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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第1部 入学~2軍編
6/385

気に入らない!

「ここがわたしの部屋か・・・」


 寮は想像していたよりずっと綺麗な施設だった。

 オートロックだし、外観なんかマンションかと見まがうほどの大きさ。3階建てで、今居るわたしの部屋は1番上の3階。


(このレベルの建物、うちの地元には駅前にあるかどうか・・・)


 故郷の閑散としたシャッター街を思い出す。

 3階建ての建物自体が少ないし、オートロックとまでなると・・・。


「ええい、やめやめ! わたしは今日から都会っ娘になるんだから!」


 厚めの木の扉を開け、部屋の中へと入る。


 ―――そんな事を考えていたからか、頭の中から消し飛んでいた。


「あっ」


 下着姿の女の子と、バッチリ目が合う。


(うわ、ナイスバディ)


 目が合った後、自然と視線が下がっていった。そのくらい、素晴らしいものをお持ちで。


 ―――寮は、基本的に二人部屋だという事を。


「・・・1つ、"貸し"ね」

「はい?」


 お菓子?


「私の下着姿を只見したから貸し1つ、付けておくわ」


 彼女はその透き通るような白銀の髪を梳いて、腰に手を付け、その大きな胸を張ってこちらに宣言する。


「貸しって・・・?」


 わたしはぽかんと、口を半開きにして反射的にそんな言葉を返していた。

 すると。


「・・・はあ。同居人がバカだなんて、運が無いわね」

「ば、バカとは失礼なっ」

「言っておくわ。私はバカが嫌いよ。で、」


 瞬間、彼女の姿が消えた。かと思うと。

 わたしの景色が一転していた。


「無能はもっと嫌い」


 そして何が何だか分からないうちに、わたしは頭を踏まれている。

 頭の上に、少し柔らかな感触を感じた。


「いきなり何するの!?」

「貸し1つと言ったでしょう。これくらいで勘弁してあげるわ」

「ドアを開けただけなのにこんなのってないよ!」

「無礼をこれくらいで許してあげるって言ってるの」


 彼女はゆっくりと足先をわたしの頭から離していく。


「感謝しなさいよね」


 その、足の裏越しに見える景色に見入ってしまう。

 これほどの美少女の下着姿を真下から見られるって・・・。


(ご褒美・・・)


 違う違う! わたしドMじゃないです!!

 支配されたい願望とか無い無い!


「いてて・・・」


 改めて頭の裏に痛みを感じる。

 どうしよう。同居人がメチャクチャやばい人っぽい。


(この子と3年間同じ部屋・・・!?)


 行く先に不安以外見えない。


「私は水鳥(みずどり)文香(ふみか)。ウォーターの水と空を羽ばたく鳥、文武両道の文に香しいの香よ」

「じ、自己紹介が被ったーーー!?」


 目の前に居る少女が自分と同じ思考パターンを持っていたことに驚く。


「はあ?」


 銀髪の少女は呆れた様子で。


「その方式、わたしの! わたしのだから! 藍原有紀・・・藍色の藍と、草原の原、有終の美の有に、世紀末の紀!」


 必死で物心ついた頃に編み出した自己紹介を言う。

 だって、この子、如何にも浮世離れしてて、今の自己紹介で外国のハーフとかじゃないんだ・・・って驚くほどで、わたしとなんて何から何まで違うように思えて。


「貴女の? バカ言わないで。私のよ。貴女が自己紹介を変えなさい」

「やだよ! 今までこれでやってきたんだからこれはわたしの!」


 制服に着替えた文香と、にらみ合いになる。


(この子・・・なんかムカつく!)


 一瞬の静寂が流れた後、向こうがやれやれと肩を崩した。


「アンタみたいなバカと付き合ってると単細胞が私にまでうつるわ」

「なにー!?」


 ムキになって噛み付いてしまう。


「とりあえず荷物だけでも整理しなさいな。もうすぐ夕食よ」

「・・・む。そ、それは確かに」


 手持無沙汰でその場に置いておいたキャリーバックを持ち上げる。


「あらかわいらしい下着ね」


 なんて、からかわれながら、なんとか荷物を片付けた。

 何がかわいい下着ね、だ。文香ほど子供っぽい下着つけてないし! 何その縞々パンツ。その体系に全然合ってないってーの!


