやってこなかったのだ、とか。
ぴちゃり、とオーダーメイドで作った革靴の裏から鳴る粘着質な水音。
鼻を突き刺す様な鉄の香りと異臭。
そして俺の足元に転がってる『二つのシルエット』。
いや、この場合『元々二つだったシルエット』のほうが表現としては正しいのか。
そこには床に横たわっている元クルリ夫妻だったモノが、両手足を引き裂かれ、顔は苦痛に歪み、事切れていた。
「う、わ、マ、ジか」
そんな衝撃的な光景だっただけに俺は見落として居た。
そこに居たのはその死体だけじゃないことに。
元々濃い霧で翳っていた月明かりがその瞬間だけまるで舞台の主役を照らすスポットライトの様に俺の開けた扉から射し込む。
そして照らしだされたのは白い少女。
玄関先が真っ赤に染まっているからこそ、映える圧倒的な白色。
その美しい白い髪色に驚き動揺している瞳、そして美しい顔立ちがこの場ではとても異質で、浮いていたのに何故だか目を惹かれる。
だがその舞台も永遠とは続かない。
「・・・っ!」
次の瞬間、その少女は息を小さく短く吐き出して老夫婦の死体を一足で飛び越え俺の方へと両腕を伸ばし飛び込んできた。
「くっ、そが!」
その姿に俺は何のためらいも無く、感慨に耽る暇も無く舞台のヒロインに向けて懐から取り出した魔動拳銃の引き金を引いた。
小さな魔晶石が一瞬にして加熱され爆発的な魔力が拳銃内の回路に流れ込み、必殺の火力を持った圧縮された小さな魔弾が拳銃から伸びた筒から放出される。
その魔弾が向かう先は飛び出してきた少女の眉間。
空中にいて身動きがとれない少女の驚く顔、響く銃声。
そして俺は圧縮され威力の増した魔弾の威力反動をに跳ね上がる右手越しに有り得ない物を見た。
その少女は必殺の一撃である魔弾を、右手だけで防いだ。
「うっそだろ、お前・・・っ!」
その威力で空中にいた身軽な少女は後ろに吹き飛んだが、その綺麗な顔からは血の一滴も流れていない。
変わりに右手の手のひらから血が流れている。
その姿に舞台に惚けていた頭が冷静に戻る。
俺はその少女がまたこちらに飛び込んでくる前に、俺は身体を翻すとすぐさま家の前に置いていたバイクの元へと走りスイッチを押す。
最新式のバイクはスイッチを押して直ぐに魔晶機関が起動する優れもの。
俺はその起動スピードに感謝の念を込め跨りすぐさまアクセルを回す。
そして俺は逃げ出した。
3/1 魔昌の昌の字を晶の字に変更。