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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第2部 1軍~地区予選編
59/385

いざ、決勝戦へ!

ダブルス2

菊池(3年)、藍原(1年) - 鈴江(3年)、緒方(2年)


ダブルス1

山雲(3年)、河内(2年) - 外見(そとみ)(3年)、中野(3年)


シングルス3

水鳥(1年) - 志水(しみず)(3年)


シングルス2

熊原(3年) - 今村(3年)


シングルス1

久我(3年) - 加賀(3年)



 マムからもらったスタメン表を見て、まず驚いた。


「シングルス2が新倉さんじゃない・・・?」


 これって、もしかして。

 そんな考えが頭をよぎらずにはいられなかったのだ。


「いよいよもって流れがウチに来てるね」


 マムが少しだけ笑いながら言った。


「へへ。あの2年生、あたしにビビって逃げやがったか」

「もしかしたら・・・」

「この試合」


 みんなの中にも明らかにその感覚は芽生えつつあった。


「勝てる。決勝戦(これ)は勝てる戦いだ」


 そしてそれを、マムが言葉として出してくれる。

 だから。


「家族で全国へ。私たちの夢が、届くところまで来てる・・・」


 私はただ、それの後押しをする。

 マムの言葉をなぞるだけになってしまっているかもしれないけれど。

 ・・・それでいいんだ。


「あ、あの。マム。いいですか?」

「なんだい愛依」

「そんなちっちゃな声じゃ聞こえないぞ。マムの年齢考え」


 と同時に。


「い、痛い痛い! 嘘ウソ、ジョークだっての!」

「紗希のソレはジョークに聞こえない」


 紗希の弁解が聞こえてくる。

 いつものように三枝子(みえこ)が紗希の背中をぎゅーっと抓ってくれたらしい。


 さすが、頼りになる。さすがウチのシングルス1だ。


「・・・いわゆる"久我シフト"を敷かなかったのは、どうしてですか?」


 静かになるタイミングを見計らったような愛依の言葉に、自然と場が静まり返る。


「わ、私。先輩たちの為なら当て馬でもなんでもやりますっ。志水先輩や加賀先輩はダブルスもできますし・・・」

「愛依」


 そこで私は愛依の頭をゆっくりと撫でてあげる。


「落ち着いて。ね?」


 そそっかしい末っ子の妹。

 いつも私たちの事を1番に考えてくれる優しい子だから、そういう考えに至っちゃったんだと思う。


「は、はい・・・」


 しばらく撫でてあげる。

 愛依のサラサラな髪の毛はいくら撫でても崩れたりしない。くしゃり甲斐があるなあ。


「愛依。たとえここで久我シフトを敷いて勝ったとしても・・・それで何になる?」

「えっ?」

「ここでそんなやり方で都大会へ行っても、早々に負けるのは目に見えてるよ」


 マムは私たち全員を見まわして。


「みんな聞きな。私たちは真正面から実力で白桜を倒して都大会へ行くんだ。お前たちが本当に望んでたのは、そういう勝ち方だろ? 違うかい?」


 マムの言葉で、私の記憶の彼方にあった"とある言葉"が頭の奥で熱を上げた。


 ―――この街で生まれ育った私たちが、この街の代表になるんだ!


(・・・もう、忘れたと思ってた)


 自分ですら存在を忘れた・・・忘れようした記憶。

 一度は諦めかけた夢。


 それを、もう一度思い出させてくれた。

 やっぱりマムは、私たちの"お母さん"だ。


「みんな」


 だから"長女"として、部長として。


「勝とう。この試合勝って、絶対に家族みんなで都大会へ行こう」


 私も、ちゃんとしなきゃ。


「言われるまでもねえ」

「あの日から、私たちは家族だもん」

「家族はいつまでも一緒・・・」

「先輩たちとの夏は、まだまだこれからですっ!」


 みんなが私を見てくれている。

 みんなが一緒になって同じ目標に向かっていけている。

 それはかつて、私が望んで・・・どうしても手に入らなかったもの。


 それが。


「葛西二ーーー!!」

「「ファイッ!」」


 今、ここには。

 ぜんぶある。





「決勝戦は今までの2試合とは違うレベルの戦いになりそうです」


 大会会場内にある木陰で、わたしとこのみ先輩、2人だけのミーティングをしていた。

 ペアだけで確認しておきたいところがどうしてもあるから・・・という理由で、試合が始まる前にはいつもこうやって2人で話をしている。


「この試合は私たちの100%を出さないと勝てない・・・」

「全力全開ってことですか?」

「です。出し惜しみなく持てる技の全てを・・・、と言いたいところなんですが」


 先輩は座っている足元の芝生を人差し指で×、となぞると。


「例のサーブだけは使わないでおきましょう」


 え、と一瞬戸惑ったけど。


「それって! 『都大会まで温存しておきたかったんだけどね』的なコトですか!? 手の内隠す的な!?」


 予選でアレを出すと他校にバレちゃって研究されちゃって!


「バーカ。藍原のくせに手の内隠すとか、2回勝ったくらいで調子こいてんじゃねーぞ、です」

「うえぇぇ!?」


 ある程度予想できていた先輩の反応に、頭をガツンと叩かれた感覚に遭う。


「あんな未完成なものを実戦で出すのは無謀ってだけですよ」

「でも、色々なサーブ打った方が相手も混乱するんじゃあ?」

「・・・勝負事には"流れ"ってものがあるんです」


 先輩はわたしの言葉を受け流すように。


「今まで上手くいっていたのに、ふとしたキッカケで何をやっても上手くいかなくなることがある」

「それは・・・確かに」

「不完全なサーブをダメ元で選択肢に残しておくより、最初から他の2本のサーブをコントロールすることに専念した方が良い、そういうことです。お前はただでさえコントロールが悪いんですから」


 そこで先輩はふう、と息を吐いて。


「大丈夫。藍原、お前のサーブは強い・・・これは自信を持って言えます」

「このみ先輩」

「今まで2人で作り上げてきたダブルスで、ど真ん中ぶち抜いて勝ってやりましょう」


 2人で作り上げてきたダブルス―――

 その言葉が、妙に胸の奥に突き刺さった。


「つまり、愛の結晶ってことですか!?」

「決勝戦だけに?」

「もうっ、ふざけないでくださいよ先輩!」


 今、ズバッと決まったと思ったのに!


「いや、なんかお前の顔見てたらちょっと言いたくなっちゃって」

「そんだけふざける余裕があるならもういいですよね!」

「えへへ。藍原、怒ってます?」

「怒ってるって言ったら謝ってくれるんですかっ」

「藍原」


 わたしがぷいっと顔を背けていると。

 ぼふっ。

 胸から腰にかけて、柔らかい感触。


「愛情と信頼のハグ・・・」


 先輩がわたしをぎゅーっと抱きしめていた。


「ごめん。藍原が可愛いから、ちょっとからかいたくなっちゃっただけです」

「もう・・・。先輩のそういう素直じゃないとこ、わたし以外じゃ許してくれないですよ」


 少し、いつもとは違った感覚のハグに少し戸惑いながら。

 先輩の背中に手をまわし、抱きしめる。


「ばか。お互い様だろです」


 腕の中にある身体の小ささがそう感じさせているのか、抱き合ってる感触が気持ちいいのか、それとも他の理由か―――

 今はこの人の憎まれ口も、かわいく思えた。

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