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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第10部 新チーム発足編
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悪いことしちゃ、ダメ?

「藍原、お前はとにかくコントロールを取り戻すことを考えるべきだ」

「夏の大会での疲れもあるでしょうけど、もう一度フォームを見直すところから考えてみましょう」


 試合映像を食堂のテレビに映しながら、出場選手全員で反省会をしていた…その時に。

 監督とコーチから揃ってそうダメ出しされてしまって、わたしは声のトーンを落として。


「あはは。本当ダメですよね…自分でも今日の試合は悪かったなっていうのが分かりました」


 しゅん、となってしまう。


「貴女のフォームは菊池先輩と二人三脚で作り上げたものと聞きましたが、1人でそれを矯正できるんですの?」

「自分のことですから、ある程度は。でも仁科先輩、よくそのことご存知ですね」

「3年生の先輩から聞きましたの」


 仁科先輩がそうやってわたしの事について考えてくれてるの、本当にありがたい。

 そして。


「さすが仁科先輩です!後輩のこともちゃんと分かってらっしゃるんですね」

「きゃー」

「素敵~」


 今日の試合に出場していないながらも反省会に残った1年生たちから、そんな声が聞こえてくる。


(仁科先輩、人望あるんだなぁ…慕う1年生多いもん)


 特に新チームになってから、仁科先輩は後輩たちからかなり人気で、取り巻きみたいな子たちも居るようになっていた。

 仁科軍団とか出来そうな勢い…。

 と、冗談は置いておいて。


「新倉はどうだ。自分の試合、どう思う」


 監督の言葉が、今度は燐先輩へと向かう。


「1ゲーム取られてしまったのは反省点だったと思います。ただ、今日は対戦相手の調子も良く、私自身としては出来ることが出来たのではないか…と感じました。ただ、要所で粘り切れなかったのは反省点だった」


 燐先輩は冷静にそう言うと、右腕の肩辺りを左手で触りながら。


「夏の大会の疲れも無いと言えば嘘になります」

「そうか…。今日は入念にマッサージを受けておけ」

「監督、私がやります」


 小椋コーチが監督の言葉にすぐにそう返す。


「それで…、水鳥」


 ここで話は、文香の方へと移る。


「お前はどうだ。自分の試合に不服だと言っていたが」


 さっき、文香が言っていたこと。

 そのことをどこかで聞いていたのか、監督とコーチが心配そうに彼女の方を見つめる。


「満足していません。サーブ、ショットの精度、根本的な打球のスピード…やることは多いと思っています」

「6-0で勝てた結果についてはどうだ」

「最低限の成果は出せました。ですが、相手のレベルを考えればもっと出来たとも思っています」


 文香の言葉に、監督は顎に手を当て、少しだけ語気を強めて。


「1ポイントも取られず勝つつもりだったのか?」


 そう、投げかける。

 その言葉に、その場の空気が張り詰めたというか、少しだけ凍ったようにも感じた。


「理想ですが、それが出来れば1番です」


 文香の答えは、至って冷静。

 その言葉に戸惑うことも、深く考えることもせず、そう返した。


「お前が上を目指したいと思っているのは分かる。だが、勝てる前提で話をしているなら対戦相手に対して目線を下げ過ぎてはいないか」

「…」


 その言葉に、文香は押し黙る。


「お前と同じレベルのプレイヤーと対戦した時、慢心は足元をすくわれかねない。あくまでお前の役目は試合に勝つことだ。潔癖とまではいかないが、完勝という結果に拘り過ぎるのも考え物だぞ」

「…そんなつもりはなかったのですが、そう聞こえてしまったのなら気を付けます」


 完璧主義の文香のことだ。今の言葉にも、わたしは納得できるところがあった。

 しかし、監督が警告したということは、つまりそういう事なんだろう。

 彼女の警告―――その言葉は、今の文香にどう伝わったのだろうか。


(文香…)


 わたしもね、ちょっとだけ心配だよ。

 貴女がどこか遠くに、わたしの手の届かないところに行こうとしている―――そんな気がちょっとだけしているんだ。それを文香が望んでいるのか、そうじゃないかはともかくとして。





