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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第10部 新チーム発足編
361/385

初陣、練習試合

 練習試合、当日。

 その日は相手校を白桜に迎え入れて、いわばホームでの試合という事になっていた。

 対戦相手は都大会でもぶつかる可能性のある強豪校―――鷹野浦中学。

 新チームの初めての対戦相手として、篠岡監督はこの学校を選んだ。


「元々練習試合の要請は来ていた。他校とのスケジュールの関係で鷹野浦になったが、こちらとしては新戦力の見極めと、今の段階で都内でも強豪校と呼ばれる鷹野浦相手にどこまで戦えるのか見てみたい」


 監督が前日に試合の打ち合わせをしたとき、私に言ったのはそんなことだった。


「スタメンはもう考えてあるんですか?」

「とりあえず現状で1番勝てる確率の高い選手を選んだつもりだ」

「初めての対外試合、それでも結果に拘るんですね」

「秋大までそれほど時間があるわけでもない。ただでさえ白桜(ウチ)は全国まで戦って他校より新チームの発足が遅れている。勝てなくても内容が…とは言いたくないな」


 どんな時でも勝利(けっか)を追い求める―――それが、この人が選手たちに求めるテニスなのだろう。


「仁科さん、音海さん、頑張ってね!」

「勿論ですの!」

「わ、私なんかができることなんて、限られてると思うけど…がんばりますゅ―…」


 音海さんの言葉は最後、消え入りそう…というか、ほとんど何も聞こえなかったけどとりあえず返事をしてくれたのだから良しとしよう。


 ダブルス2―――私がコート内に入ったのはこの2人の試合。

 練習試合は大会形式と同じ、まずダブルス1・2、シングルス3の試合を同時に行う。

 そこからシングルス2、シングルス1と試合を行っていくのだが、途中でどちらかが3勝しても試合は続行される。


(まあ練習試合だからね)


 勿論、理想は5勝0敗…だけど、新チームになって初めての他校との実戦。

 何が起きるかは全く分からない。特に気になるのがダブルス―――ダブルス2の仁科さん・音海さんペアと、ダブルス1の三浦さん・山本さんペア。


(新チームになった白桜(うち)の最重要課題がダブルス)


 そう、夏までに戦っていたダブルスのメンバーは、3組とも3年生が入っていた。

 山雲・河内ペア。菊池・藍原ペア。熊原・仁科ペア。

 その3組ともが、3年生の卒業とともに解散されたことになる。

 つまり、夏戦っていた戦力はダブルスには1組も残っていないことになる。

 これは由々しき問題だ。


(そして監督は、この最初の実戦でダブルス2にこの2人を送り込んだ)


 仁科さん・音海さんペア。

 全国でもダブルスを経験した仁科さんを引き続きダブルスで起用したのは理解できるけど、ここまで実戦経験皆無、2軍から新しく上がってきた音海さんを仁科さんのペア相手に据えたのだ。


 ―――監督の試行錯誤の色が見える


(この2人もそうだけれど…)


 三浦さん・山本さんペアもどこまでやれるのかが心配だ。

 夏の大会前から2年生同士でペアを組んでいて、ペアの熟練度、経験で言えば他の子たちより1つ頭抜けた存在になる。ただ―――


(夏の大会に全く出ていない2人。実力不足なのでは?と思ってしまうのも私だけではないはず)


 そして1つ、気になることが。

 この練習試合のダブルスに、河内さんを起用していないのだ。


(彼女はシングルスをやりたいという意思を見せて、練習でもシングルスの練習をしていた)


 彼女自身の意志を考慮してなのか。

 それとも監督は。


 今の河内さんに『選手としての魅力を見出していないのか』―――


(どちらにしろ、新チームの船出にしては不安要素が残る)


 だけど、今それを考えても仕方ない。

 今は今居るメンバー、選ばれたメンバーで戦うしかないのだ。


 ダブルス2の2人がコートの前で審判役の子の声を聞いて一例、相手選手と握手をする。


「お願いね。仁科さん、音海さん…」


 経験もゼロ、チームとしてのまとまりも欠いている。

 そんな中で、まずは試合に勝つこと。それが目の前の困難を切り開いていくただ1つの道だ。


「音海さん、貴女顔真っ青ですわよ?」

「ご、ごごごごめんなさい仁科先輩…私、メッチャ緊張しいで…」

「そんなんで大丈夫?これはただの練習試合ですわ、力抜いて」

「そうですよね、こんなところで緊張してたら公式戦なんて。私なんかがスタメンに選ばれたばっかりに…」


 本当、大丈夫かしらこの子たち。





 ―――シングルス3、試合コート


 コートに向かって大きく両手を広げて、息を吸い込みふぅ~と吐き出す。


(よし、大丈夫。いつも通り)


