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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第10部 新チーム発足編
378/385

秋季大会 地区予選 決勝 『白桜女子中等部 対 葛西第二中学』 二度目の対決

 3年生(おねえちゃんたち)は自分たちが引退しても、ずっと私たち家族の事を気にかけてくれていた。

 特に千鶴お姉ちゃんは部の運営のことだけでなく、私の練習にも根気強く付き合ってくれて。

 今の私があるのは間違いなく千鶴お姉ちゃんのお陰。やっぱり私は千鶴お姉ちゃんが大好き。勿論、他のお姉ちゃんたちの事も。


 マムの実の娘、絵麻おかーさんは2学期になってから葛西第二にやってきた人だった。

 だけど、実はその前の夏休みの頃からテニス部にはずっと顔を出してくれていて、自分が新しい顧問だからと部を立て直すことに尽力してくれていた。とても頼りになる、優しくて美人な新任教師さんだ。


 葛西第二には、テニス経験があったもののテニス部の悪評を耳にしてテニス部に入りたくても入れない子たちが結構居た。

 だけど、夏の大会であの白桜女子さんに善戦したこと、テニス部はもう以前のようなものじゃないとお姉ちゃんたちが喧伝してくれいたお陰で、学校内でのテニス部の地位は確実に向上していた。

 事実、本当はテニス部に入りたかった1年生たちが十数人も、部に入部してくれたのだ。

 私もスカウトを頑張ったとはいえ、十分すぎる結果が得られたと言えるだろう。


 ―――そんなアレコレを乗り越え、私たちは秋の大会に臨んだ


 夏の大会を準優勝した第2シードの私たちは準々決勝から試合を行うことになる。

 新体制になってからの初戦。緊張はあったし、1年生中心のチームが通用しなかったらどうしようという不安もあった。だけど。


「3勝0敗で、葛西第二の勝利。礼!」

「「ありがとうございました!」」


 結果的にそれは杞憂で終わることになる。

 1年生(いもうと)たちはのびのびとプレーし自分の力を十二分に発揮、準決勝も無傷で勝ち上がり、自信を持って白桜女子さんと戦うことになったのだ。


「お姉ちゃん、褒めて褒めてー」

「よしよし、よくできたね。決勝もこの調子でよろしくね」

「えへへー」


 1年生の子たちは私の事をお姉ちゃんと呼んでくれ、かなり懐いてくれている。

 私は最後までお姉ちゃんたちに素直になれなかったけど、最初から十分に甘えておけばよかったと今になって思う。

 お姉ちゃんたちとべたべた甘々なテニス部…それはそれで、私が過ごしたテニス部(かぞく)とは違う形になっていたのだろうか。


「あ、ずるい!お姉ちゃん、私もよしよししてー」

「あたしもあたしも!」

「ずるいー、私のお姉ちゃんなのにー」

「うんうん。みんなんしてあげるから喧嘩しないで」


 本当に、かわいい子たちだ。

 私なんかに懐いてくれたのは、結局は3年生のお姉ちゃんたちのお陰だと私は思っている。

 お姉ちゃんたちの力が無かったら私なんて何もできていない。

 だけど、私は今ここに居る。たくさんの妹たちに囲まれながら、そして頼りになるおかーさんの下で、万全の状態を持って白桜女子さんに試合を挑めている。これは決して、当たり前の事なんかじゃない。


