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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第3部 都大会編 1
89/385

VS江戸間 ダブルス1 山雲・河内 対 加藤・森井 2 "望まぬ再会"

「えっ? でも、普通にプレーして相手がミスしただけに見えましたけど」


 明らかな凡ミス。

 運が良かっただけ、と言ってしまえば乱暴だけれど、わたしの目にはそんな風に映っていた。


「そこですよ」


 このみ先輩は咲来先輩と瑞稀先輩のプレーをじっと見ながら。


「まったく付け入る隙のない連携プレーを、いとも簡単にやってのけたから敵が焦ってミスをしたんです」

「完璧なプレーがミスを"誘った"って事ですか?」


 先輩はゆっくりと頷く。


「しかも、ですよ。気づきましたか。あの2人・・・プレー中は一切声の掛け合いをしていないでしょう」

「!」


 そこでハッとする。

 そう言えば。今を含めて、ボールが飛び交っている間・・・先輩たちは声を出してない。


「その必要が無いほど、息の合ってる証拠ですよ」


 2人の動きを見る。

 前衛の咲来先輩が動けば、まるで何かで繋がっているんじゃないかというくらいほとんど同じタイミングで、瑞稀先輩はその逆方向に動く。瑞稀先輩が対角線上にショットを打つ場合は、前衛の咲来先輩が若干屈むような姿勢になる。


「阿吽の呼吸・・・ですね」


 言わなくても分かる。だから、言う必要が無い。

 コートの中の2人の関係は・・・コート外での関係、そのものだった。


「すごいですよね。あの2人にとってはコートの中も外も、試合中も寝てる時も関係ない。ずっと一緒に居て、ずっと同じようにやっているから・・・決してその足並みは乱れることが無い」

「一緒に過ごした時間や信頼関係が、そのままプレーに直結してる・・・」


 そんな事があり得るのだろうか。

 いや、実際に目の前でそれを見ているのだから、信じるしかない。


 これは確かに―――


「真似出来るわけ、ないですよね・・・」


 苦笑いを浮かべるしかなかった。





「5-0で、白桜女子の勝利。礼!」

「「ありがとうございました」」


 結局、白桜は江戸間をまったく寄せ付けずストレート勝ちした。


「6-1、6-0、6-1、6-0、6-0・・・ひゃー、壮観ッスねこりゃあ」


 自分でつけていたスコアブックを見て、そう言わずにはいられなかった。

 完勝・・・完全なる勝利。まさにその言葉が相応しい。


「特に熊原先輩と仁科先輩のペアが他のレギュラーと同じくらい圧倒的な試合をしてたのが印象的ッスねえ。姉御、立場危ういんじゃないんスか?」

「ぐむむ・・・。だ、大丈夫! ぜんっぜん心配なんかしてないんだからね!」

「急にツンデレ口調になる必要はないんスけどね」


 両腕を組んで仁王立ちしながらコートの中で挨拶を交わすレギュラー選手を見る姉御。

 ウチはそれを横で見ながらやれやれと両手を広げる。


(この様子だと多分、もう身体を動かしたくて仕方ないんじゃないんスかね)


 姉御は味方が圧倒的に勝ってる姿を見て、凹むような弱メンタルの持ち主じゃないことくらい分かっている。

 この人はこういう時、逆に闘志に火がついて絶対に負けるかって意気込むタイプだ。

 実際、既にもう菊池先輩と何か話し合いを行っている。


(すごいなあ)


