1話
白い煙がまるで濃い霧のように漂う街中。
匂いがある訳でもないが、身体に悪いとかなんとかで例え浄化魔法付きのマスクをしていたって成るべく息をするのを抑えてしまう。
「クルリ老夫婦の家は第4城壁街だったか」
借用書に記入されていたクルリ老夫婦の自宅の住所を再確認するように呟く。
この聖帝国アリは中央にある聖アリ教会を中心として円形状に国が広がっている。
そして円状に遮られている6つの城壁でそれぞれ区画が区別されている。
第1城壁街は教会のお偉い様方が住む土地。第2城壁街はその教会に所属しているシスターや師父達、それと教会に多く寄付をして得た称号「貴族」という名を冠した金持ちが住む土地。
俺の住む第3城壁街はそこそこの金持ちや第2城壁街に住めない様な教会連中が多く住んでいて。
これから向かうクルリ老夫婦家のある第4城壁街は普通の国家で言うところの平民区画って所だ。
贅沢しなければそこそこの生活が出来て、大きな魔晶工場が多く存在し、だからこそ産業が盛んなこの聖帝国内で一番栄えている区画でもある。
そしてそんな区画だからこそ、俺達「金貸し屋」の獲物達が多く存在する絶好の狩場。
そこから外は城壁とは名ばかりな中途半端な壁が聳え立つ貧しい俺達金貸し屋すらも見向きもしない様な連中のたまり場。
少し生活に余裕を持たせたいくらいの考えが出来る様な、金の価値がわかる人間以外は人間じゃない。
俺はそう思っている。
俺は第一城壁内の聖アリ教会から外へと伸びてる唯一の大きなメインストリートを先日買った最新式の魔晶機関が搭載された自動二輪、「バイク」というらしいがそれに乗って走り抜ける。
大きな城壁と城門が直ぐに見えて、その前では数人の兵士が門を見張っている。
俺はそれを横目に見ながらその大きな城門を無視し城門横に設置されてる「特別な門」へと向かう。
「お疲れ様ですジャックさん」
そこに居た一人の若い兵士が俺の姿を確認して話しかけてくる。
俺はバイクの魔晶機関の燃焼を止めるボタンを押し、バイクから降りる。
「よぉ、今から第4城壁街に向かう。『いつも通り』通してくれ。」
「はい、大丈夫ですよ。ただ、そのぉ・・・」
その若い兵士はちょっと躊躇い、そして言いづらそうに
「今回の返済、少しだけ待って貰えませんか・・・?」
この若い兵士はそんなことを言ってのける。
「は?」
「す、すいません無理ですよね・・・申し訳ないです・・・」
俺はさっきの事でイライラしている頭のまま返事してしまったが、頭を軽く振り利益不利益について冷静に考える。
この兵士に更に恩を売っておくことで、本来ならこの時間に通れない筈の門を通れるだけじゃなく、更に様々なことを融通できるんじゃないか。
それに今回の一件が片付けば暫くはこんな困窮しかけの生活をしないですむ訳だし、金に別段困ってるわけではない。
更にこの兵士だって返済期間を延ばしてほしいって言うのは今回が始めてな訳だ。
それならこの提案を無下にせず受けてしまった方が利益に繋がるんじゃないか。
「あ、あの・・・」
俺が突然黙り込んでしまったので不安そうに声をかけるこの若い兵士に俺は渋い顔を作りながら受け答える。
「・・・まぁ今回は良いだろう。ただ明日にでも事務所に来てちゃんと話をして誓約書を書いて貰うから、明日の・・・そうだな午後にでも一度来い。」
しぶしぶ了承した感を出して俺は小さくため息を兵士に聞こえるように吐く。
緊張した面持ちながら少し安堵の表情を浮かべていた兵士に対して俺は鋭い声で釘をさす。
「ただ、次回は無いと思え。」
「は、はい!すいません、ありがとうございます!」
そしてその若い兵士は綺麗な敬礼と共に俺を第4城壁街へと見送った。
3/1 魔昌の昌の字を晶に変更。