 ・・・これって悪口かな?





「いかん、迷った・・・」


 食堂に1年生は集合しろとは言われていたけれど、その食堂がどこにあるのか分からない。

 この寮無駄に広いし、1階には同じような部屋がいくつもあるし! 3つドアを開いたけど全部違う部屋だった。


(まさか自分が方向音痴だったとは思わなかった!)


 このごみごみした大都会に出てきて初めて感じたこと。

 同じような景色が連続すると混乱する・・・。これは田舎に居たら分からなかったことだ。


 やばい、集合時間が、などと焦っていたせいだろう。前も見えていなかったのか、何かにぶつかってしまう。


「あ(いた)゛っ」


 何か固いものに弾き飛ばされた。

 鼻先を抑えながら前を見ると。


 そこに居たのはわたしと同じくらいの背格好の女の子だった。

 金色の長い髪に兎の耳を思わせる大きな赤リボン。上に向いた2つの耳を思わせるそれは、その先だけが折れ曲がっていた。


 彼女は、まるで何か―――追突したわたし―――を遮るように左手を顔の前で構え、こちらに肘先を向けていた。


「・・・」


 ふと、目が合う。

 彼女はこちらを、睨みつけていた。そして目を細める。


「どこ見てんの? アンタ、今ぶつかってきたよね」


 あ、ダメだ怒られる。


「申し訳ございませんワタクシ藍原というチンケな輩でっ。すぐに立ち去りますのでどうか・・・」

「は? そんなんどうでも良いから」


 勢いで逃げようとしたところで、服の首根っこを掴まれる。


「咲来先輩に謝りなさいよ」

「あ、ええ? あなたにじゃなくてですか?」

「そうだよあたしの事なんかどうでも良いから先輩に謝りなさいよ。あたしが防がなかったらアンタ、先輩にぶつかってたんだから! どうすんのこの大事な時期に怪我でもしたら!」


 ものすごい剣幕でまくし立ててくる赤リボンの人。

 このタイミングで。


「瑞稀、もういいから」


 リボンの後ろから、彼女を止める声が聞こえてきた。


「よくありませんっ!」

「あなた、新入生でしょ? ごめんねこの子に悪気は無いんだ。ちょっと愛想よくないだけだから」

「い、いえこちらこそ申し訳ありませんでした・・・」


 ぺこぺこと頭を下げて謝るわたしに対して、リボンの先輩は終始ぶすっとした顔で面白くなさそうにこちらを見下げていた。

 後から出てきたショートボブの先輩は、すごく優しい人で。


(・・・この学校の敷地に入ってから初めてまともな人に会った気がする)


 こんなこと言うと、いろんな人に怒られそうだけど。


「つかぬことをお伺いしますが、食堂はどこでしょう? わたし、迷っちゃって」

「なんだ、最初からそう言ってくれれば。一緒に行こう、案内にしてあげる」

「ほ、ほんとですか!?」


 わたしは握手をして、涙を流しながらその手を握りしめる。

 そのままハグしようとしたけれど。


「調子に乗んな、バカ1年」


 リボン先輩に思い切りぶん殴られました。


「瑞稀、そういうのは。初めて後輩が出来たから嬉しいのは分かるけど・・・」

「う、嬉しいとかじゃないんですっ。ただ、先輩に馴れ馴れしくするから!」

「・・・妬いたの?」

「う、うう・・・」


 必死に弁解をしていたかと思うと、顔を真っ赤にしてしょぼくれるリボン先輩。心なしか、リボンが一緒に萎れていったような気がする。


「仲、良いんですねー」


 その様子がなんだかおかしくて、わたしは笑いながら2人に投げかけた。

 いきなり失礼かな、なんて思ったけど。


「「もちろん」」


 2人の声が完全に重なっていたのを見て。


(こりゃ筋金入りだなあ)


 なんて、感心してしまったのだ。

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