 もうすっかり1軍に馴染んでるんだもんなあ。

 そんな風に感心だったり感嘆だったりの気持ちが入り混じった表情で姉御を見ていると。


「キャー! 良い試合だったよ~! 文香ちゃーん! 燐ちゃーん、まりか様ー!!」


 そんな黄色過ぎる大音量の声援が、少し向こうの方から聞こえてきていた。


「こっち向いてー! こっちこっち! あ、こっちね! 目線いただけますかー!!」


 ・・・大量のシャッター音と共に。


「げっ」


 すぐ横を見ると、姉御が普段滅多に出さないような種類の声を出していた。


「どうしたんスか?」

「や、やばいよ万理、先輩! 逃げよう!!」

「逃げる?」


 同じように首を捻っている菊池先輩。

 しかし姉御は菊池先輩とウチの手をそれぞれ両手で取って、その場から去ろうとする。


 まるで、こそこそと逃げ出すように。


「あー! そこに居るのはもしや!!」


 その瞬間。

 まるで風が吹き抜けたような速度で、何者かが姉御の逃げようとした進路にまわりこんでそこを塞ぎ。


「白桜の元気娘ちゃんじゃない!」


 持っていたカメラを構えると、まるでゲームのコントローラーよろしく、カメラのシャッターを連打し始めた。


「貴女の活躍は聞いてるわよ~。あれからレギュラー獲ったんだって? すごいじゃない、やっぱり美少女中学生の持つ可能性は無限大ね!」

「あ、ありがとうございます・・・じゃなくて! そんな指で連打しなくてもデジカメにそういう機能ついてるでしょ!?」

「ダメダメ。お姉さんアナログ人間だからそういうのぜんっぜんアテにしてないの! それともっ! 有紀ちゃんが手取り足取り教えてくれるのかなぁ~?」

「ひぃぃぃっ!」


 まくし立てるカメラマンさんに恐れおののく姉御。

 珍しい。姉御がこんな顔を真っ青にしているのを見るのは初めてだ。


(姉御にも苦手な人、居るんスね)


 超社交性のコミュお化けも人の子なんだと思い知らされる。

 ただ、まあこの人を得意な人はそんな居ないだろうなあ、というくらいの超濃厚な性格をした人だけど。


「ぐへへ。そういえば有紀ちゃん、この間と比べると育ったねえ。なんかこう、子供から大人になりかけているというか、背もそうだけど体格がしっかりしてきたし、それにお胸の方も・・・これは1カップ上がったと見て間違いないね~」

「ちょっと! 誰かこの人止めてくださいよ!」

「残念だったね。今日は1人で来てるから誰も私を止められない!」

「ホントにやめてー!!」

「だが断る!」


 容赦なく浴びせられるシャッター音。

 嫌がる姉御を無理矢理撮影し続けるカメラマンのお姉さん(たぶん変態)。

 うん。字面だと非常にいやらしいッス。


 しびれを切らした姉御は。


「監督、助けてくださいー!」


 と、叫びながら全速力で走って逃げだした。


「なにぃ!?」


 それを聞いて今度はカメラマンのお姉さんが真っ青になる。


「や、やばい・・・。篠岡さんにこんなのバレたら・・・」


 がたがたと全身を震わせながら、小刻みに震える手でずり落ちた黒ぶち眼鏡をかけ直すと。


「ころされるッ!」


 そう直感し、足元にあった撮影機材やバッグを両手で抱え。


「ちょ、そこの君ッ」

「ん? ウチッスか?」


 逃げ出すのかと思いきや、こっちに駆け寄ってきた。


「私、今から向こうに逃げるけど、内緒だよ!?」


 右方向を指差しながら、必死の形相でそう言う。


「んー。どうしましょうかねえ。ウチ、口軽いんスよねえ」

「た、頼むよ! お姉さんなんでもするから!」

「なんでもって具体性なくてあんま信用できないッス」


 ウチの言葉に、本当に泣き出しそうになるカメラマンお姉さん。

 しょうがないな・・・。泣かれたらさすがにちょっと後味が悪いし。


「んじゃ。今後さっきみたいな撮影会を行う場合はウチを通して欲しいッス」

「う。ううう゛~~~」


 お姉さんはだいぶ困った様子で頭を抱えてしまった。

 しかし相当焦っていたのか、わずか数秒で彼女は結論を出す。


「~~~っ、わかった! 君、名前は?」

「長谷川万理と言う者ッス」

「万理ちゃん・・・。く、その名前覚えたよ!」


 お姉さんは超人的なスピードでスマホにウチの名前をメモし。


「約束は守ってよね!?」


 と、もはや限界寸前と言った汗の量で迫ってきた。


「女と女の約束ッス。間違いなく履行しますよ」


 ウチが頷くと、彼女はそれじゃ!と挨拶もそこそこに全速力で逃げ去って行った。


(こんな事しか出来ないッスけど)


 少なくとも、ほんのちょっぴりだけでも姉御の役に立てたのならそれでいい。

 姉御はこういう時の対処とか、苦手そうな感じだったし。

 露払いにでもなれたのなら、万々歳だ。


(・・・ウチだって)


 ―――チームの役に立ちたい


 レギュラー選手・・・特に、自分と同じ1年生の姉御や文香姐さんが他校相手に全力で戦っている姿を見ると。

 こんな2軍の三下にも、そんな気持ちが芽生えるようになってきたのだ。

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