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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第2部 1軍~地区予選編
46/385

合宿1日目!

「みんな揃ったね、うん」


 金曜日の放課後。

 これから始まる3連休への解放感・・・など1ミリもなく。

 わたし達は1軍練習場のメインコートに集まり、いつも監督が立って話をする場所に部長が立っていた。


「それではこれより、"合宿"を始めます。みんな―――」


 部長はすっと全員の顔を見渡すと。


「死なないように気をつけてください」


 普段からマイペースであまり何を考えているか分からないような人だけど。

 この時ばかりは部長の言いたいことがハッキリと分かってしまうのが怖かった。


「まずはサーブ100本!!」


 20人強の1軍メンバーが6つのグループに分けられ、それぞれ1つのコートを自由に使える。

 最初の特訓は「100本サーブ」。サーブを100本打ったら交代。レシーブ側も100本サーブをレシーブしたら交代する。


 しかし。


「藍原、外だから今のノーカン!」

「うえぇー!?」


 10回決めるごとに指定コースが内側から外側、もう10回決めたら外側から内側に切り替えられる。

 その指定コースから外れたらカウントされない。


「藍原今のもだよー」

「またですか!?」


 今まで細かいコントロールを気にしてこなかったわたしにとってはこれが地獄だった。

 いつまで経っても終わらない。レシーブ側の先輩たちが次々と変わっていくのにわたしはずっとサーブを打ちっぱなし。


(今まではずっとサービスエリアにサーブを入れることだけを考えてた。でも、それじゃあダメ・・・)


 多少サーブの威力を抑えてでも、コントロールをつけなきゃいけない時はある。

 威力の調整・・・、そんな事はじめてやった。そして先輩たちの倍くらいの時間をかけながらも。


「オッケー! 藍原クリアね! しっかりクールダウンしときなよ!」

「は、あ・・・はあ、やっと終わった」


 肩で息をしながら、3年生の先輩からタオルとスポーツドリンクを受け取る。


「終わった? これが始まりだよ。まだ明るいしね」

「お、おうマジですか」

「次はフットワーク練習だね」


 まずはサイドステップの練習。

 両足にチューブをかけて、ゴムチューブを伸ばすように横へ移動する。

 コートを100往復したら終わり。


 走る練習でもないし、ラケットとボールを使わないためかなり地味。

 でも・・・。


「地味にしんどい・・・!」


 なにこれ! 画的にも地味なのに常に脚に力を入れてないとゴムチューブが伸びなくて横に進めない。

 しかもゆっくりしか移動できないからなかなか回数が減っていかない。


「も、もうダメ・・・足痛い」


 足を投げ出してコート脇に座り込む。


「はは。1年生でこれキツいと思うなあ」


 3年生の先輩が水を渡してくれがてら、苦笑している。


「今なら耐えられるけど1年の時なら死んでる」

「わ、わたし死にますか・・・!?」


 自分でもよく分からない台詞を口走るほどには疲れ切っていた。


「大丈夫大丈夫。藍原、根性あるから。ね?」


 そんな風に言われちゃうと。


「え、ええそりゃあもう! 根性だけなら超中学生レベルですよ!」

「その調子その調子」


 上手いこと乗せられた!


 今度はクロスステップの練習。

 小さなハードルを1つずつ超えていって、その先で軽くトスされたボールを打つ。


 小さいとはいえ狭い間隔で置かれているハードルを越える練習にボールを打つという要素が1つ挟まっただけで一気に難易度が跳ね上がる。

 きちんとショットを打てる姿勢になるようにハードルを越えていかなければならないからだ。


 これも100回やったら終了。


 そして砂地の練習場に移動してスライドステップの練習。

 足を地面につけて、滑らせるようにして前に進み、元の体勢に戻ってはまた前に進む。この練習は単純、これを繰り返すだけ。


(だからこういう地味なのが1番キツいんだって・・・!!)


