つまりは、
鉄の神ユシャワティンの加護を受けた精霊憑きは、土中より硬いモノを取り出し、操る。
それを、人は「カネ」と呼び。
それを加工し、道具として使う時、「鉄」と呼んだ。
鉄は丈夫で、固くありとあらゆる人の営みの中で道具として使われ、人の生活を豊かにした。
その道具を作りだすことを、ユシャワティンの加護を受けた分霊器たちは誇りとした。
ワノトギ達の中に、特に才覚に満ちた者が一人いた。
彼はありとあらゆる鉄の使い方にたけ、カネには種類がありその混ぜ合わせによって錆に強いもの、軽い物などが作れることを理解した。
その研鑽は進み、ある日、彼は一つのモノを作った。
薄く、細長く鍛えられた、鉄の刃。
触れただけで、指が切れ血が滴る程に鋭い。
刃なら、獣を仕留めた後にも解体のためのものがある。
刃なら、木の棒の先にとりつけ、土を耕すものがある。
しかし、この刃は何のために存在する?
「目的はありません。ただ、我々ユシャワティンの技術はここまで辿りついたという、証明です。これほどの切れ味。これほどの長さ。これを振れば、切れぬものなど自然には存在しないでしょう」
神へ捧げるために作られたと言う、その一振りの鉄の刃。
嗚呼。
こんなものが、こんなすぐれたものが人の手で作られたとなれば。
これならば、神の体さえ貫くという事実がこの島に存在してしまえば。
おそろしいことになる。
「私はこれに剣という名を与えました」
神果を見定める役目を負った、ユシャワティンの神官は。
その剣でもって、剣を作りしワノトギの首を落した。
彼さえいなければ、剣が作られることはないから。
神霊が治めるこの島に、剣は要らぬ。要っては、ならぬのだ。