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皐月に喜びの桜咲く。  作者: 高橋徹
第3章 繋がり合う点と点
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(6)

 翌日の早朝。


「卯月先生、おはようございます」

「おお、橘か。おはよう」


 俺は、卯月先生の下へ訪れていた。

――卯月先生は、皐月のことを認識している。

それどころか、何か深く知っている様子だった。

皐月と接して知ったことや、皐月本人や姉から聞いた話を踏まえて、改めて話を聞こうと思って今回の行動に至った。

 廊下を歩いていた卯月先生を見つけて挨拶を交わすと、俺は早速本題を切り出すことにした。


「先生、お聞きしたいことがあります」

「今日の下着は黒の透けたレース生地で、脱がなくても挿れられるタイプのものだぞ」

「なんで!? なんで今それを言ったの!?」


 この話すげぇ膨らましたいんだけど!


「まあ、既にお前のモノは膨らんでるんだろうけどな」

「人の心を勝手に読んだ上に阿呆みたいな下ネタをぶっこむな! 早朝の学校だぞ!」

「『早朝』の『学校』……うむ、とても素晴らしいな。爽やか且つ神聖な響きさえ感じる言葉だな。だがこんな状況でこそ、下ネタを話す意義がある」

「あなたとは末永くお付き合いが出来そうです」

「お突き合い?」

「あんた欲求不満なのか!?」

「あ、結構本気でそうだから答えづらい……」

「答えてる! 答えてるから!」


 朝でまだ喉も起きてない状態でいきなりフルスロットルでツッコみ続けたから、まあまあ噎せた。マジでこの人何なの、大人になったらサシで呑んでちょっと妖しい雰囲気になってみたい。


「そうじゃなくてですね、先生にお聞きしたいことがあるんです」

「付き合った男には名器だ名器だと言われてるんだが……」

「話続けるんじゃねぇよ! しかもさっきよりディープになってる!」

「あ、こんな言い方してるけど、私はそんな経験人数が多い訳ではないぞ? 一人と過ごす時間が極めて濃厚なだけだ。そうだな、例えば……」

「もういい! もういいから!」


 この会話で先生に対して尋常でない程むらむらしてしまい、ツッコミも兼ねて(という理由付けをして)思わず先生の肩を掴んだ。


――と。


「あんっ!」

「っ!?」


 廊下に僅かに反響する程の、短くも艶っぽい嬌声に心音が跳ね上がる。


「あ、す、すいません……」

「わ、私こそすまない……今夜は空いてるか?」

「色々段階が飛んでる!?」

「そうか、橘はプロセスを大事にするんだな。良いことだ。うむ、今の感じだとお前は女を大事にしつつ、めちゃくちゃにする時はリミッターが外れるタイプと見た。これなら本当に相手をするのもありかもしれない」

「俺の理性を吹き飛ばすフレーズをがんがん飛ばしてくるのやめてもらえませんか」


 そろそろ本気で押し倒しそうなんだけど。


「ふむ、それじゃあ謝罪の意を込めて……ほれ」

「え……っ」


 先生に急に腕を引っ張られたかと思うと、急に視界が暗転して、柔らかいものに顔が包まれた。

 ……これって……。


「ああ、今私が壁に背を付けた状態で、お前を胸の中にうずめている。ついでにお前の右足を私の両足の間にねじ込ませた。ちょっと太ももを上げてくれれば大変なことになるぞ」

「ふもがーーーーーーーーっ!?」


 だめ!

 色々だめ!

 先生の肩を掴んで無理やり顔を引き離す。死ぬ程良い匂いがしたんですけど……なに、女の人って皆こんなに甘くて良い匂いがするの? この世は天国かよ。

 顔が熱くて死にそうになっていると、先生が俺の様子を見てにこにこ笑い、手をひらひらと振った。


「すまんすまん。お前の反応が可愛いから、ついついからかってしまった」

「まったく……本当にやめてくださいよ」

「お詫びに『押し倒し券』を十枚やろう」

「肩たたき券と同じノリで何か凄いこと言ってる!?」

「これを提示すれば、いつでも私を押し倒せる。どこまでやるのかもお前の自由だ。流石に授業中は憚られるが、その他の時ならいつでも来なさい。私は四六時中どきどきしなければならないな。ははは、大変だ」

「あんた自分の社会的立場を一時の性欲でかなぐり捨てるつもりか!?」


 しかもこの人、『憚られる』って言ったぞ! ちょっと勢いで押したら授業中でも行けそうじゃねぇか!


「ちなみに私の得意なプレイは――」

「いい加減にしてください!」

「んぁ……っ?」


 先生の両肩をがしりと掴んで、動きを止める。すると先生はぴたりと動きを止めた。


「放課後、話があります」

「あ……うぁ……わ、わかった、わかったから、そ、その……」

「え……」


 なんか先生が、頬を赤らめて顔を逸らしてるんですけど。しかもやたら艶っぽい流し目を送ってくるんですけど。

 何事かと思い、視線を下に逸らす。

 俺は先生を壁に追いやって両肩を掴み、すらりと伸びた足の間に自分の右足をねじ込んでいた。

 さっきと同じ状況じゃん、これ。

 そんでもって、今言った話がこれである。


『放課後、話があります』


「…………」


 …………。

 ……これ、完全にアウトですやん……。


 白目になりかけつつも何とか先生に視線を戻すと、顎に手を当てて何かぶつぶつと呟いている。


「うぅむ、年下も年下だが、ここまでタイプど真ん中だと本当にありかもしれないな……」

「あ、あの、先生」

「あの官能小説でもこういうくだりがあったが……そうか、私はこういうのを求めていたのかもしれない。そうだ、きっとそうだ」

「先生、お願いです先生、目を覚ましてください」

「まずは押し倒されて、そこからはめくるめく緊縛・露出・恥辱プレイの数々を強いられる日々になる訳だ……ふふ、強いられるという言い方が適切でなくなる日も近いな……。忙しくなりそうだ……しかし肉体面で充実していると、仕事のストレスなど屁でも無くなるからな……」


 話の方向が非常にまずいことになっている。圧倒的・一方的にダメだこれ。


「先生」

「うん?」


 先生が目を細めて、信じられないくらい艶っぽく微笑んだ。あかん、勃った。


「あのですね、放課後は薫と更紗も連れて行きたいと思ってるんですが、大丈夫でしょうか」


 尋ねると、先生がくりんと首を傾げた。心底不思議そうに。ちょっとあどけない仕草が死ぬほど可愛い。


「……あの二人が見ている前で、私を押し倒そうと言うのか? 中々発想が変態的だな、橘。だが嫌いじゃないぞ、むしろ大好物だ」

「あんた頭腐ってんのか!?」

「発酵していると言った方が正しいな。我慢しすぎで」

「何で足開いたの!? ねえなんで!?」


 結局。

 ただただ、卯月先生に放課後のアポをとるという作業に、二十分くらいくってしまった。ちなみに仕事は大丈夫だったのかと聞くと、私の能力なら何ら問題無いとさらりと言われてしまった。あの人やっぱ仕事出来るんだなぁ……。

 真面目な話と分かると、小さく舌打ちして「ちっ……まあ、まだ時間はあるからな。卒業までに押し倒させれば良いか……」という恐ろしい計画の独り言を聞いてしまったんだけど誰か忘れさせてくださいお願いだから。あの人自分が押し倒すんじゃなくて、俺が押し倒すよう誘導しようとしてるよ……。抗える自信があんまり無いよ……。


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