 普段やらないことをやっているからか、走るより疲労感がある。


 この練習の後、1軍コートに戻る途中。ちらっと隣のコートを見ると、文香がスクワット練習をしている途中のようだった。

 唇を噛み締めて、大粒の汗を流しながら。それでも表情1つ変えずに練習する文香。


 ―――負けられない


 地味な練習の繰り返しでモチベーションが落ちていた心に、炎がメラついたのがわかった。

 いつも一緒だから、同じ部屋で衣食住を共にしている友達だから。

 文香に置いてかれるのは絶対に嫌だ。

 あの子に付いていくには・・・こういうキツい練習を文香よりこなさなきゃダメなんだ。


「先輩方!」

「うわ、なに藍原?」

「もう一度気合を入れ直しましょう! 士気が落ちてますよ! 声出して声を! 今が1番辛い時間ですが! そういう時こそ声をかけあって! みんな実力はある子なんですから!」

「「偉そうだなおい」」


 ナイター設備をフル使用して煌々と昼間のような明るさだからあまり気にならないけれど、少し外を見れば完全に陽が暮れていて辺りは真っ暗。もう何時かも分からない。


 最後はスキップ&ホップ。

 これは実戦を想定してショットを打つ練習。

 跳ねながらボールを打つ。アプローチで使うショットなので特にこのみ先輩と2人で磨き上げた技術の1つもである・・・んだけれど。


 これが難しいのはバックハンドでの対応。

 フォアハンドなら割と簡単に打ちかえせる。

 でも、バックになると一気に難易度が高くなるのだ。


「全然入んないじゃないですかー!?」


 元々バックがあんまり得意じゃないわたしにとってはまさに底なし沼みたいな練習になってしまった。

 コントロールがつかず、ぽんぽんボールがコートのラインを越えていく。


「藍原ー、力が空回りしてる。抑えて抑えて」


 トスを出してくれている先輩が手のひらを下にして、押し付けるジェスチャーをしているけれど。


(前に出るためのステップだし、バックハンドだし力入っちゃうよ)


 気分も高揚してるし、抑えろって言われてなかなか抑えられるものじゃない。

 結局四苦八苦しながらもなんとか完遂することが出来た。


 そんなこんなで"合宿"、1日目の練習は終了することになる。


「このみ先輩~。疲れたー、死ぬー、先輩分を補給させてください~」


 そう言って隣のコートから出てきたこのみ先輩に抱き着く。


「今日それで大丈夫ですか?」


 この後先輩が放った言葉に戦慄する。


「残り"丸3日"ありますけど」

「う、ウソだ・・・」


 がっくりと膝から崩れ落ちて、四つん這いのポーズで意気消沈する。


「明日、ダブルスペアは戦術練習だよ。頭空っぽのアンタにダブルスの基本叩き込んでやるから」


 そんな事を笑顔で言う瑞稀先輩。

 同じ量の練習をしているはずなのに、上級生の平気っぷりは本当にさすがとしか言いようがない。


「河内のダブルス技術は参考になる点が多いですから、たっぷり教えてもらいましょう」

「うう、このみ先輩まで・・・」


 この人にそんな事を言われたら、黙って聞くしかないじゃない。

 そういえばこれまでその辺りはあまり考えずに練習してきた。本当に基礎中の基礎しか知らないダブルスについて、このチームで最強のダブルスペアから教えてもらおう。

 じゃないと。


(あの人たちには勝てない・・・)


 わたしの視線の先には、強い口調で話し合いをしている2人。

 仁科先輩と、熊原先輩。


 ようやくこのみ先輩の言っていたことの意味が分かった。

 今、白桜で咲来先輩瑞稀先輩に次ぐ実力を持っているのはあの2人のペアだ。

 さっきの練習で熊原先輩と一緒だったけど、わたしの組の中であの人だけ動きが違った。


 あの人は。


(多分、シングルスをやれば文香といい勝負するんじゃないかってくらい強い―――)

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