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月下のラビリンス  作者: わたしです
デッドエンドのその向こう
1/22

悪夢では終わらない

 右を見ても左を見ても大して変化のない、樹木が鬱蒼と生い茂る森の中。

 蓋をするかのように伸びた枝と葉は光を遮り、目印無しではものの数分で遭難しそうな場所を、一人の少年が奇妙な服装で歩いている。


 こんな場所を歩くには絶対に適していないと断言できる軽装。寝起きにそのまま迷い込んでしまったような、上下ラフなジャージという格好。

 手になにか持っているわけでもなく、背にリュックなどを背負っているわけでもなく、完全な手ぶら。


 一歩一歩静かな足取りで踏みしめる靴も、一般家庭でよく見かけるもので、さらには片方なく裸足だった。

 ザッザッ、と踏みしめ歩く彼の姿は、酷くこの景色の中で浮いていた。


 日の光が届かないあたりは暗く、木の幹や根などいたるところに薄ぼんやりと光源が付着しているお陰で何とか視認できている状況だ。


 随分長い距離を歩いてきたのか、その姿には疲労の色が見て取れ、じわりと浮んだ汗が顎を伝う。真っ黒なジャージは所々切り裂かれたように破け、僅かに血が滲んでいる様にも見えた。


 足取りはふらふらと力ないもので、今にも崩れ落ちてしまいそうな状態。誰が見ても限界であろうことが見て取れた。


 しかしそれでも少年は足を止めない。


 何か明確な目的があるのか、この目印も存在しない暗い森の中を歩き続ける。流れる汗は依然変わらず、荒い息を吐き出しながら歩く頬を不意に別のものが混じり流れた。


 俯く事もなく前を向き続けた少年の目から、一筋の涙が流れ落ちていた。

 それが切欠。こぼれ落ちる涙は止まらず、行く場所を失い胸中で荒れ狂っていた激情が首をもたげた。


 無言を貫いていた乾ききった唇が僅かに動き歯が除く。幾度か躊躇うように、確かめるように開閉した唇から零れ落ちた掠れる様な声が空気を震わせた。


「――――。――――めん……、ごめん……」


 誰に向けての言葉なのか、少年は中空へと壊れたオルゴールのように同一の言葉を繰り返す。足は止めず、謝罪も止めず。ぶつぶつと呟くように吐き出す男は、まっすぐに前だけを向いて――。


「――――」


 否、初めから、男は前など見ていなかった。絶えず涙を零す双眸は視線が定まらず、何かに怯えるように眼球だけが狂ったようにグリグリと動き回る。明らかに、正気の目ではなかった。

 

 暗く僅かばかりの光が灯る森の中を、狂った少年が歩いていた。

 謝罪の言葉を呟きながら、ただ歩く。

 このまるで生き物の気配がしない静寂の中。

 進む先に何があるかも分からずに、ただ歩く。


 ――――まるで何かから逃げるように。



◆ ◆ ◆


 

 今日は待ちに待ったキャンプの日だ。


 肉の焼ける香ばしいにおいに思わず頬が緩む。時刻は7時を回ろうかという頃で、水が手放せなかった昼間に比べて、太陽が姿を隠し、代わりに月が顔を出した今は随分と過ごし易くなった。


 雲のない夜空では満月が美しく輝いている。もう暫くすれば都会の光から離れたこのキャンプ場では、鮮やかな夜景が拝める事だろう。

 頬を撫でる夜風の心地よさに目を細めながら、金網の上に肉と野菜を菜ばしで並べていく。


「はよっ、この皿に肉をはよっ!」


 紙の皿と割り箸をもった少年、『菊池健次』が今にも涎を垂らしそうな勢いでチラチラと金網の上と菜ばしを握る彼の顔色を交互に伺っている。

 はよはよ、と急かす菊池の催促に苦笑気味に目尻を下げて、彼は首を振った。


「えー。みっちゃんのケチ」

「ケチじゃない、腹壊したいのか。つか、ずっと言ってるけどいい加減その渾名やめれ」

「なんでさ、『新月こよみ』だからみっちゃん。完璧じゃん?」

「俺の名前『み』しかあってないんだが?」

「あだ名ってそう言うモンさ、そろそろ諦めなよみっちゃん」


 気軽そうに言ってカリカリと人差し指で開けた缶コーラを一気に煽る。このやり取りも慣れたもので、最早一つのお約束のようなものになっていた。

 それが分かっているから菊池も冗談めかしに返し、新月もまた気にする様子もなく同じようにコーラを開けた。


「しっかしあれだねぇ」


 諦めたように皿と箸をおいて、代わりに包丁を構えた菊池がまな板の上で野菜をリズムよく刻んでいきながら、やれやれとでも言いたそうに首をふりながらこんな話題を振った。


「見事に、男だらけだねぇ」

「言うな! それは気にしない約束だろう」


 前々から企画していたキャンプ。当然参加者はこの二人だけではなく、仲のいい友人たちを誘っている。


 今はキャンプファイヤーをやると言い張った奴の主導の下木を集めたり、大物が俺を呼んでいるといったっきりかれこれ二時間ほど釣りに勤しんでいたり、キャンプといえばカレーと譲らず二人とは別にカレーを作っていたりと、バラバラながら全力で満喫中だ。