「緒方さんっ」


 私が1年生たちとわちゃわちゃしていると、おかーさんがキラキラと目を輝かせながら。


「夏休みからやってきたことの総決算、頑張りましょうね!あの白桜女子さんを公立校の私たちが倒す…並大抵のことではないですが、貴女たちなら出来ると私は信じています」

「おかーさん」

「貴女とのお付き合いはまだ2ヵ月程度ですが、私たちは『家族』です。家族の事は信用しています。一緒に頑張りましょうね」

「はいっ。勿論です!」


 家族―――お姉ちゃんたちから継承したその名前と共に。

 私たちは挑む。巨人殺し(ジャイアントキリング)へ。





「ただいまより、地区(ブロック)予選決勝戦、白桜女子中等部体葛西第二中学の試合を始めます」


 試合に出場する1チーム7人、計14人がネットを挟んで向かい合う。

 引き締まった表情をしている白桜(うち)と、どこか楽しそうな表情を浮かべている葛西第二。

 一見正反対のように見えるが、その心中は如何に。


「両校、礼!」

「「よろしくお願いします!!」」


 元気の良い声と共に、試合が始まる。


 試合形式はいつも通り、ダブルス2試合とシングルス3の試合を同時に行い、決着が着かなかった場合はシングルス2、シングルス1を順次行っていく形になる。

 3試合のうち、応援できるのは1試合のみ―――私が、応援しようと思ったのは。


「海老名先輩~!仁科先輩~!!頑張ってくださいーーー!!」


 海老名先輩が出場する、ダブルス2の試合だ。


「藍原さーん、私の試合よーく見ててなのー。頑張るのー」

「やるべきことをやるだけですわ」


 海老名先輩はラケットをふるふると振りながら私の応援に優しい言葉を返してくれる。

 仁科先輩はちょっと緊張しているようにも見えるけど…この人は全国大会でもダブルスのコートに入った人だ。きっと大丈夫だろう。


「礼っ」

「「よろしくお願いします」」


 さっきも礼したけど、ダブルス2の試合が始まる前に再び礼。そして対戦相手との握手。

 テニスは淑女のスポーツ、こういう試合前の挨拶と言うのは相手をリスペクトするためにもとても大切になってくる。


「じゃんけん、負けちゃったの」

「関係ありませんわ。しっかりレシーブしていきましょう」


 サーブ権は葛西第二から。

 相手選手は2人とも1年生―――先輩たちなら、経験の違いで勝っている。

 敵の実力が分からない以上、なんとも言えないが…この試合、こちらが主導権を握る為にはまずこの最初の1ゲームが重要になってくる。


 相手選手が構えの姿勢に入り、ぽーんとボールを打ち上げ、落ちてきたそれを思い切りインパクト。


(!? 速いっ!)


 最初に思ったのはそれだった。

 今まで対戦してきた2校の選手とは明らかに違う、スピードを持ったサーブ。


「くっ!」


 仁科先輩のレシーブが一拍遅れる。

 それを相手前衛が見逃さない。少し高めに逸れたそのボールを、振り下ろすように上から叩きつける。

 スマッシュのような形になったそのショットは、仁科先輩の遥か横を抜けていった。


「15-0」


 審判の声で、応援団がようやく1ポイント先取されたことに気づく。

 一瞬、静まり返った彼女たちを見て―――


「ドンマイです!まだまだ1ポイント!次のサーブをきちんとレシーブして決めちゃいましょう!!」


 わたしが、大きく声を出す。

 今のわたしに出来ることは、これしかないから。


「そうですわ!次、気持ち締めていきましょう」

「なの!」


 先輩たちにも声が届いたらしく、頼もしい言葉が続く。

 しかし。


 次のサーブはレシーブが出来たものの、ラリー戦に持ち込まれる。

 敵のダブルスは本当に1年生かと思うくらい連携が取れていて、なかなかラリーを終わらせてくれない。

 先に根負けしたのは先輩たちだった。

 最後は敵後衛の長い距離の対角線(クロス)へのショットが決まり。


「30-0」


 またもや相手側にポイントが入ってしまう。


「ラリー戦に持ち込めたのは収穫ですわ。相手後衛の長いボールに注意しましょう」

「なの」


 先輩たちはまだまだ全く焦っていない。

 まだ2ポイント先取されたのみ、全く焦る必要などないのだ。


 次のサーブ、またもや相手サーバーの速いサーブが仁科先輩を襲う。

 この程度のスピードのサーブ、全国大会で経験してきたはずだが―――


「ッ!」


 カン、と言う弱い音がして打球が右に逸れていく。

 完全に力負けしている証拠だ。仁科先輩は悔しそうに下唇を噛む。


(あの1年生のサーブ、外で見ているよりスピードの他にノビやキレがあるってこと…!?)


 そう考えると、わたしのサーブと似たようなものかもしれない。

 わたしだってスピードはそこまで出ているわけじゃない。

 ただ、フォームと打球のノビ、そしてボールの揺れ。そこで勝負しているつもりだ。


 次のサーブは海老名先輩が何とか返したものの、敵前衛がネットに近い位置にボールを落とし。


「ゲーム、野村・柏木ペア。1-0」


 あっという間に、1ゲームを失ってしまう。


「先輩たちー!まだまだこれからですよ!!次のサービスゲームで盛り返しましょう!」


 わたしに出来ることは、精一杯応援することくらい。

 大きく声を出して、流れを相手に傾かないようにする。


 先輩たちは少しだけ額に汗を浮かべながら、それでも笑ってわたしの言葉に反応してくれる。


(負けるわけない…仁科先輩と海老名先輩のペアが、こんなところで負けるわけが無いんだ)


 今の自分には信じることしかできない。

 コートの中でプレーする彼女たちのことを―――しかし。


「フォルト」


 試合は思わぬ方向へ、どんどんと転がっていく。

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