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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第2部 1軍~地区予選編
54/385

アイアム水鳥文香

 何か今、すごい勘違いをされたような。


 "あなたは水鳥文香ですか?"

 いいえ、わたしは藍原有紀です。


「水鳥文香さんですよね!? 握手してください!!」


 しかし彼女は顔を真っ赤にさせて、頭を思いっきり下げて手だけを差し延ばしてくる。


「あー・・・」


 どうしよう。

 文香じゃないんだけどな、本当は・・・。


「わ、わたしのファンかー。応援ありがとね」


 しっかり彼女の手を取って握手する。


 ・・・しょうがない。

 あのキラキラした目や真っ赤な顔、初々しい反応。

 ここで違いますなんて言えない雰囲気だった。

 でも、ウソはウソでも優しい嘘ならついても良いって言うし・・・。


「み、水鳥さんに握手してもらえるなんて・・・! この手、一生洗いません!!」

「いやー・・・、すぐ洗った方が良いかなー。風邪とか引いちゃったら辛いよ?」

「私のことを気遣ってくれるんですか!? さすが天才は心が広い!」


 あはは、と乾いた笑いをしてやり過ごす。

 だって褒められてるんだから、良い気がしないわけないじゃない。


「あの、お願いがあるんだけど良いかな?」

「はい! なんでしょうか!?」


 このみ先輩と同じくらいの背丈の彼女は目をきらっきらに輝かせながらこちらを見上げる。

 まさにご主人様の命令を待っている子犬のようだ。


「大会本部まで連れていってほしいんだけど・・・」


 乗りかかった船だ。この子に助けてもらおう。


「はい! よろこんで!」


 だってこんなに楽しそうなんだよ?





 本部へ行くまでの道中、目の前に居るのが文香だと信じて止まない彼女は、それをわたしに確認するかのように水鳥文香がどれだけすごいのかを延々と語ってくれた。

 神童、天才、大会荒らしの水鳥という異名がついていたということまで詳細に。


 そんな話を聞かされていると目的地にはすぐに辿り着いた。

 大会本部の大きなテントの前まで行くと。


「あ、せんぱーい!」


 このみ先輩がテントの前に立っていたのでわたしはすぐに手を振って声を上げた。

 ピンクの髪とあのちっちゃな身なり、見間違えるわけがない。


「お前、どこ行ってたんですか!」

「ごめんなさい、舞い上がっちゃって・・・」

「あと3分遅かったら放送流して呼んでもらうところだったんですよ!?」


 うわー、地獄。地獄だ。考えただけでぞっとする。

 迷子のご案内って、さすがに小学校低学年じゃないんだから・・・。


「よかったですね水鳥さん」


 隣に居た彼女が首を傾けながら微笑む。


「水鳥・・・?」


 瞬間、先輩が怪訝な顔をしたので。


「ああそうだ! 君、名前は? お礼くらい言わせてよ」


 と、無理矢理先輩の言葉を遮って話を続けることにした。


「私、ですか?」


 彼女は自分に人差し指を向けながら言う。


「そうそう」


 わたしがぶんぶんと首を縦に振ると。


「私は、葛西第二中学2年、緒方愛依(おがためい)です!」


 元気よく、そう挨拶してくれた。


 ・・・あれ。2年生?


「って、年上!?」


 こんなちっちゃな子が!?と言おうとしたけれど。

 隣の先輩がそれだけは言うなというオーラを出していたので、自然とその言葉が喉の奥へ戻っていく。


「あ、気にしないでください。私、水鳥さんとお話出来ただけですっごく嬉しかったですし! 水鳥さん相手なら敬語は普通ですっ」


 そう言って笑いかけてくれた緒方さんの笑顔があまりに眩しくて、わたしは直視できなかった。


「それでは! もし今日の大会でウチと当たることがあったら、お手柔らかにお願いしますね」


 彼女は去り際にそんな事を言うと。


「水鳥さんって思ってたよりフレンドリーな方で、もっと好きになっちゃいましたっ」


 と、十個以上のハートマークを飛ばしてからこの場から去って行った。


「・・・先輩」

「私はどうなっても知らんですよ」

「そんなーっ」


 でも、葛西第二なんてあんまり聞いたことがない学校名だし・・・。

 大丈夫・・・だよね?

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