「ああ~、気持ちいいですっ」


 襲い来る快楽に身を任せ、わたしは目を瞑りながらうつ伏せになった全身を少しだけびくんと震わせた。


「そこっ、そこぉ…」


 うん、最高。

 最高すぎて本当に昇天しそう。


 ぎゅー。

 そんな音が聞こえてくるようだった、


「藍原さん、そんなに気持ちいい?」

「最高です、海老名先輩」


 これをやってくれてるのが、海老名先輩なんだもんなぁ。

 本当に堪らない。

 こんな時間がずっと続けばいいのに。


「姉御~、変な声上げないでくださいよ。別にえっちなコトしてるわけじゃないんスから」

「いやぁ、これはもうえっちなコトと言っても過言ではない…」

「それは過言だと思うの」


 万理の言葉に、本能のままに返したことを海老名先輩に否定される。


 そう、今は試合での疲れを取るためにマッサージ室でマッサージを受けている最中。

 わたしは海老名先輩にマッサージを受けていて、万理は音海さんのマッサージをしているところだった。


「でも藍原さんが気持ちいいって言ってくれて嬉しいの」

「海老名先輩にされることならなんでもご褒美ですよ~」

「ほんとぉ?」

「ホントです~」


 そう言うと、海老名先輩は今までと少しだけ動きを変えて。


「じゃあ、ちょっとだけサービスしちゃおうかな」


 その言葉とともに、海老名先輩の身体がわたしの身体に密着される感覚が、背中から伝わってくる。


「せ、先輩!?」

「えへへ、私もこうやって密着させた方が楽にできるから…」


 いやいや、こんな密着されると。

 背中には(いや)が応でもでも先輩の大きな双丘が当たって、凄く柔らかく、弾力があって、とにかく大きなそれの事しか考えられなくなってしまう。


「む、胸が当たってますよっ…」

「分かってるの」

「いいんですか!?」

「藍原さんになら…。それに」


 すると先輩は密着させていた身体をさらにわたしに密着させて。


「当ててる、って言ったら…藍原さんは、イヤ?」


 わたしの耳元で、ささやくように息を吐きだし、小声でそう言う。


「も、勿論イヤじゃないですけどっ…」


 そんな耳元で小さくささやかれると、なんかこう…!本当にダメなことをしている気がして!

 海老名先輩がわたしだけを見てくれているような、そんな気分になってしまう。


「じゃあ、いいんだよね?」

「先輩、息が耳に当たって…」

「だから、当ててるの」


 先輩のささやきは悪魔のささやきだ。

 いや、天使なのか?分からない、分からないけど…。


(このシチュエーション、すっごくえっち…!!)


 胸も密着されてるし、耳元で甘い言葉をささやかれるし…!

 こんなの普通の理性を持っている人間なら絶対に耐えられない、今すぐにでも先輩を抱きしめてぎゅーってしたくなる。

 いや、無理矢理にとは言わないけど、でも先輩だってこんなことしてくれるんだから、わたしだってやりたいことをやりたい!


 自分の頭がへにゃへにゃになって、目がぐるぐるとまわっているのが分かる。


「藍原さんが気持ちよくなってくれるなら、私なんでもするよ…?」

「それは反則ですっ!」

「だから藍原さんも…」


 先輩が、そこまでささやいてくれたところで。


「あのー、こほん」


 さすがに。


「ここは二人の部屋じゃないので、さすがにそれ以上はダメだよ?」


 燐先輩をマッサージしていた小椋コーチから、『待て』が入った。

 いや、さすがに当然のことなんだけど。


「むむ…残念なの」

「わ、わたしもさすがにえっち過ぎると思いましたよ…?」

「藍原さんは、えっちなの嫌い?」

「き、嫌いじゃないです…」


 どうしたんだろう、今日の先輩すっごく積極的…。

 だけど、コーチの言う通りここではこれ以上はダメだ。

 いや、ここじゃなかったらこれ以上のことをしていいのかって言われると分からないけれど。


「有紀…」

「藍原さん…」


 文香と燐先輩からも、白い目で見られる。


「わ、わたしのせいですか!?」


 今のは海老名先輩も同罪では…。


「いやぁ、ここはえっちなマッサージするところじゃないのでちょっとは遠慮していただきたいッス」

「そうだよね、今の海老名先輩が悪いよね?」

「私が悪いの…?」


 先輩のもの欲しそうなそんな声に。


「わ、悪くはないです…」


 たじたじになって、何も言えなくなってしまう。

 今回だけはわたしは悪くないって分かるのに、これ以上海老名先輩を責められないのは、わたしもそのシチュエーションを楽しんでしまっていたから。

 それに。


(この人に可哀そうなことするのは、わたしの信条が許せない)


 海老名先輩、メッチャかわいいし。

 かわいいは正義なんだ。


 そんなこんなで―――練習試合が行われた1日は、そうやって夜が更けていった。

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