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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第10部 新チーム発足編
383/385

彼女たちの反応



 ―――栃木


 白桜の噂は、すぐに回ってきていた。

 あの白桜が。そんな思いもあったが、今ワタクシの中にあるのは"不安"、ただそれだけだった。


「白桜さんも本当に足元すくわれる直前だったんだねー」

「1年生の何だっけ…藍原さん?全国で結構良いプレーしてたけど、なんか地区(ブロック)予選は大会登録メンバー外だったらしいよ」

「あー、あの子ね!先輩の背中にサーブ、バーンってぶつけてた子!」


 野次馬の声は絶えない。

 ワタクシの中にあるその不安は、どんどん大きくなっていってそれは次第に白桜そのものから藍原さん個人へと収束していく。


 『何やっているんだ』。


 そんな気持ちが、沸々と浮かび上がって来ては消えていく。


(何やってるんですの、藍原さん…。貴女たちがこんなところで躓くなんて、らしくない)


 夏の大会ではワタクシたちを破って全国へ行ったチームだ。

 その白桜が、秋の大会予想外の不安定さを露出している。

 心配にならないはずがなかった。


 ワタクシはスマホを手に取ると、ラインのアプリを起動させて藍原さんのアカウントを開く。


 "大丈夫ですの"


 ただ一言、その言葉を彼女に向けて送信した。



 ―――神奈川


 白桜の話は自分たちの試合終了後、すぐにまわってきた。


「ふーん、白桜がね」


 だけど、ボクからしたら別に戦ったことのあるチームでもないし、どうでもいいという感覚の方が強かった。

 全国的に見れば強豪のチームなのかもしれないし、注目度は高いんだろうけどさ。


「ま、それだけのチームだってことでしょ」


 正直、眼中にない。

 ボクらを倒せるくらいの相手を連れてきてから言ってくれよという感じ。


「美南」

「あ、汐莉さん!」


 部長でもあり、我が青稜の堂々たるエースがボクの名前を呼ぶ。


「汐莉さぁん、さっきのボクの試合どうでしたぁ?」


 ルンルンとした気分で、まるで尻尾を振るように汐莉さんのもとへと駆け寄って愛らしく言葉をかける。


「よく出来てたね、美南。結局私はこの地区(ブロック)予選、一度もコートに立つことなく終わってしまった」

「汐莉さんのお手を煩わせるほどでもない相手だったってコトですよ!ボクたちだけで十分です!」

「だと良いんだけどね」


 汐莉さんの言葉一つ一つがアリガタイ。

 あの八極を倒し、全国でも屈指のエースとなった汐莉さん。それでも驕りや緩みは一切ない、1つのミスも無いテニスで全国に名を馳せている。


(ボクらを倒せるとしたらそう…)


 『彼女たち』の名前しか出て来ない。


(赤桐―――)