 しかし、哀しい事にそこに女性は皆無である。人数は居るものの、全てが野郎で構成されていた。勿論全員、男子校に通っている訳でもない。


「結構誘ったんだけどね……、ものの見事に全はずしだったね」

「ほぼ即答だったな。あれは結構くるものがあった」


 口をそろえて『その日は用事があるから』と言われた時を思い出しているのか、新月が胸を押さえてぽつりと。


「……モテタイ」

「やっぱ顔なのかな。身長は180には届かないけど十分あるし、太ってる訳でもない。でもオレはともかく、みっちゃんは結構顔いい方だと思うけどねぇ……、もてない理由も分かるけど」


 自分たちを見比べて冷静に分析を重ねていた菊池は、ちらっ、と控えめに新月の額に視線をやった。今は髪の下に隠されたそこには、大きな傷跡が刻まれている。


「一時期ヤクザだの、嫌な噂が流れたからな」

「目付きの悪さと喧嘩っ早さもその噂に拍車をかけたよね」


 顔を顰めて新月は自分の日本人らしい黒髪を弄る。昔は短かった髪は、今は目に掛かる程度に伸ばしてある。その理由は額に横切るように刻まれた消えない傷だ。


 この傷が付いた経緯は単純で、酔っ払った馬鹿の運転するトラックが歩道を歩いていた彼目掛けて突っ込んできたのだ。幸いにも直撃ではなかった為に命を失うような大怪我を負う事はなかったが、強かに打ちつけた額はぱっくりと割れてしまった。


「あのトラックの運ちゃんがみっちゃんの出会いを奪ったのだと思うと、……正直拍手喝采で褒め称えたいね!」

「ぶっ殺すぞ」

「冗談だよみっちゃん、やだなぁ。傷もないのにもてない男の僻みだと思って軽く流せるだけの器がないと彼女なんて出来ないよ? それに親友に対して殺害予告なんて、悲しいなぁ。オレたちの友情はそんなものなの?」

「おかしい、なんで俺が悪いみたいな空気をかもしだしてんの? 先に友情を破壊しにかったのはお前だからね?」

「冗談だって」


 ケラケラ笑いながらコーラを煽る菊池の顔面に、パンチを一発入れるか真剣に悩む新月は拳を握り締めてぎりぎりと歯を食い縛った。


 いつも通りのやり取りだ、菊池が面白おかしくからかって、しかし決して最後の一線、新月が切れる、もしくは傷つく一線だけは越えない。だからこそ二人はこうして親友で、結局呆れたように拳を解く。


「でさでさ、もう……いいんじゃね?」

「お前、何時大食いキャラへの転身を決めたの」

「みっちゃんが譲らないから夜カレーとバーベキューダブルでやる事になって、昼はなにも食ってないからお腹が空いてるんだよ!」

「ばっか、キャンプの夜はバーベキュー一択だろ!?」


 信じられないといった風な表情で大げさに目を丸くした新月はスマホを取り出して、


「まあ、そうだな。カレーも出来上がってるぽいし、他の奴呼んで飯にするか」

「そもそも全員揃ってないのに焼き始めた事が失敗なんじゃ? 空きっ腹にこの匂いはまさしく拷問だよ」


 物騒な事を呟く菊池もスマホ片手に好き勝手に行動する友人たちへ召集をかける。


「あー。あの釣り馬鹿、電話にでねぇ」

「どこに居るか分かる? 呼んでくるけど」

「分かるけど、説明しにくい。いいよ、俺が呼んで来る」

「了解! 肉の事は心配しないで、きっちり責任を持って全部食べるから!」

「いいか、本当にそんな事したら絶交だからな? 本気だからな? 俺の分絶対残しとけよ!」


 背筋を伸ばし足を揃えて敬礼をする菊池を睨みつけながら、新月は幾度と念を押して駆け出した。今も尚、大物とやらの夢を見る釣り馬鹿の頭部に拳を叩き込んでやると心に決めて。





 

「いねぇし!」


 息を若干乱して辿り着いたそこに、釣りに勤しんでいるはずの友人の姿は見当たらなかった。どうやら新月が来る前に、自発的に釣りを止めて帰ったらしい。完全な骨折り損である。


 スマートフォンという現代の必須アイテムを活用しないからこうなるのだと、こめかみに手を当てた新月は疲労が溜まった息を吐く。

 昼飯を食べていないのは彼も同じ、来る途中にカレーの香りにも誘惑されて既に空腹は限界なのだ。拳骨はどうやら一発では済みそうにない。


 ――早く戻ろう。

 そう言葉にする事無く胸中で呟いく。居ないと分かればさっさと戻るべきだ。菊池も待っている事だろう。


 簡潔に思考をまとめ、踏み出そうとした足を遮るようにピシリ、と何かがひび割れる音を聞いた気がした。


(んん?)