 選ばれたんだ。

 わたしが、この新チーム初陣のシングルス3に。


「気分はどうだ」

「はいっ!最高です」


 この試合、ベンチに座るのは監督。

 直接、わたしの試合を見たいってベンチに座ってくれているんだ。

 負けられない。

 この席を任された重み、期待されることの少しの心地よさ。


(後ろには、文香と燐先輩が居る)


 しかし、ダブルス2試合を含めてもしわたしがここで負けるようなことがあれば一気に負けが確定する。

 シングルス残りの2試合を勝ったとしても、それではチームとしては敗北と言うことになる。


「思いっきりラケットを振るってこい!お前のテニスを見せてくれ」

「勿論です!!」


 監督にそう宣誓すると、わたしは駆けるようにコート内へと入っていく。


 ―――そして、


 後ろに集まっている、白桜の応援団に向かって。


「不肖藍原有紀、この試合も思い切ってボールを追いかけていくんで、応援のほどよろしくお願いします!!」


 ラケットを持つ左手を掲げ、彼女たちにも大きな声でそう告げる。


「任せたッスよ、姉御~!一発やっちゃってください!」

「藍原さん、私たちがついてるの~~」


 夏の大会でも聞いた、いつもの応援がわたしの耳に入ってきて、ああ、戻ってきたんだなと感じる。


「すごい応援だね」


 鷹野浦の相手選手は、少しだけ苦笑したように吹き出して、わたしの前に立つ。


「頼もしい仲間たちです」

「応援は負けてるけど、この試合は私が勝たせてもらうよ」

「はい、どんとこいです!」


 相手プレイヤーに食って掛かるようにそう言って、ふんと鼻から息を吹き出す。


「礼っ!」


 その掛け声とともに。


「「よろしくお願いします!」」


 わたしと相手選手は、大きな声を出して深く頭を下げる。


「いい試合にしましょう!」


 そして、試合前に相手選手と握手。

 テニスの試合の基本だ。


「貴女、本当に元気良いわね」

「それが取り得ですから!」


 ぶんぶんと握った右手を振って、相手選手にまたも苦笑される。

 初めての相手だとこういう反応されることあるんだよな…なんてことを考えながら、サーブ位置へと下がっていった。

 挨拶前に行ったじゃんけんで、サーブ権を得ている。

 サーブが得意なわたしにとって、このサーブ権は大きい。1ゲーム目を取れれば、試合の主導権を早速握ることができるからだ。


「ふう」


 軽く息を吐きだす。


 ボールをコートに2回、バウンドさせて右手でしっかりと握る。


(視界は良好、大丈夫。ちゃんと応援(みんな)の声も聞こえてる。感じは悪くない)


 3種類あるわたしのサーブの中から、1つを選択する。

 新チーム、最初の試合の最初のサーブ。何から入ろうか試合前、ちょっと考えたけれど。

 やっぱり最初は、これを打って勢いに乗りたい。

 これが相手コートで敵選手を抜けていけば、きっと気持ちよく試合に入れる。


(いける―――)


 サーブの姿勢に入り、もう一度相手コートを見る。

 狙うはサービスエリア…多少甘くても良い、自分のサーブを打ち込むんだ。


 右手からぽーんと、上へ。

 ボールを高く投げ込んで―――


(打つのは…フラットサーブ!!)


 思い切り、叩く!!





「良いッスよ姉御、ボールは来てる!自身持って!」


 姉御の試合―――シングルス3を応援する選手は多い。

 やっぱり1年生にしてシングルスを託された彼女のプレーが気になるのだろう。

 ウチもその1人だし、仲が良いことを差し置いてもこの試合は見ておきたかった。


 ―――試合は現在、3-1で姉御のリード


 試合の主導権は握っている。

 いるのだが。


 気になるところがある。


(全体的にコントロールがバラけてる)


 サーブもフォルトが目立つし、相手コートのラインを越えてアウトになる打球が目立っている。

 取られた1ゲームはボールが暴れてコートに入らなくて奪われた1ゲームだ。

 姉御もそのことは分かっているようで、途中からラインギリギリを狙う打球を打たなくなってきた。


(だけど―それでいいんスかね)


 言い方は悪いけれど―――その戦法、ここでは通用しているけれど。

 地区予選、都大会。

 そこで戦っていく上で、そのやり方で、他校のシングルスプレイヤーに…通用するんスか?

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