9.錬金術
「タ~ダ~ク~ニ~ッ!」
「待って、ユウちゃんったら!」
その後を追うように、慌てた様子のシズカがぺこりとお辞儀をして中に入って来る。
「ちょっと! これ、どーゆうことよ!」
ユウキはタダクニの姿を見つけるなり、数枚の写真を突きつけてきた。その写真には、私服や寝間着姿のユウキやシズカ、それにサヤカが写っていた。
「げぇっ! あ、いや、それはだな……」
「なんでこれを私のクラスの男子が持ってるのよーッ!」
タダクニはユウキに胸倉をがしっと掴まれ激しく揺すられる。
(くそっ! あれほど本人の前では注意しろと釘を刺しておいたのに……)
がくがくと揺すられ続けながら、タダクニはこの窮地を逃れるべく必死に頭を回転させた。
「あーっ! 何よこれ! 私の写真もあるじゃない!」
揺さぶっている最中にユウキの手から落ちた写真を拾い上げたサヤカが大声を上げる。
「急に私達の写真を撮りたい、なんて言うから変だとは思ったんだけどね」
シズカが苦笑いを浮かべる。
「お、落ち着け! まずは俺の話を聞け!」
「じゃあ、説明してよ!」
ユウキは揺さぶる手を一旦止めて、とりあえずタダクニを解放する。
こほん、と一つ咳払いをして、タダクニはゆっくりと口を開いた。
「はじめに言っておくが、お前達は器量が良い。まさに美少女と呼ぶに相応しいだろう」
『えっ!?』
美少女、と言われユウキとサヤカが顔を赤くする。
「しかーし! 美少女一歩外に出れば一〇〇人の変態と敵に出会う、という格言にあるように、そういう人間はマサヒコみたいな変態どもから邪な視線を浴び続けるのもまた世の常だ」
「誰が変態だッ! 誰がッ!」
抗議するマサヒコを無視して、タダクニは先を続ける。
「ならいっそ、その変態どもから搾り取って稼いだ方がお得だろうが!」
「知るかぁッ!」
「ぐふっ!」
ユウキはタダクニのみぞおちに鋭いパンチを放つと、釘でも打ち込まれたかのような衝撃にタダクニの身体がくの字に曲がる。
「な……なぜだ? なぜわからん! 中にはお前らの使ったタオルを一万円で買ってくれるという顧客もいるんだぞ! ただの布切れがマネーに変わるんだぞ! これは現代における錬金術と言っても過言では――」
「ふざけんなぁッ!」
続けてサヤカの強烈な飛び膝蹴りがタダクニの顎に綺麗に入る。
「ぐほっ! ……なぜだ……!? お前達にはそれほどの力があるというのに……、なぜその力を金のために使おうとしない……!?」
『誰が使うかぁッ!』
「がはっ!」
トドメの一撃と言わんばかりにユウキとサヤカのダブル掌底がタダクニの顔面に叩き込まれると、糸の切れた操り人形のようにタダクニはがくりと床にくずおれた。
「大丈夫? お兄ちゃんもこれに懲りたらもう止めなよね」
さして心配する素振りも見せず、シズカは地面に突っ伏したタダクニに声をかける。
「ぐう……か、烏丸君、勝負の決着は……またの機会ということで……いいかな?」
「あ?……ああ。僕は構わないが……」
呆然とするシュウジにそれだけを伝えると、タダクニはそこで力尽きた。