 周囲に人影はなく、空耳かと見渡す新月は不意に背後に気配を感じて肩を跳ねさせて振り返った。

 しかし当然そこには誰も、何も居らず、ただ悠々と川が流れているだけである。


 音とあわせて少し不気味になり二の腕を擦りながら、注意深く視線を動かすがおかしな所は見当たらない。釣り馬鹿が息を潜めて驚かそうとしているだとか、実はこっそり付いてきた菊池のドッキリサプライズが始まるといった気配も当然ない。


 夜のキャンプ場、周囲に人影無しという状況で気付かぬうちに不安になっていたのかも知れないと、彼は適当に今の感覚に説明をつけた。


 何せ肝試しにもってこいの場所、状況だ。幽霊というものを信じているわけではないが、怖いものは怖いのだ。早く戻る理由が増えたと今度こそ少年は駆け出そうとした。

 その直後の出来事だった。


 ビギッ――バキッ――ギキィイイイイイイイイイッ!


 突如として夜の静寂を切り裂いたのは、ガラスが砕け散ったような甲高い怪音。不意を付く容赦のない音量に、新月は殴られたように頭部を揺らし反射的に両耳を押さえてしゃがみ込んだ。


「なんだなんだ!?」


 割れ物が砕けるような音から始まり、なり続けるガラスで引っかくような不快な音は、耳を抑えてもさして意味を成さない音量と相まって痛みを伴い新月を襲う。冷静に辺りを見渡すなんて余裕はない、気付けば両目をきつく閉じて、この怪奇現象が過ぎ去るのを怯えたようにただ待った。


 全てを放棄して差ほど時間は経たずに、怪音はまるで距離が離れていくように小さくなっていった。完全に静寂が戻って来た訳ではない。今も音は鳴り続け、時折初めの砕けるような音が弾ける。

 しかし両耳を庇う程の音量ではなく、幾分か余裕を取り戻した新月はふら付く頭を抑えて立ち上がる。


「一体なんなんだよ……」


 呆然と呟かれた質問に対する答えが返って来る訳もなく、辺りを見渡しても異変を見つける事は出来ない。

 幻聴だと、そう決め付けるにしては異常で、もしあれが幻聴であるならば別の意味で自分が心配になってしまう。


 とにかく行動を起こすべきだと、胸中で膨らむ不安に押しつぶされそうになる新月は震える手でスマホを取り出した。

 情報交換は非常に大事であり、科学の進歩によって離れていてもそれは一瞬で行うことが可能なのだ。


 しかし、どうやら科学の進歩も、現在の状況を改善させる事は出来ないらしかった。

 取り出したスマホの画面は真っ暗で、一切の反応を返す気配がない。


「嘘だろ、こんな時に壊れてんじゃねーよッ!」


 叫んでみても以前状況は好転の気配を見せず、新月は苛立ち交じりに悪態を吐き、突き動かされるように駆け出した。


 向かう先はキャンプ場、親友の待つ場所だ。キャンプ場に居るのは何も親友と友人たちだけではない。それなりに大きなキャンプ場には、自分たち以外にも客はいた。


 人が多く居る場所に向かうのは当然で、再び彼の足を止めるような事態は起きない。

 だが風を切るように走る新月の耳にはバキリバキリと未だに消えぬ怪音がこびり付いたように離れなかった。


 大きく乱れる息は全力疾走のせいだけでは決してなく、早鐘を打ち始めた心臓は恐怖という魔手で掴まれている。歯の根は合わず冷や汗で背を濡らす新月の身体は隠しきれない程震えていた。


 早く早くと急かすように呟いて、暗い夜道を駆け抜ける。

 何時転んでもおかしくない状態で、幸いにも転ぶ事無く走っていた新月の耳に段々と怪音以外の音が混じり始めた。


 初めは小さく、走るほどに大きくなっていくそれは間違いなく人の声だ。


 怪音以外の、それも人の声に新月はひどく安心した。殆どパニックと言っていいほどに彼の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。