 夏の大会、春の大会に続いて全国を制した、彼女たちしか居ないのだ。



 ―――大阪


 白桜女子。


 夏の大会では、唯一と言っていい私たちが『負けかけた相手』。

 最後は命さんの実力で押し切った感があったけど、何か1つ歯車が違えば彼女たちとの準々決勝、私たちは負けててもおかしくなかった。


 その白桜が…。


「無名の公立校に負けかけた、か」


 私は改めて事実を反芻する。


 確かに驚くべきことだ。

 その噂が瞬時にここ、大阪にもやってくる程度にはショッキングなニュースである。


「あーやっ」


 瞬間、後ろから誰かに抱き着かれる。

 とはいえ、こんな時に背中から思い切り抱き着いてくる人なんて1人しか知らないけど。


「命さんっ!」

「なーに冴えない顔してるのかにゃー?今日の試合完勝だったじゃん、元気ないねー?」

「白桜のニュース見てたんですよ」

「白桜ちゃんかー。ま、気にしなくていいんじゃない?どっちみち今のチーム状況じゃワタシたちのところ(ぜんこく)まで来られないでしょ」


 確かに…。

 命先輩はほわほわしていて何も考えていないようで、考えるべきことはしっかりと考えている人だ。

 この人がこういうんだから間違いない…そんなことを感がてしまう。


「真田さん、白桜の件についてどう?」

「あそこには飛鳥ちゃんが夏激戦を演じた水鳥文香ちゃんも居ますが」


 気づけば、飛鳥が報道陣に囲まれていた。

 大人たちに囲まれた飛鳥が、何を言うのかと思えば――


「あたしからは一言」


 飛鳥はそう言うと、すうっと息を一呼吸吸い込み。


「白桜、たるんどる!」


 それだけ言って、報道陣を制するようにその場から立ち去って行った。


「あはは、飛鳥らしいや」


 私からも思わず苦笑が漏れる。


「ねーねー、なんで飛鳥にインタビューが来てワタシには来ないのー?このチームのエース、ワタシだよー?」


 命先輩の棒読みが聞こえてきた。


「命先輩、インタビューの癖が強いから…。色々言っちゃうし、肝心なコト言わないですよね?」

「ぶー。ワタシはちゃーんとワタシなりに考えたこと言ってるんだけどなー」


 そう言って先輩は唇を尖らせる。


「ワタシ、今日出番一切なくて鬱憤溜まってるのー。何かで発散したーい!」

「出番無かったのは飛鳥も同じですけどね」


 そして飛鳥は、別にインタビューで鬱憤を晴らしたとも思っていないだろう。


「面白い女の子の匂いかーぎーたーいー!あやー、なんとかしてよ~」


 あーあ。

 ぐずっちゃったよ。

 こうなった命先輩は誰にも止められない。


 ―――命先輩は、今や全国でも最高ランクのプレイヤー

 普段のエキセントリックな言動、ムラの激しい性格とクセがあるとはいえ、その実力は今の全国のシングルスプレイヤーで屈指と言っていいだろう。

 この命先輩を完璧に管理するのが幸村監督…そこが我が赤桐が全国の頂点に立って所以(ゆえん)だろう。


(私たちはそこが上手くいっている、でも白桜は…そうじゃないんだろうな)


 まだ見ぬ東京のライバルチームへ思いを馳せる。

 彼女たちが自滅をするようなチームならそこまでという事。


 先輩じゃないけれど―――私たちとやりたかったら、全国へ来て見せてよ。そんな事を考えてしまうのだ。



 ―――東京


 黒永(うち)は危なげなく地区(ブロック)予選を突破していた。

 黄金世代と言われた3年生の先輩たちが引退し、その椅子がガラリと空いた黒永学院。

 しかし、黒永の選手層は並大抵ではない。

 『超召集』と題された、1軍2軍含め埋もれていた1,2年生の昇格を行い、3年生の引退から戦力差の落下をある程度防いで見せたのだ。


 しかし、それでもあの3年生たちの代わりをやるのは難しかったと言わざるを得ない。

 だが、この地区(ブロック)予選での結果を見れば一目瞭然だろう。

 我々黒永は敵チームを寄せ付けることなく予選を勝ち抜いて見せた。


(でもまぁ、正直夏からの戦力ダウンはある程度仕方ないってゆかりサンも思ってただろうからね)


 この地区(ブロック)予選、苦戦することだってあり得ただろう。

 だけど…あたしたちはそれでもやって見せた。ゆかりサンもこの結果には満足してらっしゃることだと思う。


「白桜が負けかけたんだって?」


 あたしは手ごろなところに居たチームメイトにそう話しかけた。


「ああ、麻衣。やっぱ気になるの?」

「別に。あたしは強いヤツとやりたいだけだから。それには新倉燐と水鳥文香の居る白桜とやるのが手っ取り早いでしょ」

「麻衣も今日1回も出番無くて暴れ足りない感じ?」

「それもあるよ」


 大会だというのに1人も潰せてない、それは確かに"暴れ足りない"という感覚なのだろう。


「新倉燐、水鳥文香…あぁ、早くあいつらを潰したい」


 ふふ、舌なめずりしちゃうね。

 思わず右手に力が入る。ラケットを握って、強者の前に立つ。それこそがあたしの本懐だから。

 そして自分の事を強いと思っている相手を潰す―――それこそが最上の悦び。


「麻衣。行きますよ」


 ゆかりサンがそう言ってあたしの事を呼ぶ。


「はぁい、ゆかりサン。いま行きますよ」


 あたしの愛しい愛しいゆかりサン。

 この人の顔に泥を塗るような真似だけは絶対に出来ない。


 白桜女子―――都大会では第1シードとなり、第2シードの黒永と決勝まで当たることはない。

 当たるとしたら決勝、潰すとしたらその最高の舞台でのことになる。

 その大舞台で強いヤツらを潰す…最高じゃない。あたし、身震いしちゃうね。


「ゆかりサン」

「どうしたの、麻衣」


 あたしは口角をUの字に、にっかりと笑って。


「楽しみだね、これから」


 彼女に笑顔を見せてみる。


「貴女が『エース』として君臨する限り、黒永に負けは無いですよ」

「えへへ、そうだといいなっ」


 とたとたと駆けていき、ゆかりサンの前でくるりとターンして、彼女の方にまた向き直る。


「ここからが第二幕の始まりだね!」


 あたし達の前に立ちふさがる敵は、潰す―――その思いが、より一層強くなった…そんな一日が終わりを告げようとしていた。



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