 だから、安心した。全く気付かなかったからだ。

 聞こえてきた声に、安心できる要素など欠片もないと言う事に。


 木々の隙間を抜けてキャンプ場へと近付いた新月は、向かう先が夜の闇を払うように赤々と燃え上がって居る事に気付く。


 キャンプファイヤーだ、そうに違いない。疲れと恐怖からか引き攣った笑みを零しながら決め付ける。

 そういえば彼の友人数名がキャンプファイヤーは絶対に決行すると宣言していた事を思い出す。どうせなら夕飯を食べてからにすればいいのに、我慢できなかったらしい。

 仕方がないな、と新月はため息を吐き出しながら首を振る。


 ――どうやらもう皆騒いでいるようで、大きな声がここまで聞こえる。楽しいキャンプなのだ、むしろ今からが本番と言っても過言ではない。あの音だって、誰かが花火か何かで起こしたもので、別に怖がる理由なんてないに違いない。楽しもう。それがいい。そうしよう。


 自分に言い聞かせるように何度も、何度も、繰り返していた新月は足元に転がるナニカに躓き派手に転んだ。自分が思っている以上に怪音により心身ともに擦り減らしていたらしい。


「いってぇな…………。――――。……ぁ?」


 余りに情けない姿にもし菊池が居たら笑われているなと、そんな平和で暖かな事を考えながら笑みを零し、自分が転んだ元凶に視線をやって――――直後に全ての思考が停止した。


 真っ白だ。頭の中でぐちゃぐちゃになっていたもの全てが吹き飛び、ただ呆然と目の前の現実をまるで遠く離れた他人の目線で見るような、可笑しな感覚に包まれる。


 ごろり、と足元に転がっていたのは新月もよく知るものだった。

 よく知る顔だった(、、、、、、、、)


 見ていたら笑われると、そう考えていた親友の顔が千切れた様な断面で、胸部から上だけになって転がっていた。


「……は?」


 理解が出来ない。頭が働かない。

 見るなと頭のどこかで声がするのに、叩きつけられた光景に目がどうやっても離せない。


 助けを求めるように伸びた手は土を引っ掻き爪が剥がれ落ち、懸命に抵抗したことを思わせる。

 直線を定規で測ったような断面から零れ落ちる、血と臓物に埋もれて白い骨が顔を見せていた。

 大きく見開かれた両目はしっかりと新月を見上げていて、しかしそこにあるのは想像していた笑みではなく始めてみる怯えきった表情だった。

 ニコニコと笑みを絶やさない親友の顔は、絶望にまみれて、恐怖一色に染まって、至る所から赤黒い液体をぶちまけている。

 

(ぇぅ……、あ? これ……おかしい、だってそうだ、だって……あれ? だって困る。あれ? だって……)


 ゆるゆると、思考が回転する。現実を見る事を拒否して、嘘だと決め付けて。


「――――」


 新月は何も言わずにふらふらと歩き始めた。

 結論が出たのだ。こんな事は、ありえない。これは夢だ。自分は幻覚か何かを見ているのだと。


 向かっているのは、先ほど菊池と別れた場所。きっとそこに何時もと変わらない親友が居る筈だと、縋るように救いを求めた。

 しかしそこに辿り着く前に、再び現実は突きつける。逃げるなと、容赦はしないとそう言うように。


 広がる視界に映りこむ光景に、新月は壊れた人形のように微動だにする事も出来なかった。

 燃え盛る炎。逃げ惑う人々。そして、絶望を演出する異形の怪物。


 人の形をした、人の背を遥かに超える巨人は、片腕だけで大木に匹敵する大きさ。首も頭部もなく、代わりに全身に付いた眼球がギョロギョロと周囲を見渡し、同じ数だけ付いた口が血まみれの人間を貪り食う。


 カタカタと硬質なものを打ち合わせる音に目を向ければ、真っ黒な甲冑を着た騎士が六腕にそれぞれ備えた剣を振るってそこかしこに屍の山を築き上げる。


 半透明の身体をした巨体のナメクジはのろのろとした動きに反して、口から飛ばす液体は目にも留まらぬ速さ。的確に人間に命中させる液体は、じわじわと当たった人間を溶かし、痛みに白目を剥き絶叫する彼らは近付いてくるナメクジから逃げる事が敵わずにゆっくりと捕食される。


 待っていたのは地獄だった。

 先ほどから聞こえていた声は悲鳴だった。助けを求める絶望の声だった。


「は――――」


 乾いた音が口から零れ落ちる。

 認識が壊れる。無理やりに分からされる。

 ここは地獄だ、そして現実だ。その事を正確に把握し、今まで行ってきた全ての思考の無駄を悟り。

 新月は。


「ああ! あああああああああああッ!!」


 恐怖を吐き出すように絶叫して、その場に背を向け走り出す。

 逃げる事しかできなかった。逃げる事すらできないかもしれない。ただ死にたくなかった。


 今尚止まないナニカが砕ける異音、助けを求めるキャンプ場に来ていた人たち、友達の声、自分自身の発する恐怖の叫び声に混じって遠く遠く、小さな音を頭の片隅で聞いていた。


 ぶちり、と理性という細い糸が耐え切れずに千切れた音を。

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